⑭生死魔法〈精魂剥奪〉
「な!? いいのですか!? あなたが動けばご級友が死ぬのですよ!?」
「どうぞ」
「ひ、酷いよ……零一君……」
「冗談だろ……零一……」
「嘘です……そんな零一くんが……私に死ねと……?」
堂々とした言葉に、三人は当然のような悲壮感に露わにして呟く。
それでもオレは、南田の目を見て言った。
「ただし、お前自ら手を掛けろ」
「ふ、そのようなこと造作もない。誰か私に銃を。その言葉を後悔しても知りませんよ?」
オレの挑発に取り乱すかと思ったが、冷静な面持ちで手下から銃をもらうと、奏から照準を合わせて引き金を引いた。
「あ、なん、で……私が……」
乾いた音とともに奏の胸から血がだらりと流れ出して力なく倒れた。
そして、次は恭介を撃ち。栞さんを撃った。
「久しぶりに銃を撃ってみるものいいですね。気分が爽快になります」
やりきった顔をしながら、自らの手をハンカチで拭く南田に、オレは指摘した。
「お前、誰に向かって撃ってるんだよ?」
「は?何を言って、あなたのご級友……な、なんで生きているっ!?」
南田の足元には倒れる栞さんたちがいるが、その隣に生きてる栞さんたちが南田を見ていた。
「次はちゃんと狙って撃とうな」
「えぇ! !撃ってやりますとも!」
また一発ずつ栞さんたち向かって銃を発砲するが、
「なぜだぁ! なぜまだ生きてる!!」
またその隣に栞さんたちが生きている状態で立っている。
「なーぜーだぁぁぁぁぁ!!」
今度は顔と銃の距離をなくして撃つが、またも傷一つない栞さんたちが現れた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!! なんなんだお前らはぁぁぁぁぁ!! 本当に人間かぁぁぁぁぁ!!!!」
どこに当たろうが関係なく撃つ南田。だが、栞さんたちは現れる。
「あぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!!」
言葉になってすらないお叫びをあげながら発砲するが、栞さんたちは生きている。
そのことに絶望した南田は、撃つのをやめて力なく項垂れて地面に座り込んだ。
それじゃあ、種明かししてやるか。
「おい、南田。よく見ろよ自分が撃った手下の姿を」
「て、手下……だと……!?」
血を流して倒れている十五人の栞さんたちの顔が、規律よく整列していた手下の顔に変わっていった。
本当の栞さんたちは無傷でオレの後ろにいる。
つまり、ここにシャッテンとしているのは、南田だけになった。
「あぁぁ…………なぜ…………なぜ…………なぜなぜなぜなぜだぁぁ!!!!」
どうにも理解できない状況に髪を搔きむしって叫ぶ南田を、オレが床に転がっているAMWを踏み潰し、耳元で囁いてやった。
「良かったな、死ぬ前に魔法が見れて」
「ま、まほう…………??」
オレは南田に幻覚魔法を掛けていた。
名は〈幻夢侵食〉。強い幻覚を相手に見せ、自分にとって絶対にありもしないことを永遠と繰り返すことで、精神を蝕んでいく魔法だ。それを南田と対面したと同時に、魔眼で放っていた。
小規模魔法で栞さんたちに被害が及ばない魔法を一回目に選んだ。
そして、最後の魔法は……
「じゃあな、南田。天界でこわーい女神が待ってるぞ」
オレは最後の一回となる魔法を発動し、南田の体の前に真紅の魔法陣を描いていく。
そして完成した魔法陣ごと南田の体に片手を入れこんだ。
「が !ぎゃ! がえあ! ああ!!」
南田は悶え苦しんでいるが、そんなことはどうでもいいオレは更に深くまで手を伸ばして、あるモノを掴んだ。
「ぐがぎゃああああああああああ!!!」
それを掴まれただけで、南田は聞くに堪えない酷い断末魔が倉庫内に響き渡せていく。
さっさと済ませよう耳障りだ。
何、難しいことじゃない。ただ、それを掴みながら引き抜くだけでいい。それだけだ。
「ぶべごげじぇげぎゃ…………………………………………」
一気に手を引き抜かれた南田は、意味すらないコトを発して糸の切れた人形のように倒れ込んだ。
その引き抜いたオレの手には、青い炎がユラユラと燃えていた。
この青い炎が生死魔法〈精魂剥奪〉を使って引き抜いた、南田の魂になる。
「「「……………………」」」
血の気が引いた顔で南田を見る三人に、見続けないように声をかけた。
「帰ろうか」
オレの言葉で我に返ったのは栞さんからだった。
「あ、そ、そうですね!帰りましょう!紅林さん、桂木君も見てないで帰りますよ」
「は、はーい!」
「あ、あぁ……そうっすね、帰りましょう……」
オレたちは四人はこれ以上何も言うことなく、静かに倉庫から出ていった。
それから会話もなく歩き続け、もうすぐ入ってきた門までの道路の途中、
「零一くん、ごめんなさい!」
栞さんがいきなり頭を下げて謝りだした。
「いいんですよ、謝らなくても。終わりましたから」
気にもしてない発言をしても、頭を上げてくれない栞さんを見て、奏も謝り、恭介も頭を下げた。
理由は自分たちを殺してもいいと言われてしまうほど、オレが怒っていると思ってるからなんだろうが……
「オコッテナイゾー?」
「「「……………………」」」
オレ渾身の呑気な声を出してみても無駄なようで、こうなれば仕方ない。
上手く出せるといいんだが……
「よく聞け三人とも」
「「「っ!!」」」
いつもの声より頑張った低い声を出すと、三人は頭を下げたまま体がより引き締めた。
「確かに捕まってしまっていたのは少々驚いたが、オレは怒ってはおらん。この程度の事は、魔王の魂を持つオレの力からすれば、赤子の手をひねるほど簡単に終わらせられるのだ。次また不本意なことが起きても、オレが必ず無傷で助けてみせよう。だから栞、奏、恭介、深く謝罪するのをやめて面を上げてくれ、無理やり作って喋っているからもう持たないんだ頼む」
魔王だった時の言葉使いでなんとか言い終えると、ようやく頭を上げた三人にオレは微笑んだ。
「零一くん……」
「ぷっ……! 最後まで頑張ろうよ~! アハハハ!」
「ホント、すげーよ零一」
「それじゃ、帰ろうか」
今度は横一列となって笑いながら歩き出したオレたちを、遠くから見ていた晴香もどこか……頭に手を置き呆れた顔をしていた。
「……うーん、これは失態してしまったな……」
「なにか問題でも起きたんですか?」
「多分というか絶対なんですが」
「うん」
「オレ、明日学校休むことになる」
「え? マジで?」
「あぁ……マジ……で……」
しまったな……<魔王ということを知られてはいけない>契約を……破ってしまった……
「零一くん!! 零一くん!!」
栞さんの悲鳴にも似た声を聞きながら、オレは眠りについた
ついに魔法使っちゃいましたね




