⑲色々吹っ切れた女は怖いのよ?
「さてと、色々と直しておくか」
オレは邸内を歩いて吹き飛ばした門や、大穴を開けた壁を魔法で直していく。
すると、昼間だとというのに空から妙に明るい一筋の光が、目の前を照らした。
「お疲れ様。レイスティール」
その光から舞い降りてきたのは、ヴェレンティアナだった。
「いいのか、地球外の女神が地に降りてきて?」
「今回は特別に許可をもらったわ。見られてもいいように、貴方と同じ体の大きさにもさせてもらったしね」
天界の神装束をひらひらと見せるヴェレンティアナ。
「で、何しに来たんだ?」
「もう、地上の私もよく言ってるけど、ちょっとは褒めなさいよ」
「いいから早くしろ」
「え~そんなこと言っていいの~?魔眼の制御を今後一切なしにしてあげようと~思ったんだけどな~?」
「ヴェレンティアナは美しいな。あぁ本当に美しいな。今まで出会った女神で一番美しいと言えよう」
早口で褒めるオレに、ヴェレンティアナは若干引いた笑いを見せながら、魔眼の制御が書かれた天界文字をオレの目から抜き取り、払い消した。
これでいつでも魔眼が使えるな。
「私を褒めるより、魔眼の方が大事なのね……」
「当たり前だ。魔力だけしか見えんのは不憫すぎたからな」
「だと思ったから解除しにあげたのよ。それに」
「それに?」
「呪詛の分子はまだ学校の生徒たちに残ってるから、完全に消してね♪」
笑って言うことじゃないだろう……つまりこれは……
「魔法を使い過ぎた罰か……」
「この世界風に言うと、YES!」
親指を立てて言うヴェレンティアナは、本当に女神なのか疑いたくなるほど性格が軽い気がする。
まぁ、晴香を見てればそんなのすぐにわかるがな。
「わかった。明日からやるよ」
「頑張ってねレイスティール。それじゃ、辰弦さんをよろしくね、零一」
そう言い終えると、また空から一筋の光がヴェレンティアナを照らすと浮かび上がり、天界へと帰っていった。
「零一くん?」
空を眺めていたオレを呼んだ声に振り向くと、縁側に栞が立っていた。
〈英魂修正〉が終了したんだな。どれ、栞の魂は……ちゃんと書き換えられているようだ。
「上手くいったな。どうだ痛かったか?」
「ううん、全然痛くなかった。逆に痛くなさ過ぎて、応援できちゃったぐらいよ」
「そうか、良かったな無事に終わって」
「う……うん……本当に、良かったよ……!」
栞の魔眼ではない美しい金色の瞳から、大粒の涙が零れた。
「ご、ごめんね! こ、こんな奇跡……本当に起こるなんて……思いもしなかったから……」
「思う存分に泣くといい」
「ん……」
栞が一言だけ発して、両手を広げてきた。
全く、仕方がないお姫様だ。
オレはゆっくり栞に近づき、優しく抱きしめた。
「本当に……本当に……ありがとう……零一くん……」
涙を流す栞の頭を、オレは優しく撫でる。
「お、おい……どういうことだ……瀧矢……」
「し、知るか……竜崎……このまま寝たふりだ寝たふり……栞お嬢様が凄く幸せそうだからいいじゃねーかー……」
普通に聞こえてるぞ、そこの二人……ほら、栞がオレから離れて歩いていくぞ。
「ま、それも、そう……か……ひぃっ!?」
寝たふりをしようと話し合っていた瀧矢と竜崎の前に、腰に手を当て、顔を真っ赤にして睨む栞が仁王立ちしていた。
「瀧矢ぁぁぁ!? 竜崎ぃぃぃ!?」
「「栞お嬢様すみませぇぇぇぇん!!!」」
なんとも微笑ましい光景だな。
ぼんやり様子を眺めていると、栞は振り向いて、オレに近づいて胸に顔埋めて抱きついた。
「続き」
「いや、もう十分……」
「つ・づ・き!」
「はいはい。わかったよ」
やることがまだあるんだが、少々のことはいいか。
栞が満足するまでオレは頭を撫で続けた。
「それじゃあ、いいか?」
「うん……お願い……」
そして最後の仕上げを二人で始めた。
気絶している栞の母親の額に、オレの人差し指を置いて、小さな魔法陣を描く。
「〈記憶放出〉」
魔法陣は淡い光を放つと、魔法陣の真ん中から光の玉が出てくる。それをオレは指で摘まみ、栞の手に持っている袋に入れた。
「これで、全員だな栞」
「うん」
袋の中を見れば、同じく光る玉が袋の口いっぱいに入っている。
この光る玉の正体は、魔法で取り出した人の記憶になる。
取り出した記憶は呪詛に関する全ての事柄に関して。
それを壊せば、一生そのことに関しては思い出せないし、覚えられなくなる効果がある。
後は栞がどういう思いで――
「ふん!!」
思いっきりに床に叩きつけ、踏みつけて破壊した。
「威勢がいいな」
栞はスッキリとした表情で言った。
「色々吹っ切れた女は怖いのよ? 覚えておいてね、魔王様」
「……覚えておこう」
次でエピローグです。




