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第9話「君の目的は──」


 村に入って2日後のこと。

 もう少しで昼時だという時間に、村中で警鐘が鳴り響いた。


 カンカンカンカン!!

  カンカンカンカン!!


「空襲────! 空襲だぁぁあああ!!」


 自警団らしき若者が村の見張り代の上で叫んでいる。

 その途端に村中が蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。


「空襲、警報……?」


 レイルは突然の警報に浮足立つ。

 しかし、ロード達『放浪者』はその時を待っていた。


 レイルも、村に入ったその日のうちには夜のミーティングでグリフォン退治について告げられてはいた。


 だが、実際に聞くのと体験するのとでは雲泥の差があった。

 途端に実戦の匂いを感じて身体中の毛穴がブワリと開く感覚に襲われた。


「う、噂のグリフォン、か……!?」


 ブリーフィングでも聞かされていた、それ。

 大型のグリフォンが、人間の味を覚えて襲撃するようになったというのだ。


 それも、かなりの広範囲に被害が出ており、この開拓村を含めて複数の開拓村が襲われているという。

 騎士団も出動しているのだが、空を飛ぶ魔物相手に何度も空振りを繰り返しているらしい。


 そのため、

 冒険者ギルドにも高額でクエストが舞い込んでいたというのだ。

 ……しかも、領主の直々の頼みで、だ。


 そして、

 先日、村に入ってからしばらくグリフォンの襲撃はなかったが、ついに今日の今この時──どうやら、待ちに待ったグリフォンが来たらしい!



「来たか……!」

 本当に、

 本当にきた!!



 グリフォン退治の話を聞かされて以来、気が気ではなかったレイル。

 だがSランクの仲間になるとは、すなわちそういうことだ。


「気合をいれないとな……!」

 パンッ!!

 宿から空を見上げ、顔を引き締める。

「あ、そうだ。ロードさ───ロード達を呼びに行かなきゃ」

 この警報だ。

 気付かないわけがないんだが……。


 そう思ってロード達を振り返ると、

「あ、あれ?」

 何故か、全く緊張感がなかった。


 それどころか、


「うー……うるっせぇなー」

「あたたた……。くっそぉ───安い酒はだめだな」

 昨夜からずっと飲みっぱなしだったらしい、ロードとラ・タンク。

「ほらほら、起きてください。お仕事の時間ですじょ」

 呂律の回っていないボフォートに促され、

 村に到着して以来、ずっとゴロゴロしていたロード達がむくりと起き上がる。

(うわ……。ひでぇ匂いだ)

 ロード達から漂うアルコール臭に顔をしかめるレイル。


 彼らが管を巻いていた宿の酒場には酒の空瓶が数本転がっていた。


「おい、レイル。水を頼む」

「お、おう……」


 ラ・タンクに頼まれ、人数分の水を用意すると、彼らはそれをグビグビと飲み干し、最後に聖女であるセリアム・レリアムの解毒魔法でアルコールを抜く。


 しかし、完全に除去するのは不可能だろう。アルコールとはそういうものだ。


「うー……飲み過ぎたか?」


 ロードが頭を振って辛そうに額を抑える。


「だ、大丈夫なのか? こんなに飲んで……」

 さすがに口にはしなかったがレイルはロード達のありさまに眉をひそめている。

 グリフォンが来るのが分かっていながら、酒を飲んで怠惰に過ごすなんて……。


「問題ありませんにょ」

 賢者ボフォートに至っては、いまだ呂律が怪しい。


「む、無茶だ! こんなになるまで飲んで──」

「うるっさいわねー。……ねぇ、ロード。いつも通り?」


(え……? 今のってセリアム・レリアム?)


 いつになくぶっきらぼうなセリフを吐くセリアム・レリアムに、レイルがビクリと震える。

 まさか、あの優しい彼女がこんなセリフを吐くなんて──……。


「おう。いつも通りにやる(・・・・・・・・)。──フラウは待機中だな?」

「朝から律義に配置についてますよ、オップ」


 酒臭い息でヨロヨロと立ち上がったボフォートがトイレに向かう。

 村中大騒ぎなのに、こんな体たらくで大丈夫なのか?


 せめて、俺だけでもなんとか……!


 素早く装備を整えたレイルは短刀やポーションの在庫を確認する。

 そして、頬を叩いて気合を入れる。


 ……これから、ドラゴンに匹敵するグリフォンと戦うんだ、気合を入れないと!


 パンッ!

「うっし! やるぞ!!」


 せっかく期待してくれたロード達に報いるためにも──。


「あ? 何気合入れちゃってんの?」

「お? プハハハ。Dランクのお前が一丁前に戦うつもりかよ?」


 ロードとラ・ランクがやけに挑発的だ。


「な、なんだよ?! 今がどういう状況か──」

「知ってんぜ──グリフォンちゃんが、餌を求めて遊弋中さ」


 ならなんで──……。


「ははははは! まぁいいや。精々がんばれよ」

「おーよ、頑張れがんばれ!」


 まったく動き出す気配も見せずにゲラゲラと笑うロード達。

 いつもの彼らと違うようにレイルは戸惑い目を泳がせる。


(な、なんなんだよ? 一体どうしたってんだ?)


「何言ってんだよ? 全員でやるんだろ??」


 レイルの訝しげな表情をポカンと見つめるロード達。


 次の瞬間、ブハハ!! と顔面を爆発させるように噴き出すと、

「おいおい、コイツまだわかってねぇぞ? ほんっと、お前(にぶ)いなー」

「ケケケ。ここまで鈍い奴は初めてだぜ──ま、所詮はDランク」


 明らかにレイルを刺して笑うロード達。

 それが何を意味するのか分からないレイルは茫然と立ち尽くす。


「はいはい。そこまでそこまで、村人は避難したようです──……チャンス到来ですぞ」


「お! じゃ、餌の準備かな?」

「今回は活きがいいぜー」


 ロード、ラ・ランクは何やら意味深なセリフを吐き、

「それでは、そろそろレイルを置いてきましょうか?」

 ボフォートはレイルを物のように見てくる。


「え……? 俺??」


 い、一体……。


「な、何の話だよ……?」


 急に話を向けられたレイルはただただ戸惑う。

 いや、それどころか──。


「ねぇ、ちゃっちゃとやっちゃいましょーよー」


「ちょ、ちょっと何のの真似だよ?!」

 ジリジリと迫るロード達に何やら怪しい気配を感じたレイルは思わず後ずさる。

 その背後を塞いだのは聖女セリアム・レリアム。


「な! ど、どいてくれ!」


 ここはまずい!

 そう思ったレイルは思わず逃げ出そうとするが、ガシリを首根っこを掴まれる。


 そして──。

 

「レイルぅ……。お前はもう用なしだ!」


 どかッ!!


「うぐわッ!!」

 唐突に蹴りだされるレイン。

 あまりに突然すぎて受け身も取れずに。宿の壁を突き破って村の広場の石畳を転がされる。


「うぐぐぐ……」


 痛みの余り息が詰まりそうになるが、なんとか起き上がる。

 奇しくも、そこはあのグリフォンに襲われたという一軒家があった場所だった。


「な、なんのことだ?! 急にどうしたってんだよ!?」


 レイルは状況が分からない。

 ただ、急にロード達が牙をむいたようにしか────……。


「どうしただと……? 本ッッ当にまだわかんねぇのか?」

「え?」

 

 クルァァアアア!!


 空を圧する咆哮!

 そして、サッ! と、上空を何か巨大なものが航過していく。


 ──確認するまでもない……グリフォンだ。


「え? じゃない、今日でその顔とも見納めだ! そう思うと、せいせいするぜ──」

「ろ、ロード……? きゅ、急にどうしたんだよ? お、俺何か悪いことでも……? それとも──」


 それとも、何か狙いがあってのことか?


「はん! バぁカ……!」

「ぐ! もしかして、お前ら!!」


 ……うすうす勘付いてはいた。

 何か別の目的があってレイルを勧誘したんだと──……だけど!


「何度も言わせるな。お前はもう用なしなんだよ──今日までご苦労さん」






 ──ピィン♪






 澄んだ音を立てて金貨が空中を舞う。

 それは手切れ金のつもりなのだろう──叩きつけられるようにして一枚がレイルの服に滑り込み。他の数枚は地面に転がった。


「──え? よ、用なし……って。は? え……?」


 こ、この金はなんだよ!

 ま、まさか──こんなところで……。


 ニチャァと笑うロード達の顔を見て、

 その後で散々罵るロード達の声を聞いて、


 容赦なくレイルに刃を突き立てるロード達に悪意を感じて……!!





 やっと気づいた──────!!




「──じゃあ、大人しく食われてくれや────『疫病神』ちゃん! ぎゃははははは」


 ロードの醜悪な顔が愉快満悦に歪み、レイルを絶望のどん底に突き落とした。

 コイツは初めからそのつもりで────……!!


 ろ、

 ロード……。


 ロード!!


「ろ、ローーーーーーードてめぇぇええええええ!!」


 血を吐くようなレイルの絶叫。

 それを受けて笑い転げるロード達。


「今さら気付いても遅いんだよッッ!」

「「「ぎゃははははははははは! この間抜けがぁ!」」」


 無様に地面に転がるレイルをあざ笑うロード達。

(あぁそうか! あぁそうかよ!! わかった。今わかった!!)


 ──全部理解できた!!


 ここにきて、すべてを理解できてしまった……!


 人食いグリフォン。

 疎まれているDランク冒険者。


 Sランクの所以────……。


 つまり──────。

「最初から、俺を餌のつもりで連れて来やがったのか──テメェぇぇぇえええええ!!」

「あったり前だろうが!! お前みたいなクズ冒険者、他に使い道があるかよぉぉぉおお!──おい、ラ、タンク」


 無造作にラ・タンクを呼びつけたロード。

 クィっと顎でレイルを指し示すと、


「おっけー。じゃ、ちょっ~~~とは血ぃを出してもらうぞレイル。イ~イ匂いがしたほうが食いつきがいいんでな────。クククよかったな~、最後に俺たちの役に立ててよー。ひゃははははははははははは!!」


 もはや、レイルを人として見ていないその目!!

 その目ぇっぇええええ!!



「あばよ、『疫病神』ッ!」



 コイツ──!!

 コイツッ!!


「お前らぁっぁぁああああああああああ!」




 ザクッ!!




「ぐぁぁああああああああああああああああ!!」



 ラ・タンクの槍が容赦なくレイルの肩を薙ぐ。

 その瞬間激痛と鮮血が迸る。


「おーおー出る、出るぅ」

「すっげぇ、出汁だな。こりゃ食いつきがよさそうだ」

「せいぜい叫んでグリフォンを呼んでくださいね、生・き・餌・さん」


 ゲラゲラと笑うロード達。


「だーいじょうぶよー。痛いのは一瞬。旨くすればパクリと言ってくれるし、その前にちゃ~~~んと、グリフォンは仕留めてあげるから」


 んね?

 そう好き勝手に言って、全員がフラウを振り返る。


「………………準備よし」 


 ジャキンっ!!

 物騒な金属音とともに、フラウが馬車の中からコクリと頷く。


 そして、


「……僕は、警告したよ──」


 そういって一度だけレイルを見ると、あとはもう視線を合わさないフラウ。


「ふ、フラウ……! お、お前らぁぁあ!! ぐぅぅうう!」


 ま、まだだ。

 まだ肩を切られただけ────ポーションを……。


「おい、逃げるぞ、グリフォンが来る前に足も切っちまえ」

「あいよー」


 ロードの無情な指示に、ラ・タンクが自慢の槍で宿の中からレイルの足を切り裂く。その激痛!!


「ああああああああああああ!!」


「お、いい声──」

「あ、ポーションを飲もうったって無駄ですよ。私たちが支給したのはただの砂糖水ですから、ウヒャハハハハ!」


 そういって大笑いするボフォート。

「なんだと! ぐぁ!!」


 今度はロード自身から薄く切られて、背中からも血が溢れて地面に染み込んでいく。

(なんてやつらだ……!!)


 どーりで気前よくクソ高い上級ポーションをレイルにくれると思ったら……!


「くそぉ!!」

(し、死んでたまるか……! こんな、こんな奴らのために──……)


 満身創痍のレイルは動けず。村の広場で血まみれになって蠢くのみ。

 そして、上空を黒い影が────……。


「「「「きたーーーーー!!」」」」


 うっひょー! と大喜びの声を上げるロード達。

 

 来たーって?

 何が……?


「って……」


 ははは……確認するまでもないよな────。


『クルァァァアアアアアアアアアアアア!!』


 ズドォォォオオン!!


 砂埃とともに、降り立つ巨大な質量。


 そこから強烈な獣臭。

 そして、巨大な影────!!




「ぐ……!」


 人食いグリフォン!!!


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