第31話「決戦の時」
わーわーわー!!
ひゅーひゅー♪♪
場所はギルドの修練施設──。
暇を持て余した冒険者が観客だ。
すでに会場は大盛り上がり。
先日の騒動はギルド中に広まり、近隣の町からも好事家がやってくるほどに盛況だった。
「さぁさ、張った張ったー! 『疫病神』VS『放浪者』!! 世紀の対戦だよー! 賭けなきゃ損、損!!」
威勢よく客を呼び込む怪しい賭場が起きている。
そして、群がりつつも胴元を冷やかす冒険者たち。
「「おいおい! オッズはどうなってんだよ? レイルに賭ける奴なんか要るのか?」」
「「ぎゃははははは! いるわけねーって! ぎゃーーーはっはっは!」」
当然、『放浪者』にレイルが勝てるなど誰も思っていない。
ほんの数人、大穴狙いがいるのみで、オッズはなんと1000:1。
圧倒的に『放浪者』人気だ。
勝っても微々たる金にしかならないが、それでもわずかばかりのお小遣いになると思い大金を放浪者につぎ込む連中もいる。
一方で、まぁ、お祭りみたいなもんだし? とレイルに小遣い程度の金銭を払うものもいる。
この手の連中は別に負けてもいいのだろう。ただの楽しみの一環として日銭をつぎ込んでいるだけ。
そして、
「こら、そこの怪しい予想屋! いい加減なオッズを流すな! あと勝手に『放浪者』のブロマイド売ってんじゃねー!!ーーーーーーーーー!! おい、待てこら!」
ギルドの職員が予想屋を気取り冒険者を追い散らしても、慣れた様子で場所を替え人を替え、結局ドンドン掛け金が広がっていく。
「ど、どーなってんのよこれ」
メリッサは通常業務をしていたはずなのだが、いつの間にか交通整理のようなことをやらされる羽目になっていた。
いつもなら、数個グループの冒険者が汗を流しているだけの修練施設が、押し合いへし合いの大騒ぎだ。
「がっはっは! どうだ、俺の考えは大当たりだろう?」
そう言って胸を張るギルドマスター。
ハゲ頭に鉢巻、そこに掛札を改良に挟んで胴元気取りだ。
「あ、ハゲマスター」
「誰がハゲだ!!」
オメェだよ。
「つーか! ハゲマスターってなんじゃーーー!! ギルドマスターだとして、マスター以外一文字もあってないっつの!!」
顔を真っ赤にして茹でダコのようになったギルドマスターをさらりと無視して、群衆を流し見るメリッサ。
そのまま、ジト目でギルドマスターを見ると、
「マスター……もしかして、この公認賭博のために5日も時間かけたんですか?──どーりでよその町の冒険者も多いと思えば……」
「くっくっく。目の前に金蔓があるんだ、使わない手はないだろうが?」
どうやら、ギルドマスターは賭けの胴元で一山当てるべくしっかりと宣伝していたようだ。
駆けの成立はともかくとして、Sランクパーティの模擬戦なんてものはそうそう見れるものではない。ゆえに、その知名度を利用した立派なエンターテイメントだ。
──このマスター。ハゲにみえて、なかなか抜け目がない。……抜け毛はとっくにないだろうが。
「──うるせぇ!」
「何もいってませんが?」
……しかも、これ。一見して賭けが成立していない様に見えて、しっかりと胴元が儲けられるシステムがあるらしい。
オッズが低すぎて客が集まらないのを見越して、自己資金まで投入してオッズを操作しているのだとか。
「もうちょっと、マシなことに禿げた頭使ってくださいよ」
「禿げって……おまッ!────へ。俺も元は冒険者よ。こーゆー騒ぎを利用しない手はねぇ!」
「あーそーですか」
呆れた様子のメリッサは完全にギルドマスターに対する敬意を失っていた。
「……これ、通常業務外なんですから、ちゃんと手当くださいよ」
「わーってるよ。勝敗が決まれば全員にボーナスとビールを奢ってやるぁ」
「その言葉忘れませんからねー」
「へーへー」と適当に返事をしながら冒険者の中に自ら飛び込んでいくギルドマスター。
あれじゃ、マスターというか、ただの賭場のオヤジだ。
またオッズに変動があったのか、「「「わっ!!」」」と沸き返る冒険者ども。
まだ、レイルの姿がないのに、大騒ぎだ。
「ほんと、大騒ぎね──」
「……田舎ですからね」
「ひゃ! れ、レイルさん?!」
うんざりしているメリッサの肩を叩いたのは噂のレイルであった。
そして、その姿を目ざとく見つけた冒険者が大騒ぎする。
「「「うぉぉおお! レイルがいたぞ! 本当に来た!!」」」
「「「ちくしょー! 死んでしまえ! お前の負けに金貨10枚も賭けてんだぜェ!」」」
「「「しーね!」」」
「「「しーね!!」」」
「「「しーね!!!」」」
わずかばかりの取り分のために、レイルに死ね死ねコールだ。
そのうえ、なんたって『疫病神』のレイル。
美人やイケメンの揃ったSランク冒険者パーティ『放浪者』と比較するのもおこがましい存在なのだから仕方がない。
「「ぎゃははは! 俺たちは大穴狙いよ! レイルぅ! 頑張って勝てよー銀貨一枚が金貨10枚になるかもしれないからよー。ぎゃははははははは!」」
「「逃げずに来たレイルきゅん、かぁぁああこいー! ひゅーひゅー♪」」
そして、囃す囃す!!
誰もかれもがレイルがズダボロになって負けることを望んでいるのだ。
「ひ、ひどい……。同じ町の冒険者なのに──」
「はは。いつもこんな感じでしたよ」
騒ぎのなか、レイルの声はやけにはっきりと聞こえた。
何年もの苦渋が染みわたった声は随分と重く深い……。
「レイルさん──……」
「気にしないでください。慣れてますよ」
本当は嘘だ。
どんな状況、どんな言葉でも、悪意は心に刺さる。
「あ、その……。わ、私はレイルさんを信じています! レイルさんならきっと──」
「ありがとう、メリッサさん。そう言ってくれるのはいつもアナタだけでしたね。…………期待に恥じない程度に頑張ってきますよ」
それだけを言うと、後ろ手に別れを振りつつ去っていくレイル。
「レイルさん……」
そして、沈痛な面持ちのメリッサの見送りを受けて、レイルは闘技場の中心へと向かう。
「さぁ、ケリをつけようか────ロード」




