⑪なぜ魔導が使えないんですか?
「いいですか~、鉄板を切り取る時は細くて鋭い水系統魔導、または高温で細い炎系統魔導で行ってください。そうすれば綺麗に鉄板は切れていきますからね~」
シャッテンの魔術師を追い払った翌日。
登校時に生徒会長が報復されないか駅で見張っていたが、その心配はなく登校はできていた。
嘉納も、晴香のおかげで半分以上の呪詛を取り除いて、昨日の夜には魔導大学付属の病院で入院していると、今日は学校休んでいる晴香がやつれ顔で報告してきたので、ひとまずはことは片付いた。
あとはシャッテンのリーダーがどう動いてくるかだが、今はこの授業に専念しなければな。
「柊君でしたね? 炎系統魔導で見事に切り取りましたね。角のバリも少ないですから、磨き時間の短縮できます。その調子で練習していきましょう」
「ありがとうございます」
楽しいな。
魔断機で鉄を切り取るというのは初体験だからな、どこまで高温を保って細くできるかやってみるか。
「あれ? 先生!」
「どうしましたか」
「急に魔断機が動かなくなったんですけど……」
故障でもしたのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。
「あ、僕もだ」
「俺もです!」
次々と魔断機が動かなくなったと言い出し、オレの動かしていた魔断機も動かなくなり実習室が騒然とし始めた。
おかしいのはそれだけはなかった。空気のように漂っている魔力がなくなっている現象が起きていた。
何か変だと察知した時、けたたましいサイレン音と共に放送が流れた。
『警報、警報。学校内に複数の侵入者です。学校内に複数の侵入者です』
その緊急放送に、ざわめく生徒の一人が言った。
「この学校に侵入者なんて……ありえないだろ」
確かにそうだな。
登下校以外は巨大な防護魔導で校門や塀などは守らているから、防護魔導を壊すか、制御室で操作して解除しなければならないからな。
「お、おい。なんか聞こえねー?」
「なにがだよ?」
その言葉で静まり返ると、微かだが乾いた連続音が聞こえてくる。
「銃声? だよなこれ……」
「で、でもよー。実弾なんて俺たち魔導を扱える奴らに意味ないだろう……」
「いや、その認識は今はやめたほうがいいぞ」
「何言ってんだよ柊!」
歯向かう男子にオレは言った。
「魔導デバイスが操作できなくなっている。試しにオレに向けて魔弾でも撃ってみろ」
「はぁ!? 何言って……」
「いいから」
「わかったよ……あれ? ……あれ? ……なんで反応しないんだ……」
いくら操作しても無反応な魔導デバイスを操作する男子に、周りの生徒は状況が理解できたようで悲観する目で見ていた。
その状況に拍車をかけるような足音が実習室に近づき、勢いよくドアが開けられた。
「動くな!!」
入ってきたのは、昨日の奴らと同じ格好をしたシャッテンの魔術師三人組で、手には銃が握られており、とても魔術師とは思えない風貌だった。
魔導もなにもできないとわかっているオレを含めた全員が、両手を上げて抵抗の意思がないことを示した。
「ここに柊零一という、一年生はいるか?」
やはり狙いはオレか。
変に動けばここにいる生徒たちに危害を加える可能性があるから、ここは大人しく従おう。
「オレだ」
「こっちに来てもらおう」
「わかった」
三人の真ん中にいる二十代後半ぐらいの男の言うことを聞き、その男を先頭にしてオレを三角形で囲うように実習室を出ていく。
「シャッテンの同志たちに通達。対象を保護した」
『了解。発砲をやめて警戒態勢に移す』
魔術師のやり取りというより、テロリストのやり取りだな。
いや、こいつらはテロリストで合ってるのか。
「変な真似するなよ」
校庭に出れる廊下をのんきに歩くオレに、右後ろの男が睨みながら言ってきた。
「魔導デバイスが使えないんだ。無理だろう」
「余裕ぶってんじゃねーよ! ガキんちょが!」
オレの左後ろの奴はうるさいな。
先頭にいるやつぐらいは、利口あってほしいんだがな。ちょっと探りを入れてみるか。
「オレはどこに連れて行かれるんだ?」
「うるせぇぞガキ!」
「お前の方がうるさいぞ!」
前にいる男の一喝で、押し黙る左後ろの男。
少しは利口そうだな。いや、利口すぎるのか。
「答えてやろう。我々のリーダーの所に君を連れて行く。これでいいかな?」
「どうも。で? そこでなにされるんだ?」
「……君の自我を奪い、我々の眷属となってもらう」
なるほど、呪詛を用いてオレを狂戦士のような暴れ狂った魔導師を従えたいというわけか。
ほーう……
「実に面白味もない計画だな!!」
「なにを、あがぁぁぁ!!」
オレは右後ろの男の股間に後ろ蹴りを入れ、
「ガキがあぎゃああああ!!!」
左後ろの男が銃を発砲する前に手首を捻り折って持てなくさせ、その銃を拾って前にいた男に向けると、男もオレに銃を向けていた。
「君は本当に高校生かい?」
「もちろん」
「それほどのことができるのに、なぜ僕にだけ攻撃しなかった。隙はあったはずだが?」
「はっきり言いましょうか。あなたは、警察または日本魔導管理局のスパイですね?」
はっきり言えば驚くかと思ったが、男はゆっくりと銃を倒れる男二人を順番に発砲して殺すと、銃を下ろした。
「どこで気づいていたのかな?」
敵意がないとわかったオレは、銃を捨てて言った。
「あなたが「君の自我を奪い」と発言する前に、少し躊躇したからですよ」
これには驚いた顔を見せた。
「そんな少しの躊躇を見られていたなんて、スパイ失格かな?」
軽くため息をついた男は、気を直してオレに敬礼を向けた。
「私は日本魔導管理局機動二課の、猪里克哉二等魔導師です」
日本魔導管理局。魔導師を目指している若者なら誰しも一回は憧れる職業に、猪里という男は属していた。
それに猪とは、なにかと干支な名前に縁があるなオレは。
……だがな……
「学校が襲われる前に止めてほしかったんですが?」
「それはすまないと思っている……それに、僕のことはどうか内密にしてほしい。なんでも協力をすると誓うよ」
「…………」
苦笑いを見せる猪里さんに、ため息を出しながら頷いた。
本当だったら、オレの邪魔したお前も、殺した二人同様に消してやる、と言ってやりたかったが、ここは我慢だ。
「じゃあ猪里さん、一つ訊いていいですか?」
「な、なんだい?」
「なぜ魔導が使えないんですか?」
「それはAMWのせいだね」
聞いたことがない名だな。
「AMW。アンチマナウェーブの略で、マナ――魔力を捕まえることができる特殊な波を出せる石の力を増幅させる装置で、世界で違法指定されている代物だよ。それを使っているから魔力が波に捕まって外にはじき出されて、魔導も魔術も使えない状況という訳さ」
「それで、その装置はどこに?」
「大橋という男が装置を持っているよ。仲間にも居場所を知られないように行動してたから、どこにいるかわからないのが難点だね」
「敵の数は?」
「後方待機を含めて、五十人はいるね」
ふむ。闇雲に探しても武装しているシャッテンに見つかったら面倒だな。
しかし波というからには一定方向からか、もしくはどこかを中心にして……なるほど中心か。
「多分ですけど、大橋とかいう男の居場所わかりました」
「本当かい?」
「ただ、そこに近づくには協力者がほしいんですけど、協力してもらえるんですよね?」
「もちろんだとも」
オレは猪里さんに自分の考えた作戦を教え、実行に移すことにした。
魔導が使えなくても強いのは必然かと




