⓶わたくし達のクラブ活動室ですわ!
「あーもう、恥ずかしかったー!」
「誰のせいだと思ってるのさ!」
四時限目の前の休み時間。奏たちが憤慨しながら着替えから教室に戻ってきた。
「元はといえば、柊君がボクの魔導を見抜くのがイケないんだよ~」
「自業自得だ」
オレの言葉に奏は大きく頷き、柴咲はジト目で見てくる。
「でもさ、柊君」
「なんだ?」
「すっごい見られてるよ」
柴咲が指さす方向に目をやると、戌井さんが体育の授業で応援していた二人を引き連れて、オレたちの教室を覗いていた。
そして、オレの目線に気づいた戌井さんは手を振ってくる。
「零一様、お時間宜しいでしょうか?」
「あ、あぁ、いいけど」
席を立って戌井さんに近寄ると、他の二人は顔を赤らめて互いの手を握り合って喜んでいる。
「で、どうした?」
「こちらのお二人を零一様にご紹介いたしたくて、一年B組にお邪魔したのです」
「そういうことか。えっと、左が一年C組の雉幡英里子さんで、右も同じく一年C組の名前は猿島奈々さんでいいよな?」
オレが二人の名を呼んだ途端に驚喜を露わにした。
「きゃああああああ!!! わたくしたちの名を知っているなんて感激です!」
「なんて光栄ことでしょうか! う、嬉しすぎて、あたくしは舞ってしまいそうです!!」
「良かったですねお二人とも。飛鳥も嬉しく思いますわ」
戌井さんは涙をハンカチで拭きながら、本当に舞い始めた二人に祝福していた。
「それだけか?」
「いえ、それだけではありません。交流を深めるべく、お昼ご飯をご一緒させてほしいのです」
あぁ、そういうことか。
「別にいいけど、どこで?」
「もちろん!」
「わたくし達の!」
「クラブ活動室ですわ!」
息の合ったポーズをして言う三人の周りには、煌びやかな謎の光が出ていた。
そのポーズに、一年B組の生徒たちは若干引き気味で拍手が起こる。
「あ、じゃあ、ボクもいいかな?」
柴咲が手を挙げてやってきた。
「あら? 貴方は零一様に見事なパスをなさったお方ですね。初めまして、戌井飛鳥です」
「ボク、柴咲姫子。よろしくね」
(((女の子でしたのね!?)))、と聞こえてきそうな顔をした三人は、挨拶をするためのお辞儀を忘れていたらしく、波のようなお辞儀をしていた。
「どこかの誰かさんがお昼奢ってくれなくてさー困ってたんだー」
「おのれが悪いんじゃい!」
どこの誰なんだ奏。
「ぐ、ぐるじい! ギブ! ギブ!」
後、首を絞めるならもうちょっと下だ。
「柴咲さん……でしたね。雉幡さんのお家のメイドが学校に常駐しておりますから、もちろんいいですよ」
「や、っだねー!」
「じゃあ、あたしも行く」
「えぇ是非とも」
「俺は?」
「えぇ、もちろんいいですよ桂木さん。では、零一様またお昼休みに伺いますので」
そう言って戌井さん達はお辞儀をして、各自の教室に戻って行った。
「よーしお嬢様の食事が食べれるぞー!」
首絞めから解放された柴咲が喜んでいる所に、恭介が質問した。
「雉幡さんってそんなにお嬢様なのか? まぁ、メイドが常駐してるとかすげーこと言ってたからお嬢様なのはわかったが」
「猿島さんもだよ。戌井さんに次ぐお嬢様たちだね。雉幡さんは魔導デバイス製造会社、グレモノス社の社長令嬢。猿島さんは流通グループの統括持株会社で、ネオリオモールって大型ショッピングセンターとか手がけてる社長令嬢だよ」
やけに詳しい情報をオレ達に話す柴咲に、奏が呆れ声で言った。
「さすがは新聞部。人の情報がスラスラ出るね」
「いやー、これぐらいは本人から訊けることができるから普通普通」
謙遜しているように見えるが、褒められてニヤケてしまっている。
「まぁ、新聞部らしい事と言えば、ジャーン!」
携帯端末を操作して、その画面を堂々と見せてきた。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!」
奏が体操着から制服へと着替えをしているシーンだった。
しかも動画で。
ふむ、運動部なだけあって体はちゃんと引き締まっているんだな。余計な肉はないが胸は大きく見え――
「まじまじと見るなー! 恭介君も!」
顔を茹でダコのように真っ赤にした奏に両手で目隠しをされてしまった。
「へっへっへー。さっきのお返しさー。消してほしくば」
「ほ、ほしくば?」
何も見えんな、魔眼でも使うか?
「柊君の秘密を教えてほしい!」
やめよう。使うと面倒くさい事になるな。
「それを本人の前で言う?」
「言わないけど言う!」
「なぁそれよりも、早く目隠しやめてくれないか? そろそろ授業なんだが」
「ダメ!」
もう見ないんだがな。
「それで? 交渉に応じるかい? 奏っち」
「本人の目の前で応じる訳ないでしょ! でも消して!」
埒が明かないな。仕方ない。
「どんな秘密を知りたいんだ?」
オレの顔を覆う奏の手をどかして、柴咲に訊く。
「なぜ、柊君が生徒会長と仲良しなのかを知りたい!」
柴咲はオレに指さして言うが、 オレ達は動揺すらしなかった。
「ん、んん? どうして白い目で見られてるのかな?」
さっき柴咲が言っていた普通過ぎる事を訊かれるとは思わなかったな。
「友人になったからだけど」
「まぁそうだな。友人になれば仲良くはなるよな(朴念仁って神沢先生が言ってたが、本物だなこりゃ。黙っておこう)」
「あれれー? 普通に答えちゃった……おかしいな……情報と違うぞ……?」
「はーい、姫子ー。動画消そうか(生徒会長の邪魔をさせてたまるか!)」
恭介と奏は何か思惑を含んで話しているが、まぁいいか。
「え? えー!? 訊かれたら嫌なことじゃなかったのー?」
「どこじゃい!」
どこから出したのか、奏が何枚か丸めた紙で柴咲の頭を叩き、スパーンと良い音が一年B組に響いた。
そうなのか奏!?
サブタイトル決めてなかったんですけど、一話の中で出てくるセリフにしました。




