⓺吸血鬼?
魔導戦というちょっとしたイベントも終了し、夕暮れとなって魔弾を蹴る練習はお開きとなり、雉幡さんと猿島さんはオレに別れの挨拶を告げてから二人一緒に帰っていった。
戌井さんの話によると彼女たちの実家が県外のために学校の寮に住み、同じ部屋で暮らしているらしい。
「本当に零一様は素晴らしいお人でしたね」
「〈暴風弾〉を殴って壊し、三対一という圧倒的不利な魔導戦にも勝利。まさに完璧でしたね」
二人は夢中になってオレの話題を口にしている最中、猿島さんが何かに気づいた。
「雉幡さん、あれはなにでしょうか?」
猿島さんが見つめる方向に雉幡さんも目をやると、電柱の影で人と人なのだろうか、ゴソゴソと何かが蠢いていた。
「あ、あれは……」
逢引ではありませんか!? と雉幡さんは声にはなんとか出さずに心の中で叫んだ。
だが、猿島さんの方がそれをわかっていない様子で、雉幡さんに訊いた。
「あの女性二人は何をしているのでしょうか?」
「……女性二人……?」
目を凝らしてよく見ると、確かに女性と女性が抱きつくような恰好をしていた。
それでも雉畑さんの思考は逢引のことから離れておらず、頬を赤く染めていた。
「ど、同性でも愛し合っていれば、何も問題はあ、ありません! さ、猿島さん、お邪魔しては行けませんから物音立てずに通りましょう」
「……?」
雉幡さんは焦りながら猿島さんの手を取り逢引をしているカップルを横目に歩くも、猿島さんは急に止まって言葉を出した。
「血を……吸っていませんか?」
「も、もう何を言い出すかと思えば……そ、そのような激しい愛を見ては……」
雉幡さんが恥ずかしながらもチラリと見ると、電柱にもたれかかっていたのは中部魔導高校とは違った制服姿の女の子で、その首から血がだらりと流れていた。
そして、その女の子を抱いていたもう一人の金髪女性の口は、血で真っ赤に染まっていてそれを指で軽く拭う。
「な、何をしていますの!!」
雉幡さんが叫ぶと、金髪女性がこちらに見向きもせず飛行魔導を使用したのか、空高く飛んでいき瞬く間に夕焼けの空に消え去った。
「な、なんなんですの一体……」
「それよりもお医者様を呼びましょう!」
「え、えぇ……そうですわね!」
雉幡さんは上着のポケットから携帯端末を取り出して救急車を呼ぼうとしたが、
「や、やめて!」
血を流した女の子から止められてしまった。
「ですが、血を流して」
「やめてって言ってるでしょ!!!!!」
二人の行為を絶叫で断った女の子は、首の痛みを堪えながら立ち上がってよろけながら歩き始めた。
「そうか、そんなことが昨日あったのか」
翌日の登校時に雉幡さんと猿島さんからそんな相談を受けた。
「はい……警察にも言おうとしたのですが……呆気に取られてしまって」
「そのまま帰ってしまったのです……」
少し気落ちして話し終えた二人は俯いてしまう。
「まぁでも、雉幡さんと猿島さんに被害なくて良かったんじゃないか?」
「零一様……」
「あぁ……なんというお優しい心遣いなのでしょうか……あたくしたちにそんなお言葉をかけてくださるなんて」
うっとりとした瞳でオレを見る二人はなんとも嬉しそうにしているので、ひとまずは元気は上向きになったようだ。
「なるほどなるほど~? これは事件の匂いがしそうだね~?」
柴咲がオレたちの会話を聞いていたのか、興味深げに登校してくる。
「「おはようございます。柴咲さん」」
「うん、おはよう二人とも」
「おはよう柴咲」
「え、あ、うん、おはよう、柊君」
オレを見ずにそっぽを向いて挨拶をした。
「誰に挨拶をしているんだ? オレはこっちだぞ」
「うん……わかってる……」
ならこっち見て言おうな柴咲。
「そ、それよりも! 今の話からすると、その女の子の血を吸ったのは吸血鬼だね」
「吸血鬼?」
「で、ございますか?」
いまいち理解出来てない二人に、オレが補足を入れた。
「吸血鬼は、生命の根源とも言われる血を吸い栄養源とする、蘇った死人または不死の存在だよ。悪魔だとも言われてるな」
オレの補足にようやく理解を示したが、雉幡さんが一つの疑問を投げかけた。
「ですが、血を吸っていたのは人間でしたよ? 飛行魔導を使用もしてましたから……」
「雉幡さんの言う通りで、綺麗な金色の髪を靡かせたお人でしたね」
「レイレイくんおはよー!!」
「まるで北上様のような……綺麗な……金色の……」
元気に挨拶をしてくる北上先輩を見て、猿島さんは言葉を詰まらせる。
「んん? アタシの顔に何かついてる? もしかして、あまりの可愛さに見惚れちゃった?」
北上先輩の頭上に☆きゃるん☆ と携帯端末から立体映像で表示して猿島さんに訊く。
「い、いえ、北上様と一緒の髪色をした人を、昨日お見掛けしただけでございますわ」
「そうなんだ! アタシと同じ髪色なんてラッキーハッピーな人がいたんだね! でもね……」
ニコニコとした笑顔から一変して、暗い表情になる北上先輩に猿島さんはごくりと息を呑み込んだ。
「北上様じゃなくて、フェリスちゃん! オーケー?」
「は、はい! フェリスちゃん様!」
猿島さん、北上先輩のノリについていかなくてもいいんだぞ。
「うーん、ちょっと可愛さが足りないけど、合格! それじゃ授業遅れちゃうから先に行くねー!」
北上先輩は足取り軽く自分の教室に向かった。
「ふーむ。猿島さん」
「はい、なんでしょうか柴咲さん?」
「北上先輩が昨日の吸血鬼なのかなー? さっきの態度から見ると、なんか様子が変だったから」
その質問に首を振って答えのは雉幡さんだった。
「身長が違いすぎますので、それはないかと」
「じゃあ、なんでまごついたりしてたのかな?」
「え、っと。あまりにも似ていたので、昨日のことを思い出してしまったのです」
「なるほどね。メモしておこう」
柴咲はタブレット端末を取り出して、簡易的にメモを取っていく。
「ふむ……よし、決めた! 今日の授業が終わったらそこに行ってみよう!」
「新聞部は精が出るな。頑張れ」
オレはそれだけ言って教室に向かおうとしたが、がっちりと肩を掴まれてしまった。
「お手伝いよろしくね柊君!」
「なんでオレが……」
「こんなか弱い少女たちだけじゃ危ないから」
どこかどうか弱いのか知りたいのだが?
「零一様……」
「ダメでしょうか? 学校の通学路であんなことがあっては気になってしまうので……」
オレは大きなため息を出して頷いた。
「それじゃあ、帰りも正面玄関で集合ということで」
「「はい、わかりました」」
吸血鬼調査にいざ行かん




