⓹〈乱れ落葉〉
魔導戦ルールが、試合時間は二十分。勝ち負けの決め方は戦闘不可能か、参ったと言って戦わない意思を伝えること。飛行魔導の禁止。殺傷性が高い魔導の使用禁止。に決まり、オレと戦う三人は魔導デバイスを操作して準備を始めた。
「もう、どうなっても知らないよ?」
「零一様と魔導戦というのは至極幸せですが、戌井の家の名に恥じない戦いをお見せしますわ!」
「私も準備完了です」
「じゃあ、始めましょうか」
三対一の魔導戦が始まった。
「はぁぁぁあ!」
先制攻撃は柴咲からだった。
オレは魔弾を撃って威嚇するが、柴咲は軽やかに避けて近づいてくる。
「〈韋駄天衝〉!!」
魔力付与された蹴り上げか、全く、懐かしいことを。
「な!?」
防御魔導を展開してオレは柴咲の蹴りを受け止める。
ただ、それがわかってかのように、戌井さんから氷の斬撃が飛んできた。
「〈牙雹〉か、なら!」
オレは今だ力が入っている〈韋駄天衝〉を反発力にして〈牙雹〉を躱してみせた。
「凄いですわ零一様!」
「ですが、これはどうですか! 〈雷波一閃〉!」
栞さんがオレに向けて放ったのは雷光輝く砲撃魔導。魔力がそんなに注がれていないので弱くはあるが、当たれば確実に気絶させるほどには出来ている。
「〈蜥火弾〉」
オレは卓球ボール並みに小さくした魔弾を〈雷波一閃〉と相殺するように撃った。
魔弾と魔導砲撃がぶつかり合うと、互いに打ち消されていく。
「わかってはいましたが、手強いですね……」
「まだまだ行きますわよ零一様! 〈冷気霧〉!」
戌井さんから発動された冷たい霧は、オレを包むように拡散していき視界全てが真っ白な世界となった。
さて、周りが見えないが、どこから仕掛けてくるか見ものだな。魔眼で見てもいいが、至極つまらないのでやめておこう。
「……そこか」
何も見えないが、なんとなくで霧に手を入れると腕らしきものを掴んだので引っ張ると、魔導を使用する寸前の栞さんが霧の中に入ってきた。
「嘘……なんでわかったの?」
「まぁなんとなく。それと、あの時にオレの魂を少々混ぜたから感じ取れやすかったというのもあるな」
「え!? ほ、本当なのそれ?」
「栞の魂は呪詛によって輝いていたから、その変わりになる力にオレの魂を混ぜたんだよ」
オレの発言に、見る見る顔を赤らめていく栞さん。
「え、やだ。どうしよう。ってことは……つまり……私の心は……零一くんの……あぁぁぁ……」
どんなことを思ったのか知らないが、いきなり嬉しそうに気絶してしまった栞さんをオレは抱きかかえて、闘技場の床で眠らせた。
栞さん気絶して脱落。
「後二人だな」
「へっへー、問題です」
四方八方から柴咲の声が聞こえ、問題を出してきた。
「ボクはどこにいるでしょうか?」
「そうだな」
こういう時は案外。
「上にいるだろ?」
「わ!?」
上に向かって魔弾を撃つと、驚く声が聞こえたので正解したようだ。飛行魔導禁止なはずだが……そうか、体育の授業みたく高く跳躍したのか。
「タイミングは全部台無しだけど……!」
柴咲は魔力を集めているようで、霧が乱れ動き出した。
「行くよ柊君! 第十一式柴咲流格闘魔導〈乱れ落葉〉!」
高く飛び上がることで落下する速度を上げてのかかと落としの格闘魔導か……面白い!
「やぁぁぁぁぁ!!!」
「ふん!!」
ドオオオォォォォン、と激しい音が響き、霧が吹き飛んだ。
「もう、少しだったな柴咲」
「う、ぐっ!!」
苦い顔をしている柴咲のかかと部分を片手で受け止めてオレは笑う。
「それと、反則だな柴咲は。あの魔導は危ないぞ」
「柊君ならこれぐらいしても死なないかと思って」
人を見る目があるのは新聞部だからだろうな……ところでなぜ新聞部なんだ柴咲?
「それよりもいいの? ボクのかかと持ったままだと、戌井さんにやられちゃうよ?」
「そこですわ零一様!」
オレの隙をついて戌井さんが魔弾を放ってきた。
「柴咲、動くなよ?」
「へっ!?」
かかとを離して柴咲を抱きかかえ、オレはその状態で魔弾を蹴り上げた。
「う、羨ましい!! ではなくて、参りましたわ零一様。これ以上魔導をどう使っても勝てる要素が見つかりませんから」
戌井さんはお手上げだと、両手を上げて降伏した。
「勝者、柊零一!!」
奏が高らかに宣言してオレの勝利で魔導戦は終わった。
「三対一でそこまでやるかね……」
「「お見事ですわ零一様ー!」」
なかなか面白い魔導戦だったな。
素早く戦いを終わらさせるのも大事です。




