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第7話「Sランクパーティ」

 それから数日の間。

 レイルはロード達のパーティの一員として行動した。


 最初のうちは、大して貢献できるとも思えなかったので、できることは何でもやろうと思った。


 しばらくの滞在のあと、街を出てどこかへ向かうロード達に仲間として馬車に同乗していたレイル。

 夜が近づけば野営の準備だ。


 そして、


「──俺が、俺が全部やりますよ!」

「ん? お、おぉ。ありがとうよ」


 重騎士ラ・タンクの見張りを交替するレイル。

 ……これくらいしかできない。


 ──だからやる、やらせてもらう。

 おっと、馬車のほうもやらないとな。


「御者はまかせてください!」

「おや? よろしいので? 助かりますよ」


 賢者ボフォートから馬の手綱を受け取るレイル。

 彼の貴重な読書に時間を提供するのもDランクの務め。


 ──なんでもやる。やらなければならない。


「あ、料理なら任せてください! 一人で生きてきたのでたいていのことはできます」

「あら? べつに気を使わなくてもいいのよ? でも、ありがとう。お任せするわね」


 不器用な手つきで馬車の中でイモの皮むきをしていたセリアム・レリアムからやんわりとナイフを取り上げるレイル。

 危なっかしくて見ちゃいられない。


「──はい! 腕によりをかけて作りますよ」


 神殿巫女セリアム・レリアムから料理番を奪うレイル。

 高貴な血筋の方から給仕を受けるなんてとんでもない。


 それに、野営初日から芋料理じゃ味気なさすぎる。

 まだまだ新鮮な食材が使えるからな。


 でも、こんな時、『手料理』のスキルがあればよかったと少し後悔……。

 だけど、ずっと一人で生きてきたので料理くらいはお手の物だ。




「さーて、やるとしますか」


 ※ ※


 さて、そんなこんなでロード達と野営をして初めての料理番を引き受けたレイル。

 馬車が野営場所につくと同時にテキパキと準備を整えていくレイル。


「メニューはどうしようかなー♪」


 ロード達の使う食材は、さすがSランクパーティなだけはあって、かなり高級品が多い。


 これらは、辺境の町いちの品ぞろえを誇る『よろず屋カイマン』で購入したらしい。

 それをレイルが手早く下ごしらえしていくのだが……。


「うわ。どれも高級品ばかりだな──」


 生鮮食品は長持ちしないので優先的に使うとして、

「生野菜と、緑黄豆と──。あとは…………お、魚かー」


 肉を使おうかと思ったが、

 一番アシの早い魚を優先して使うことにした。

 

 メニューは複数。

 メインディッシュと、スープ、サラダ。それとデザートだ。


「さーて。ちゃっちゃとやりますかね~」


 雑用ばかりやらされてきたせいで、料理もお手の物。

 せっかく仲間にしてもらったんだから、こうやって有用さをアピールしないと、ね。


 それじゃ、


 まずは火をおこし、枯れ枝と土をかぶせて煙道を作る。

「んーふーふー♪」

 慣れた手つきで直火には鍋をかけると湯を作り、湯が沸く前に手早く魚をさばいていく。


 調理ナイフ乗せを使い、ガリガリと鱗を落とし、ワタをとると───。


「……よっと!」


 ストン! と、頭を切り落としたら湧き始めた湯に落とし、

 さらには、灰汁(あく)を取りつつ出汁を取る。


 並行して身を三枚におろすと、

 同じく骨身を湯に落とし、代わりに頭を上げた。


 ずず……。

「ん……いい出汁」


 お玉に救ったスープを味見すると滋味深い味がした。


「へぇ、レイルは手際がいいな」

 感心したようにロードがわきからのぞき込んできた。

「あ、お待たせしてすみません! すぐに──」

「いいからいいから、楽しみに待ってるよ」


「は、はい!」


 柔らかく微笑むロードに、

 彼らを待たせるのも悪いと思いピッチを上げるレイル。


 手早く、サクにした切り身を煙道の中につるすと、焚火から出る煙を利用して魚を燻していく。

 これは、燻製というよりも煙の風味をつけるためだ。


 その間にも手は止めない。

 まずは、簡単に作れるサラダを整えていく。


「サラダの基本は三つのC~♪」


 綺麗(クリーン)に、

 パリパリ(クリスプ)に、

 しっかり冷やし(コールド)て──。


 まず青物野菜を水で洗いしっかりと水を切る。そして、塩で揉み込み水分を飛ばしながらサッと水気を取ると、さらにより分けていき上からガリガリとチーズを削り、さらに乾燥した香草を崩して散らす。


「仕上げっと!」


 最後にニンニクオイルをたっぷりかけると、

 じゃ~~~ん! 「青物サラダ、チーズ和え」の完成!!


「──よし、次はスープ!」


 次に沸騰してきた湯に出汁が染み出すのを確認すると、骨身を上げて香草を足していく。

 そこにトロミをつけるために目の細かい小麦粉を混ぜ、火から遠ざける。


 その上に、パンの耳を落としておかゆ風にすると、

 ばばーーーん! 「魚のブイヨン風、すいとんスープ」の完成だ!


「おぉ、うまそうじゃねーか!」

「イイ匂いですねー」


 重騎士ラ・タンクと賢者ボフォートが連れ立ってやってくると、焚火の傍に腰を下ろした。


「もう完成します。少しだけ待ってください」

「あ、私もいただくわねー」


 セリアム・レリアムが優雅なしぐさで携帯椅子に腰かけると、レイルは燻製風味にした魚を煙道から取り出す。


 少し生なので、食べれない人もいるかもと思ったが、一番最後に席に着いたロードの様子を見るにその心配はなさそうだ。


「お待たせです!」


 レイルは耳を落として柔らかい部分だけ使ったパンに、

 燻製風味の魚に切り身を置き、そこに細かく刻んだ玉ねぎをたっぷりと乗せて、仕上げに香草と岩塩をパラパラとかけた。


 よっし! メインディッシュの完成ッ!


「ハーリング風、スモーキーフレーバーのサンドイッチです」


 ひゅー♪


 誰ともなく口笛を吹き、次々にレイルの手からパンを受け取るパーティのメンバー。

 さらにそれぞれにサラダとスープを手渡すと、最後にレイルも自分の分を手にした。


「あ、あの……。た、大したものじゃないですけど召し上がってください……」


「おいおい、たいしたものだぜ?」

「スゲーじゃねーか!」


 次々に褒められ、恥ずかしそうに顔をふせるレイルは、

 デザート用の梨を切って皿に盛って、かるく塩を振る。


 きっと、もっと美味しいものを食べているに違いないロード達に出すにはふさわしくないだろうけど……──。


 こんな田舎料理が口に合うかわからないと思いつつも、冒険者としての下積みだけは長いレイルの培ったものをつぎ込んだ。


 彼らの顔を見るのが少しだけ怖かった。


 だけど、

「す、すげーじゃねぇか! セリアム・レリアムの作った飯はとてもじゃないけど食えないからな──ぎゃはははは!」

「ちょっとぉぉお!」


 ゲシゲシと肘でつつかれるラ・タンク。


「いや、実際凄いですね。短時間で最大効率────うむ、うまい!!」


 神経質そうな顔の賢者ボフォートも、サンドイッチを頬張るなり大絶賛。


「スープも行けるわね~。魚の味がしておいしいわ」


 いつも干し肉を煮込むだけだというスープが、滋味深い味になっていることに驚くセリアム・レリアム。

 やんごとなき血筋の方に褒められレイルも柄にもなく照れてしまった。


「サラダ、シャッキシャキだ。すげぇ」

 モリモリと口にサラダを詰め込んだロードが瞑目して味わっている。

「冷やしてきれいに洗い、しっかりと水気を切るとサラダの味はグッと引き立つんです」

「へー……! こりゃ旨いわ」


 そういって、次々におかわりの声が飛ぶので、レイルは忙しそうに給仕しつつ自分も味わう。


(よ、よかった……口に合ったみたいで──)


 あっという間に空になったスープ。

 レイルもなんとか自分の分を確保して一口。


(うま!! イイもの食ってんなー)


 さすがSランクといったところか。

 消耗品に過ぎない食材も一級品ばかり。


「いやー食った食った!」

「満足したわ~」


 あっという間に完売御礼となった食事に、ロード達は大満足して食後のお茶に興じていた。


「あれ?…………あ! しまった」


 スープの器が一つ余っていると思えば……。



「ふ、フラウさんの分を出していませんでした!」

 最初に顔合わせをした時から、ほとんど口をきいていない少女を思い出し慌てるレイル。


 彼女は、ドワーフ族の少女。

 このパーティではレイルに次ぐ新人らしいが、技術屋として縁の下の力持ちとして活躍しているらしい。

 実際、馬車も装備も彼女の手によるものか整備によって維持されているという。


「う、うっかりしていました……! すみません!」

「ん? あー……フラウはいっつもあーなんだよ、気にすんな」


 ズズズーと茶をすすりながらラ・タンクは興味なさげだ。

 ボフォートやセリアム・レリアムも難しそうな本を読み始めて全く顧みない。


「おーおー。フラウなら、向こうで設営中だ────ま、腹が減ったら来るよ」


 ロードも聖剣の手入れをしつつ、興味なさげだ。


「いや、でも……」


 食材は使い切りあらかた食べつくしてしまった。


「あ──」


 そうだ。これがあった。

 レイルは出汁を取った後の魚のお頭と、骨身を取り出すと、最後の調理に掛かった。


 ロード達がのんびりとしている間に手早く調理を行う。


「──腹の足しには心もとないけど……」


 御頭(おかしら)の一番おいしい部分──頬の身をナイフで削いで取り出すと串にさして炙る。

 あとは、残った骨身をニンニク油でカラカラにあげていく。


 ジュウジュウ♪ と心地よい音が鳴りやむ。

「うん……!」

 さっと火が通ったのを確認すると、さらに盛り付けて少し離れた位置で一人天幕を設営しているところに持って行った。


 一人黙々と天幕を立てる少女に一瞬声をかけるのをためらうが、チラリと彼女の視線がレイルを捉えたこときっかけに、

「あ、フラウさん──天幕(テント)ですか? 俺が張りますよ!」


「レイル?…………僕に気を使わなくていいよ。──あと、あまり話しかけないで」

「え?」


 皿を切り株の上に置き、

 ドワーフ族の神童。技術師長官フラウの天幕設営を手伝おうとするレイル。


「ど、どうして……?」

「……気にしなくてもいい。もう少しで終わるから」


 ──あ、はい。


 天幕の重い敷幕を危なげなくセットしていくフラウに取り付く島もない。

 そうしているうちに天幕が完成し、フラウが肩をもみながら一息ついていた。


「なに……? まだいたの?」


 レイルを見もせずに素っ気ない態度のフラウ。


「いや、食事を持ってきたんだけど──」

「……いらないわ。僕はいつも通りこれでいいから」


 そういって、バッグの中から干し肉と固パンを取り出す。

 しかし、見るからに固そうでマズそうなそれ──。


「でも、せっかくだから──」

「いらないってば!」


 差し出した魚の炙り身に見向きもしないかと思えば、



 ぐーーーーーー……。



「うぐ……」

 顔を赤らめてそっぽを向くフラウ。

「はは……それじゃ、ここに置いとくから。えっと、頬身あぶり焼きと、骨のビスケット。量はないけど、塩気を利かしたから、疲れが取れるよ」


「………………ありがと」


 終始そっぽを向いたままだが、フラウはレイルが背を向けるときに、ボソリと礼を言ってくれた。

「うん」


 コクリと小さく頷いた彼女は、小さな体で天幕の中に荷物を運びこんでいく。

 見た目に反して力持ちなのか、あっという間だ。


 ……嫌われているのだろうか?


「じゃあ行くね?」

「…………ん」


 気さくなロード達とは違い、フラウとだけは中々馴染めないけど……、

「……これ」

「え?」


 去り際のレイルに話しかけたフラウ。

 もじもじしながら、お礼のつもりなのか小さなクッキーを一袋くれた。


「あ、ありがとう」

「…………僕には、これくらいしかできないから──」


 へ???


 そういって、フラウは機械類を手に天幕に潜り込んでしまった。

 「これくらしいか──」って、どういう意味だろう……。


 しかし、言及することもできずにいると、ロード達に呼ばれて食後のお茶の輪に加わるレイル。

 フラウはみんなと一緒に行動しないのだろうか?


「──フラウさんはいいんですか?」

「ん? あぁー。だから、気にするなって。……あいつはマイペースなんだよ」

 と、こともなげに言うロード。


「は、はぁ……?」(うーん??)


 マイペース……。

 たしかに──。


 普段からパーティとは一線を置くようにしているし、

 今も天幕を設営し置いた後は、ひとりで機械いじりを延々とやっている。


「……それにしてもレイル、頑張ってるじゃないか」

「え? あ、ぁあ。ありがとう、ございます」


 ふいに褒められ、柄にもなく照れてしまうレイル。

 Sランクのロードに褒められると、嬉しくて仕方がない。


「飯もうまいし、見張りも変わってくれる。────皆、感謝してるぜ?」

「そ、そうですか? こ、光栄です」


 そう。日々の雑用はもちろんのこと、

 夜間の見張り、馬車の御者、そして料理──。


 できることは、なんでも──。何でもやってやる!


(だけど……)

 ──こんなのでいいのだろうか?


 今さらながらどうしてDランクの自分を仲間にしてくれたのかわからない。

 少なくとも【盗賊(シーフ)】としての力量を買われたわけではなさそうだ。


(一体、ロードはどうして俺を────??)

 彼は勧誘した時、レイルのことを折れない心の持ち主と評していたが……それが今後どう関係するというのだろうか?


 メンタルの強さや、我慢強いだけでSランクパーティに入れるものなのだろうか?

 スキルだって、一個しかないし──。


「なぁ、レイル」

「は、はい!」


 ふと疑問がわきそうになったレイルを呼ぶロードの声。

 思わずドキリとするも、


「──はは。だから、その敬語やめていいんだぜ? 俺たちは仲間だろ?」


 え??

 な、なか──ま。


 ほ、ほんとに?!


「…………は、はい!! あ────おう!」


 仲間……!


 なんとか、砕けた口調にしてみるも、どうにも慣れない。

 だけど、


「おうおう、そうだぜ、それでいいんだよ」


 ガハハハ! と豪快に笑うラ・タンク。

 セリアムもボフォートもおかしげに笑った。


 その笑顔を見ていると、レイルも心に沸いた不信感がシオシオとしぼんでいくのを感じた。

 あぁ、そうか。





 これが仲間なのか────と。







 もっとも………………。


 そんな風に思っていられるのは──────今のうちだけだとレイルがどうやって知ることができるだろうか?




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