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魔導高校生の魔王様  作者: 伊吹わなご
第一章:魔導高校入学編
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⑯オレを頼れ、栞

「ど、どうして辰弦さんが……資料には辰弦の名はなかったはずよ……」


「いくら調べようとも出てきませんよ。これは辰弦の影の部分なのですから」


 栞さんの告げられた言葉に、晴香は悔しそうに唇を噛んだ。

 その姿に憐みの眼差しで見る栞さんの瞳は、まるで漆黒へと誘うかのように黒く染まっていた。


「なるほど、呪詛を瞳で隠していたから金色の魔眼を使っていたわけですか……」


 オレが栞さんの黒い瞳を見ながら言うと、図星をついたらしく、冷たい目線をオレに向けてくる。


「いつから私の魔眼に気づいていたんですか?」


「入学式で、オレの心を覗いた時からですよ」


 栞さんはため息を一回出した。


「やはり魔王様は凄いですね……初対面でいきなり〈迅雷の魔眼〉に気づくなんて……」


「オレも〈炎滅の魔眼〉という魔眼を持ってるんで、わかるんですよ。そういうのが」


 オレの言葉に、ふふっ、と一笑だけして、また冷たい目線に戻して今度は晴香の方に顔を向けた。


「神沢先生は直ちにここから出て行ってくれますか?用があるのは零一くんだけなので」


「ど、どうするの零一……」


「今は言うことを聞いた方がいい……オレなら大丈夫だ」


 晴香は心配そうに見つめてくるが、それを振り払ってから保健室から出て行く。

 それに、聞きたいこともあるからな。


「それで?用があるとは?」


「母に……会ってくれませんか?」


「いいですよ」


 間髪入れずに返事をすると、栞さんは焦った表情を露わにした。


「な、なぜですか!?」


〈なんで?〉


「そういう気分なんで」


「ど、どうして拒否してくれないんですか……!!」


〈どうして?〉


「だから、そういう気分なんですよ」


「普通ならここで拒否しますよね?」


〈お願いだから拒否をして……母の言うことを聞く必要はないの……〉


「する必要が見当たらないんで、会いますよ」


「な、なんで……?」


〈このままだと零一くんを……〉


「何をされるのか分かっているんですか?」


「何かされるんですかオレ?」


〈私の呪詛で母の奴隷にさせることになるのに……〉


「お願いですから拒否をして、私に抗ってください!」


「抗うもなにも」


〈そんなことは絶対にさせない一心で、わざと零一くんの邪魔をするように、急ぎ足で事を起こしたのに……〉


〈なんで?〉


〈なんで私を殺してくれないの?〉


〈私が死ねば……呪詛を引き継ぐ人間はこの世にいなくなるのに……〉


〈今の零一くんなら容易いことなのに……〉


「自分を殺してほしいと言ってるように聞こえるので、それはオレには無理なんで会いますよ」


「えっ!?」


〈あ、しまった……〉


 心の声を聞かれていることに気づいた栞さんは踵を返した。


「ひ、人の心を読むなんて、最低な人間ですね! この下種!」


「そうですね。最低ですね」


〈な、なんで怒ってくれないの……〉


〈私のことなんて南田のように魂を抜き取ってしまえばいいのに……〉


〈そんなこと簡単でしょ零一くん!〉


「栞さん」


 オレはベッドから下りて、栞さんに歩み寄る。


「ち、近寄らないで!!」


〈だから、お願い零一くん!!〉


 また影を使って攻撃してくるが、オレは防御魔法で軽くはねのけながら歩みを続ける。


「昨日言いましたよね」


〈お願いだから……私を殺してよ……!!〉


「次また不本意なことが起きても、オレが必ず無傷で助けてみせよう。って。だから」


 震えている栞さんをそっと後ろから抱きしめて、


「オレを頼れ、栞」


 オレは強く宣言をする。

 その瞬間、抱きしめているオレの腕を強く掴んで、漆黒の瞳から綺麗な雫が頬を流れていく。


「零、一……く……ん……」


〈ダメだよ……本当に……〉


〈私は許される人間じゃない……〉


〈こんなわがまま女はさっさと消してしまえばいい……〉


〈あなたを私情で利用した醜い女〉


〈沢山の人を傷つけることで生きてる極悪な女〉


〈親の言いなりでしか生きられない馬鹿な女〉


〈この世界に生きる価値がない人間じゃないの!〉


〈だから、優しくしなくていい……〉


〈心が弱い私はあなたにすがってしまう。だから、その前に……〉


〈私を殺して……〉


〈こんな優しい人に……殺されるなら本望だから……〉


〈だから!!〉


「私を……殺して……零一くん!」


「ゆっくりでいい。オレにどうしてほしいか言うといい」


「な、なんでよ……なんでそんな優しくするのよ!!!」


 掴んでいる腕をより強く握って絶叫するが、オレは気にせず言った。


「栞の運命を破壊したくなった」


「え……?なに……それ……」


「だから言葉にしろ栞。オレにどうしてほしいか」


〈無理よ……〉


「無理ではない」


〈母の恐ろしさを知らないから……そんなことが言えるのよ……〉


「その母より、オレの方が恐ろしい存在だぞ」


〈もう、なんでも言い返しちゃうのね……呆れたわ……〉


〈夢を見るな、現実を見ろ。って、よく言われているけど〉


〈零一くんにだったら〉


〈私の手に届かない夢を託しても……いいのか?〉


〈あの窮屈な世界から抜け出したい……〉


〈母の言いなりで動く世界から出て行きたい……〉


「ゆっくりでいい」


〈私は……私は!!〉


 何度も深い深呼吸をして声が漏れる。


「私を、助けて、零一くん……」


「あぁ、わかった。オレが全て片付けてやる」


「それで?どうやって辰弦さんを助ける気なの零一?」


 神妙な面持ちで保健室に入ってくる晴香の質問に、オレは軽く答えた。


「呪詛を壊すに決まってるだろ」

仕上げの時間に入りまーす

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