プロローグ
「ふむ……」
ロウソクの淡い光だけが放つ部屋。玉座のような大きな椅子に座り、足を組みながら分厚い書物を読みふける男が一人いた。
名はレイスティール・ブラガヘルム。
彼は魔王と呼ばれる地位に就くほどの強者である。
ひとたび魔法を使えば人の国は滅亡し、森は吹き飛び、大地に底なしの大穴が開く。その絶大な強さに神々も恐れるほどの男。
まぁ、そんな話は千年前の出来事で、今はそんな大規模な魔法を使うことがないぐらいに平凡、平坦、平和な日々が続いているのが今のレイスティールが納める国である。
なので、彼はこうして書物を読むことを約四百年ほど続けて過ごしていた。
「いい着目点をもった話だったな」
満足した顔を見せては空中に浮かんでいる真っ赤な魔法陣に書物をしまい、そこからまた次の書物を取り出し読みふけるレイスティール。
「ほう、これは」
読みふけること小一時間。一つの書物に書いてある項目に目を惹かれた。
それは他の世界における魔法の事柄で、『地球』という星における魔法の成り立ちについて。
その世界では魔法と呼ばれておらず『魔導』と呼ばれており、その魔導は機械という電子で動く物に保存していることや、その中でも『日本』がその機械物を作る技術に長けている者が多いという内容だった。
「魔導師……魔導具……魔導デバイス……ふむ、なるほどな」
明らかにこの世界と、書物に書いてある世界が違った発展を歩んでいることに、段々と興味が湧いてくるレイスティール。
この高揚感は久しぶりだと言わんばかりに紅蓮の瞳が輝きだし、一心不乱に読みこんでいく。
そうして読み終えたレイスティールはこう思い始めた。
魔導具とやらを自作してみたい、と。
今ここで魔法で作ってもはいいが、それだと至極つまらない。
この高揚感を吐き出すなら、やはり現地に赴き技術を知って製作するほうが面白味はあると考える。
「行くのいいが。どう行くかだが……」
顎に手を当てて悩み始めた。
異世界に飛ぶのは簡単。魔族国から同じ世界にある他国に行くのと同じで、レイスティールのような魔王であれば異世界に行くなど造作もないこと。
なのだが、異世界に飛ぶとなると、神々の干渉の下に行動しなければならない、ということになってしまう点に気づいた。
しかも魔王という位にいるレイスティールは、膨大な行動制限が付くのは予想できる。そうなってしまえば自由に動けなくなるのは確定だ。
実に面倒極まりないことだ。
いっそのこと神を殺すか?
いや、幾千の神を相手していては本来の目的が達せない。
ではどうるすか?
行きついた答えは、
「自分で自分を殺して転生するのが一番早いだろうな」
ということだった。
魂を転生させれば赤ん坊から人生が始まり、時間はかかるだろう。
だが、神の干渉が大部分削がれるだけでも十分に生活できるし、向こうの世界の寿命が百年も持てばいいと書いてあるのを見つけたので彼は決心した。
なら決まってしまえば、あとは実行するのみだ。
レイスティールは椅子から立ち上がり、目の前に手をかざした。
その瞬間、彼が立っている床に赤い光の粒子が無数に立ち上り始め、魔法陣が形成されていく。
そして完成すると同時に唱えた。
「〈魔炎瞬殺〉」
そう唱えると、彼の体は一瞬にして炎に包まれ跡形もなく消えていった――
………
……
…
西暦二〇八一年。四月。
「零君、起きてる~?」
優しい暖かい声をした女性が彼の部屋の前で呼びかけた。
「あぁ起きてるし、着替えもすんでるよ母さん」
彼の返答に、母親である桜はにこやかに笑いドア開けると、そこにいたのは真新しい制服に身を包んだ黒髪の少年が、姿見の前で身だしなみを整えていた。
「おはよう母さん」
挨拶と共に振り返り、彼の紅蓮の瞳がきらりと光る。
この少年――柊零一が魔王レイスティール・ブラガヘルムの転生した姿であった。
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