第6話「Sランクパーティからの勧誘?!」
え?
そう言って、音もなくレイルたちの背後に立った数人の男女。
キラキラの装備に、
美男美女──……と、チビっこ。
人間とドワーフの混成パーティ。
いや。それよりも、あの輝く剣は────……。
「せ、聖剣────グランバーズ!!……ってことは。ま、まさか」
こんなレイルに声をかけてくれたのは、
「ゆ、勇者ロード様!?……って、ことは、」
彼と彼の背後に並ぶメンバーこそ、
「────Sランクパーティ『放浪者』ッッ?!」
王国中に有名を轟かせる最強のパーティがある。
それが目の前にいる青年……「勇者ロード」が率いる、『放浪者』だった──。
「ハハッ。知っていてくれて光栄だね。……君がレイルくんだね?」
「え?……あ、は、はい!」
あ、あああ、当たり前じゃないか!!
全冒険者の憧れであり、目標!!
冒険者の頂点にして、最強──────Sランク冒険者と、Sランクパーティだぞ!?
有名なんてもんじゃない!!!
「ど、どどどお、ど、」
「おいおい、落ち着いてくれよ」
過呼吸気味になりつつも、レイルはゆっくり深呼吸。
「はー……。はー……。ど、どうして俺を?」
ど、どういうことだ?
なんで?
なんで俺なんかに声を────?!
「フフッ。それはだね、」
上品に笑う勇者ロードは、高級そうな紙バサミを取り出し、ペラペラとめくり始める。
「…………レイル・アドバンス。──20歳。現スキルは『七つ道具』を所持」
え?
「そ、それって──」
「──適正判断から後衛職である【盗賊】を選択。その冒険者登録は比較的古く、15歳の時──ここからほど近い、出身地の僻地の村で登録……」
グッと口を引き結ぶレイル。
ロードが見ているのはギルドの用意した人事資料に、その他人間の所見が加わった調査書類らしい。
だけど、なんでそんなものを────。
「……村では、蛇蝎のごとく嫌われており────原因は幼馴染のミィナの変死、と」
ここまで読んでロードは苦笑いをする。
「これだけでも、かなりキツイよね」
「そ、それは……」
公言するような過去ではない。
だが、【鉄の虎】のメンバーや、ここの冒険者たちがレイルを疫病神と呼ぶくらいには、すでに周知の事実でもあった。
そして、
「……さらに、母親は産褥熱で他界。飲んだくれの父親も君に暴力を度々ふるっていたろくでなし──」
「ぐ……!」
そ、そんなことまで……?!
「──そして、ついには父親も幼馴染のミィナが変死した近日中に行方知れず…………どちらも君に容疑がかけられているね」
そうだ……。
これらの出来事が積み重なり、レイルは故郷の村にいられなくなった。
もっとも──。
「……もっとも、アリバイがあるし、動機もない。ミィナ死亡の前日に大喧嘩をしたくらいで、それ以外は仲の良いカップルのように思われていたらしいね──」
そうだ。
ミィナを俺が殺すわけがない!!
そして、家族も────ミィナもいなくなったあの村にはもう何の未練もなかった。
「……そして、全ての不運が重なり────君は、レイル、君は『疫病神』と呼ばれ、どこに行っても疎まれるようになった、」
──違うかい?
そう言ってロードはレイルの顔を覗き込んだ。
だが、その頃にはすでにレイルはロードの顔を直視できないくらいに自己嫌悪に陥っていた。
どこに行っても、
誰に出会っても、
何が会っても…………レイルには過去が付きまとう。
周囲に人々を不幸にするというジンクスと『疫病神』の二つ名が────。
「……ついでに、教会で騒ぎを起こし、スキルを貰い損ねたってね──はは、凄い君は」
く……そんな話まで。
「それで……。それを調べて、俺に何の用ですか? 今さら、勇者さまが、ミィナの事件を調べてるんですか? それとも、」
「へ……? ミィナ? 事件────おいおいおいおい。レイル、何か勘違いしてないか?」
は? 勘違い?
これだけの人事資料を集めておいて、噂話まで確認しておきながら……勘違い?
「ち、違うんですか?」
じゃあ、『疫病神』のレイルをあざ笑いに来たのか?
それとも──駆除か?
そう思ってすこし身構えたレイル。
もっとも、Sランク相手に、万年Dランクのレイルがかなうはずもないのだが……。
「違う違う違う! 誤解しないでくれ──」
ニコリと笑うロードは手を差し伸べた。
その暖かなまなざしと、力強い手に一瞬戸惑う。
「な、なんですか?」
「……握手さ。──これからの仲間候補に、」
──もちろん。
「……もちろん、君が良ければだけど────」
「え?」
な、
「仲間…………?」
な、なにを?!
この人は何を言っているんだ?
「や、疫病神で……Dランクの俺を? 何のために?! しかも、スキルだって!」
スキルを貰い損ねたのは痛恨の痛手だ。
そんな欠陥を抱えた人間を仲間に?
しかも、レイルは疫病神とまで忌み嫌われているんだぞ──?!
「…………ふむ。君は疫病神なのかい? そして、いつまでもDランクでいるつもりかい?」
ち……。
「違う!! 俺は……。俺は────」
俺は────……!
「うん!! うん! そうだね。そうだと思ったよ」
力強く頷くロード。
そして、
「だからだよ。だから君を迎えに来た────……どれほどの逆境に置かれても、くじけない意志の強さ、」
そのうえで、
「あぁ、そうだよ。俺たちは君のような心の強いものを求めている! 探していた!! 思った通りの人物だったよ────レイル!!」
さらに力強く差し出される手。
それを反射的につかみそうになって、一瞬おじけづく。
だが、
本当に俺なんかを……?
(てっきり……)
……てっきり、メリッサの冗談かと思っていた。
落ち込んでいるレイルを慰めようとするメリッサの気遣いだと──。
ふと彼女を見ると力強く笑い、大きく頷いた。
(メリッサさん……!)
「で、でも。俺にはスキルが────!」
「あぁ、聞いてるよ。だけど、それは重要じゃない──君がスキル授与式に参加する前からギルドマスターに打診していたんだぜ? 出なきゃ、こんなタイミングで来れないさ」
「た、たしかに…………。じゃ、じゃあ!?」
本当に!?
「もちろん!」
あぁ、本当なんだ。
Sランクパーティが……!
あの勇者ロードが俺を!!
俺を必要だと言ってくれた!!
……つまり、冗談でもなんでもなく、本当のことなんだと!
「さぁ、レイル!!──俺たちは、君みたいな冒険者を探していたんだ。心が強く、しぶとく、絶対に屈しないその粘り強さを!!」
「わ、わかり、ました……」
ガシリ!!
「うん! 詳しくは後々──ぜひ、君の力を借りたいんだッ。頼む、君が必要なんだ──レイル」
そういって、ついに勇者ロードの差し出す手を掴んだレイル。
その瞬間、レイルはSランクパーティの仲間となった。
Dランク冒険者からの大抜擢!!
遠巻きにそれを見ていた、ギルドの冒険者たちが騒ぎ出す。
「お、おい! れ、レイルが?」
「あの『疫病神』がSランクパーティ?!」
「さっき解雇されたばっかりじゃねーか!!」
ぎゃはははは!
「ってことはよぉ……!」
「あぁ、そうだ。【鉄の虎】より、格上だ。ぷぷぷ」
「ひゃははは! ジャンの野郎────いい面の皮だぜぇ! ぎゃはははは」
あーっはっはっは!
ギルドの冒険者どもは、レイルの大抜擢よりも、彼を追放した【鉄の虎】の見る目のなさを嘲笑った。
なにせ、ごみ扱いされていたレイルがいきなりSランクの仲間入りだ。
……これは恥ずかしい。
その様子に気付いたジャン達は顔を青くして、
「嘘だろ……?」
「れ、レイルがSランクパーティ?!」
「ちょ、ど、ど、どーすんの?」
「に、逃げよ? なんか、やだ──」
慌てて酒場を逃げ出すジャン達4人組。
その様子をゲラゲラと笑って見送る冒険者ども。
(へへ! ジャンめ……! 見たか! 俺だって……俺だって!!)
……簡単に追放しやがって────ざまぁ、みろ!
レイルは内心でそんなことを考えているとは露知らず、
ロード達は、ちょっとバツが悪そうにジャン達を見送っていた。
「すまなかったね……。前の仲間だったんだろ? こっちとしては別に彼らを──」
「いえ! 胸がすっきりしました! なんていうか、──ざまぁみろって気分です」
実際はそこまで、スッキリしたわけではないけど────だって他力本願だしね。
それでも、解雇されたことに対する留飲はいくらか下げることができた。
「ありがとうございます!」
「おいおい、敬語はやめてくれよ────仲間だろ?」
え?
「う……うぅ──」
「お、おい?! ど、どうしたんだよ?」
レイルの目からこぼれる一筋の涙が…………。
慌てたロードがレイルに駆け寄る。
「だ、大丈夫か?! な、なにがあった?」
「い、いえ……その。嬉しくて──」
だが、レイルは何も言えず、ただただ目じりが熱くなる。
…………『疫病神』と言われるようになって以来、誰かに必要だと言われたのは初めてのことだった。
──だから嬉しかった。
Sランクパーティのリーダーに必要だと言われて嬉しくて嬉しくて──その瞬間だけでも、人生のすべてが報われた気になった。
だから、ロードの手を握り返した!
熱く! 固く! 頼もしいその手を!!
「お、俺の名はレイル──……! レイルです」
「あぁ、知ってる! よろしくな、レイル!」
固く握手した二人。
「これで、晴れて仲間だな────みんなを紹介するよ」
そして、ロードがバンッ! と力強くレイルの肩を叩くとそれを合図にしたかのように、
「よろしくな!」
「よろしくお願いしますよ」
「よろしくね♪」
あぁ、彼らがそうか。
吟遊詩人が唄にしたものを聞いたことがある。
パーティの守り手──重騎士 ラ・タンク!
パーティの知性──賢者 ボフォート!
そして、
パーティの理性──神殿巫女 セリアム・レリアム!
そうだ。
これがSランクパーティだ!
冒険者が夢にまで見る最高峰──!!
Sランクパーティ『放浪者』なのだ!!
「よろしく……。よろしくお願いします!!」
メンバーと口々に挨拶をかわし、
みんなは、優しくレイルの肩を叩いてくれた。
最後のメンバーである。
たしか、比較的新人であると聞く、ドワーフ族で技術士をしている少女もいた。
だが、彼女はギルドの隅っこで機械いじりをしており、まるでロードに関心を示していない。
しかし、それを気にする間もなく、
「さぁ、詳しい話は俺たちの宿で話そう────遠慮するなよ、君はもう仲間なんだ」
「…………はい!」
涙ぐむレイルと、肩を組んで歩きだすロードたち。
「おいおい、泣くなよ」
「おやおや、まだ泣くのは早いですよ。厳しい旅はこれからです」
「うふふふ、嬉しいのね──わかるわ」
新しい仲間の、温かい言葉を聞いて心が温かくなったレイル。
それを頼もしそうに見送るメリッサ。
「頑張ってくださいね、レイルさん!」
「はい……ありがとう、メリッサさん!」
力強く頷き返すメリッサと別れ、レイルはこの日────ロード達の仲間になった。
夢のような話で、パーティ追放からの逆転劇!!
そして、万年Dランクの大躍進だ。
……これならば──。
たとえ、戦闘向きでない【盗賊】であったとしても、Sランクパーティのロード達にについていき、Lvを上げていけばいつか……。いつか!
いつか、本物の強さを手に入れることができるかもしれないと──。
レイル──その思いでいっぱいになった。
だから、聞けずにいたのだ。
なんで、Sランクパーティの『放浪者』が、レイルのようなDランクの冒険者を仲間にしようとしたのか────……。