⓸ちょっと魔導勝負しないか?
今日の授業が全て終了し魔弾を蹴る練習をする為、闘技場にオレと栞さんと恭介の三人で先に準備を始めていた。
「で? 試してもらいたいってのは?」
「これだよ」
持参した手提げバッグを恭介に投げ渡した。
「中に入ってる物を試してほしいんだよ」
「な、なんじゃこりゃ……魔導デバイスじゃねーか……」
手提げバッグから出したのは短銃型の魔導デバイス。
それを手に取った恭介はまじまじと見ている。
栞さんも恭介と同様に好奇の眼差し見ていたが、あることに気づいた。
「見たことないデザインですね……どこの会社の魔導デバイスなんですか?」
「オレが暇つぶしで自作したんですよ」
そう言うと、二人は驚愕の面持ちで再び短銃型魔導デバイスを見る。
「うぇ!? マジかよ……売り物になるぞこれ……」
「桂木君の言う通り、これだけ精巧ですと高値になりますよ」
「いや、売れないぞ」
「なんで?」
「撃ってみたらわかる」
そんな話をしていたら部活動に休みの断わりを入れてきた奏たちが闘技場に姿を見せ、魔弾を蹴って分裂させる練習が始まった。、
「なんだこれぇぇぇぇぇ!!!!」
だが、すぐに中止になる程の事が起きてしまった。
恭介に渡した短銃型魔導デバイスからは想像できないほどの大きさに膨れ上がった魔弾が出来上がってしまったのだ。
原因は恭介が悪いのではなく、魔力出力が極めて高い暴風弾の魔力文字を魔法文字と混ぜたら短銃型で撃てるかどうか試してみたのだが、やはり失敗した。
「うわーー助けてーーー!!! ボクの体が飛んでくよー!!」
「きょ、恭介君早く止めてーーー!! 姫子のせいであたしまで飛んでっちゃうーー!!! あぁぁぁぁぁ!!」
おかげで闘技場内が台風直撃でもしたかのような風に見舞われていた。
「れ、零一ぃぃ! た、助けてくれー!」
「はいはい」
激流のように吹き荒れる中を歩き、膨れ上がった魔弾を殴って破壊した。
「す、凄いですわね……」
「えぇ……でも本当に……零一様は」
「「かっこいいですわ~」」
そんなにかっこいいものなのか? 魔弾を殴って破壊しただけなんだが。
「零一様なら不可能なことはありませんわね!」
戌井さんが口元に手をやって高い笑いをして勝ち誇ってるが、誰と戦っているんだ。
まぁいいか、ほっとこう。
「すまなかった恭介。少々遊びに興じすぎた」
「あれで遊びなのかよ……」
ちょっとした事故が起きてしまったが、その後は指で魔弾を撃つことにして練習を再開させた。
「それじゃ、柴咲さっき教えて通りに蹴ってみるといい」
オレは恭介に合図をして柴咲に向かって魔弾が放たれた。
「えっと、足に硬化魔導を纏わせて、硬化量は少しだけ柔らかくする。そして、魔弾の中心を蹴る!!」
柴咲のしなやかでありながら鋭い蹴りが魔弾とぶつかると、惜しくも蹴りが勝ってしまい魔弾が分解されてしまった。
「なんかできそうだったー!」
「姫子すごーい!」
「惜しかったな柴咲。魔弾の中心から少しだけズレた箇所を蹴ったな」
柴咲は悔しそうに声を上げた。
「えぇ~!? そんなに精密に蹴らないとダメなのかー……くそー!」
「それでも鋭い蹴りだったな。格闘術でも習ってるのか?」
「え? あぁそうか、柊君に話してなかったね。ボクの家は格闘魔導の道場なんだよ」
格闘魔導とは懐かしさが蘇ってくるが、それと同時に珍しいというのも頭をよぎる。
魔法だろうが魔導だろうが、格闘術に魔力を付与して戦う者はそんなに多くはない。
魔王だった世界でも二人ほどしか対峙したことがなかったぐらいだ。
こちらの世界で少ない理由は知らないが、あちらの理由としては格闘術をするほど接近しているなら、剣などの武器を使うか、そのまま魔法を使えばいい。というのが主な理由になるからな。案外こちらも同じ理由かもしれないな。
「そうだったのか。なら柴咲は、コツさえ掴めば思い通りに蹴れると思うぞ」
「ホント!? じゃあドンドン撃ってよ桂木君!」
柴咲は足を下から上へ素振りでイメージしながら恭介に魔弾を頼む。
「さて、戌井さんたちは……」
「はっ!!」
戌井さんが掛け声と共に放った蹴りは、栞さんが撃った魔弾を見事に分裂させていた。
さすがというべきか、新入生代表に選ばれるだけはあるな。硬化魔導の硬化量、蹴るスピード、魔弾の真芯に当てる的確性。どれをとっても完璧に近かった。
「お見事です戌井さん」
「零一様の動画を二十八時間見続けた結果ですわ~!!」
理由がとんでもない気がするが、それでも綺麗に分裂したな。
「戌井さん」
「なんでしょうか零一様?」
「ちょっと魔導勝負しないか?」
オレの言葉に戌井さんは狼狽えた。
「え、えぇ!?」
これだけ魔導を上手く扱える者と戦いたい欲が出てしまった。
「それじゃ、私も参戦してもいいですね? 零一くん?」
「もちろん。恭介はどうする?」
「俺はパス。闘技場じゃ狭すぎて得意魔導が出せないから」
「ボクは戦ってみたい!」
「あたしは嫌な予感しかしないからパス」
雉幡さんと猿島さんも見学していると申し出たので、四人で魔導戦をすることにした。
「それで、ルールはどうするのですか? 二対二で――」
「いや、一対三でいいですよ。飛行魔導は使用禁止にしますか?」
「ちょ、ちょっと待て柊君! 一対三なんて無謀過ぎない?」
「別にいいぞ? オレは防護魔導と魔弾しか撃たないから」
栞さんを除く二人は信じられないといった面持ちでいる。
〈本当に大丈夫? 契約のこととか……〉
オレを心配してか、栞さんが魔法念話で会話してきた。
〈大丈夫だよ〉
魔導のことに関しての契約は殺すなぐらいなので、戦うことぐらいはどうってことはない。
〈そう。なら手加減しないでいい訳だ〉
〈どうぞ。お好きに〉
「じゃあ、始めるか」
いざ尋常に勝負!




