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魔導高校生の魔王様  作者: 伊吹わなご
第一章:魔導高校入学編
11/75

⑩我々は、シャッテンという魔術師の組織だよ……

 学校からリニアトレインが走っている駅までの道のりを、ロードバイクを押して歩くオレと、なぜか頬を赤く染めてオレの横を歩く生徒会長。

 なにか談笑をしながら歩いてるというわけでもなく、静かな時間が流れている。


「あ、あの……柊君」


 この静けさに我慢できなくなったのか、生徒会長はオレの顔を窺いながら話してきた。


「な、なんだか暑くないですか?」


「そうですか? 少し肌寒いくらいですけど?」


「そ、そうよね……私なに言ってるのかしらね」


 アハハ……と笑ってごまかしてる生徒会長に疑問の目を向けると、それに気づいてまた頬を赤くして俯いてしまった。

 それにしても……こそこそとされているのも癪にさわるから生徒会長に話すか。


「あの生徒会長?」


「な、なにかしら……」


「囲まれてます」


「え?」


「そのまま気づいてないふりをして歩いてください、奴らです……」


 妙な気配を漂わせながら尾行されていた。それが生徒会長にも伝わり、恥ずかしそうな表情も元に戻って瞳が鋭くなる。

 数は……五人だな。


「柊君、敵の位置はわかりますか?」


「オレたちが通り過ぎた電柱を使いながらの尾行が二人、建物の屋上を飛び越えながらの尾行が一人、右前に見える四階建ての雑居ビルの屋上にいます。そして、左前方のコンビニエンスストアの前で話している二人の女性です……」


「多い、ですね」


 少々嫌なのが、ここで戦闘魔導を使うとなると、もうすぐ駅という場所だから人を巻き込んでしまう危険がある。

 なら、ここは。


「屋上で尾行している敵から倒しましょうか。ここで魔導を使うと人を巻き込んでしまうので……」


「仕方ありませんね……逃げれるような状況ではないと理解しましたから」


 オレはロードバイクのハンドルバーに取り付けてあるライトのカバーを開けて、一から九までの番号が並んだボタンを操作した。

 その操作が魔導デバイスと同じだと気づいた生徒会長は、表情を崩しそうになっていた。


「そんなところに魔導デバイスなんて……」


「ただのライト用に入れてたのが、こんなところで活躍できるなんて思ってもみませんでしたよ。それじゃ、行きますよ生徒会長」


「わかったわ」


 生徒会長も左手首に装着しているブレスレット型魔導デバイスを操作して、飛行魔導の準備を整えたのを確認して、オレはライトを点灯した。

 点灯された光は、とても自転車のライトとは思えないほどの眩い閃光を周囲にまき散らしたと同時に、オレと生徒会長は飛行魔導で屋上で尾行している敵に向かって飛んでいく。

 いきなりの閃光で、目元を手で隠している屋上の敵は隙だらけで、オレは炎系統魔導(ブレイズ)の〈火炎風(フレイア)〉を放った。


「ぐあっ!!」


 〈火炎風(フレイア)〉の突風を脛部分に当たった敵は、バランスを崩して尻餅をついた。


「く、くそ!」


「大人しくしなさい!」


 生徒会長がオレより先に屋上へ着地して、尾行者に対して手を前に出して魔導をいつでも撃てると威嚇して静止させた。

 オレも屋上に着地して尾行者の姿を見ると、全身黒ずくめのフード付きのローブを着た男だった。


「あなた方が呪詛を使う魔術師たちですね?」


「だとしたらどうする!!」


 はぁ……そんなに強がっても仕方がないのだがな。


「話せ」


「何を小童が! ひぃぃぃ!?!?」


 オレが強く睨んだだけで、怯んで体を震わせるローブの男。

 どっちが小童なんだかな。


「や、やめてください! 睨まないでください! うあああああ!!」


「で、魔術師なんだな?」


「はい、はい! そうですぅぅ!」


「下にいる仲間もか?」


 オレの質問に、ローブの男は無様に涙と鼻水を垂らしながら頷いた。


「それで、あなたたちの組織に名前などはあるのですか?」


「わ、我々は、シャッテンという魔術師の組織だよ……」


「なんだって?」


「そ、そそそ組織です!」


 そう言い終えたシャッテンという組織の魔術師の男は、ニヤリと歯を見せた。

 なるほど、オレたちのいる雑居ビルから後方のビルの屋上に、コンビニエンスストアの前で話していた二人組がこちらを狙っているから、笑っているんだろうが……()()()()()()()()

 オレは右手だけを後ろに向けて炎系統魔導(ブレイズ)を放つと、二つの火柱が立ち昇って悲鳴が聞こえてくる。

 その光景に、魔術師の男は口を開いたまま、愕然としていた。


「あ、あぁぁぁ……!」


「ひ、柊君!?」


「大丈夫ですよ。人一人分の空間は作ってあるので熱いだけです」


「な、なんなんだ貴様は……」


「今週、中部魔導高校に入学した機械科の一年生だよ」


 理解が追い付かないのか、魔術師の男は言葉を上手く出せずに口だけが動いている。


「それともう一つ、あの呪詛が入れられた飴はなんだ?」


「く、詳しくは、知らない!」


「本当か?」


 何回も頷く魔術師の男。


「なら知っている部分だけ言え」


「じゅ、呪詛が怒りの感情で発動するとしか、し、知らない!」


 なるほど、若い人間ほど感情が素直だからな。そこに焦点を当てた訳か……


「わかった。じゃあ、下で出入り口を塞いでる二人と、お前らの組織のリーダーにも伝えろ。邪魔をするな、と」


「はひぃぃ!!」


「それと、もし邪魔したら……わかってるな?」


「は、はひぃぃぃ!わ、わきゃりましゅたぁぁぁ!」


 魔術師の男は何回も生まれたての子鹿ようによろけながら立ち上がり、律儀に階段から去っていく間抜けな姿に、生徒会長は魔導の解除を忘れたぐらい唖然としていた。


「これで……大丈夫だろう……」


 下を見ると、大慌てで仲間たちと話し合って、走って逃げていく姿が見える。

 それに遅れて、火柱で囲まれていた二人組もビルから下りていたらしく、ローブから煙を出しながら慌てて走っていくのも確認できた。


「すごい、ですね柊君は。謎めいた相手にも屈せず強気な態度をとれるなんて……別人のような雰囲気でしたよ?」


「そうでしたか?」


「えぇ……まるで悪魔のような目つきでした……」


 悪魔か、聞き飽きるほど言われたことがあるが、違う存在だからな悪魔と魔族は。


「怖かったですか?」


「いいえ、というのは嘘になってしまうので、正直に言いますね。少し怖かったです。それともう一つ、

本当になぜあれだけのことができているのに、柊君は魔導実技試験で合格ラインのちょっと上、だったのですか?」


 そのことか。あのことは隠しているというより、単に誰かに言っても信用しないだろうと思ってるから言わないだけで、生徒会長になら話してもいいだろう。


「なら、帰りながら話しましょうか。神沢先生に言われた通りに生徒会長の家まで送りますから、その間にでも」


「わかりました」


 雑居ビルを下りて、駅の駐輪場にロードバイクを置くまでは辺りを警戒しながら歩き、駅のホームで列車を待っている時にオレから口を開いた。


「測定してくれなかったんですよ」


「なにを測定できなかったのですか?」


「魔弾測定機が、ですよ」


 なにを言ってるのか理解にするのに、五秒ほど経ってから生徒会長の目が見開く。

 まぁ驚くだろうな、魔弾測定機が魔弾を測定してくれないなんて言うと。


「そんなに弱く……違いますね。強かった、ということですね?」


「信じますか?」


「あれほどの魔導を見れば信じます」


「撃っては故障して取り換え、撃っては故障して取り換えのおかげで、試験官に〇点と宣言されてしまったんですよ」


 オレの撃つ魔弾は神すら貫通させる威力だったせいで、人間感覚で撃つ力がわからなくて適当に撃ったら、そうなってしまっただけなんだがな。

 あれほど貧弱な機械だとは思わなかった。


「それで、いくら他の魔導実技試験の点数が良くても」


「合格ラインよりちょっと上、になりますね……なるほど、理解できました」


 戸惑いも見せずに納得できるあたり懐が広いな。

 辰弦という名だけでは、生徒の代表として生徒会長という役にも選ばれてはいないだろうからな。

 それに人柄もよく美人だ。リニアレールを待っている男どもからの視線を集めているほど綺麗な人だ。

それだけでも――ん?


「…………」


 気づけばそっぽを向いてしまっている生徒会長。


「どうしました?」


「そ、そんなに見つめられたら……恥ずかしいです……」


 これは失敬なことをしてしまったな。


「すみません」


「い、いいんですよ……あ、列車が来ましたね乗りましょうか!」


 なぜか舞い上がっている生徒会長が先に車内へ乗り込み、その様子を見てからオレも列車に乗り込んだ。


                    ◇ ◇ ◇


 ――どこかの廃倉庫――


「それは真実なのですか?」


 灯りも点けずに、大穴の開いた屋根から月の明かりだけが差し込む質素な部屋で、零一たちが追い払った魔術師たちがローブを深くかぶった男に報告をおこなっていた。

 つまり、この男が魔術師組織、シャッテンのリーダーなのだろう。


「は、はい……そうなんです……」


 屋上で零一の脅しに恐怖していた魔術師の男が震えながら答えると、シャッテンのリーダーは震えている男の後ろにいる焦げたローブ姿の二人に顔を向ける。


「ほ、本当です……私たちがあの高校生たちの視角になるよう、別のビルの屋上で魔術を使おうとしたら、いきなり炎の柱に包まれて……」


「魔術を使える余裕がなくて……」


「そうですか……それは大変良いことを聞きましたね」


 驚くこともせず、むしろ興味がある言い方に、震える男は言った。


「お、お止めください! あの高校生の目つきは異常です! なにか、こう、この世の中に生きている者の目ではないというか、なんて言えばいいんでしょうか、とにかく、もし、邪魔してしまったら殺されてしまう危険があります!」


 震える男の懇願に、シャッテンのリーダーは冷静に告げた。


「大丈夫です。我々にはこれがありますから」


 シャッテンのリーダーは、自分の背後に置いてある机の上に置いてあったジェラルミンケースを両手で持ち、皆に見えるようにケースを開けると、円盤型の機械が収まっていた。


「こ、これはもしかして……」


「魔導師を魔導師ではなくさせるための装置です」


 その装置を取り出して男に手渡した。


「…………ははは、ははははは! はっはっはっはっはー!!」


 先ほどの怯えた表情が一変して高笑いをする男の目に、生気が戻っていく。


「やはり勝利の神はこちら側についていたということですね!」


「えぇそうですとも。ですが、これを使ってしまうと、我々の魔術も使えなくなるデメリットはありますが武器はあります……魔導が使えなくなった魔導高校生など」


「ただのガキと一緒ですねぇ!」


「さぁ、同志たちよ。影の崇高なる使命に盾突くとどうなるか、知らしめてあげるのです!」


 そう高らかに告げると、魔術師たちは影に消えていった。

シャッテンは影という意味です

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