第22話「ジャンピング土下座」
おうおうおうおう……!
忘れてんじゃねーぞぉぉぉお……。
「……言ったよな、ジャンプして、フライング土下座するって──」
「ちょ! な、なにを?!」
Sランクのボフォートは賢者王という魔法準拠の冒険者であるが、ランクからしてDランクに力で負けるはずがない。
ましてや、痛みを感じるほど、筋力も耐久力も負けるはずがないのに──。
(……なんでぇ?! なんで、カスのレイルごときにぃぃい!!)
「──報酬がどうのとか、宿がどうのとか、以前によぉぉぉぉおおおおおお!!」
ギリギリギリ……!!
「ちょっと、イタイイタイ! 離せッッ、離せ……って、なんでテーブルに私を引っ張り上げるんです? ちょ、ちょっとぉぉお」
呆気にとられるロード達の目の前で、ボフォートを引きずり回すと、テーブルに上にドカッと飛び上がるレイル!
その腕にはボフォートが吊り下げられており、先日のレベルアップの結果をいかんとも発揮!!
(なんでテーブルの上に引っ張り上げるのかって?)
そんなもんなぁぁぁぁ……。
「───決まってるだろうがぁぁぁああああ!!」
ぐわし────!
「あべべッ! 痛い痛い! か、かかか、顔を掴まないでくださいッ」
抗議を完全に無視して、顔面をグワシをひっつかむとテーブルの上から華麗にジャンプ!!
すぅぅぅ……!
「テメェらはよぉぉぉおおお!───つべこべ言ってないで、まずは、謝・罪・を・し・ろ・や、このくそボケどもがぁっぁあああああああ!!」
あ、そーーーーれ、ハイジャンプ!!
かーーらーーーのぉぉぉおおお!!
「ちょぉぉおおおおおおお! 何でジャンプしてるんですかーーーーー!」
あ?
お前が言ったんだろ??
「………………フライング土下座で謝るって言ったのは、」
テメェえええええだろうがぁぁあああああ!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
Sランク。
極大魔法を使いこなす賢者王の絶叫!!
そいつを聞き流しながら、テーブルの上から華麗なジャンプを決めつつ、レイルは叫ぶッッ!!
「────フライング土下座ってのはよぉぉぉぉおおおおおおお!!」
「ちょぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお???!!!」
フワリと浮遊感を覚えたボフォートの困惑の声などどこ吹く風。
「こーーーーーーーーーーーーやるんだぁぁぁああああああああ!!」
や、
「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
クルン、と空中で反転し、レイルとボフォースの上下が変わる。
その向かう先はと言えば……。
「ひぃ! ボフォートぉ!?」
「や、やべぇ、顔面からいくぞ、あれは──」
「み、見てないで助けなさいよ!!」
ごもっとも……。
だけど────。
「あーこれは、無理。因果応報…………」
げんなりした顔のフラウ。
彼女だけはロード達と一線を引いているだけに、助ける素振りすらない。
そして、
Sランクパーティの目の前かつ、ギルド中が見守る中で、
「───顔面を床こすり付けりて謝罪しろボケぇっぇええええええええええええええ!!」
「やめぇぇぇえあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、べしぃぃい!!」
ブッふぅぅうううううう! と、呼気の抜ける音。
そして、ドッカーーーーーーン!! とギルドの床が抜けて、ボフォートのそこそこ高い耐久力が床板を貫く。
メリメリと念入りに顔面を埋没。
さらに、後頭部を掴んでグリグリと。
「おらぁ!!」
──パラパラ……。
木くず舞う中、ボフォートの顔面がレイルによって引き出される。
「ひぃひぃ……あぶぶぶぶぶぶ……」
血の泡を吹くボフォート。
だが、これで終わりではない。
終わりなものかよ──……。
さらに、
「次は、ジャンプして、ヘッドスライングで土下座つったよな!!」
だったら、わ
───ヘッドスライディングじゃぁぁああ!
「盛大に滑ってみせろやぁぁぁああ!!!」
「ちょぉぉおおおお!! あべべべべべべべべべべべべべ!!」
──ガリガリガリガリ!!!
まずは、ヘッドからぁ!!!
「うッッらぁっぁあ!!」
がっつん!!
両足を掴んで箒で地面をはくようにボフォートを!
「うべらぁッ?!」
その後で、顔面を床にぶち当てながらボフォートを鼻血におぼれさせつつ、
「ひででででででででででででででででででででででで! し、し、しむぅ……」
これくらいで死ぬかボケ!!
ジャンプおーけー
土下座おーけー
ヘッドおーけー
「じゃあ、あとはぁぁぁああああ!」
残るはヘッドでスライング!!
だから、トドメに勢いをてけてのぉぉぉおお……!
「あだだだだだ! やめろぉぉぉおおおおお!!」
やるっつったのはテメェらだろうが!
あ、そーーーーれぇぇええええ!
「────スライディングで、フィニィィィイイイシュ!!」
おらぁぁぁああ!
「ひぎゃあああああ!────あべらばればぁぁぁああああ!!」
まるで大根おろし。
そのまま、ゴリゴリゴリ!! と───。
「ぎゃあああああああああああああ!! 禿げる禿げる禿げるぅぅうううううううう!!!」
地面に血痕を残して壁際までぶっ飛ばされるボフォート。
何度も何度もバウンドしながら、物凄い悲鳴を上げる!
はっはっは!
地面と熱いワルツでも踊れ、賢者ボフォーーーーーーーート!!
そのまま、ボール玉のように転がり、
──バッコォッォォォオオオオオン!!
「あべしッッッッ」
グワンゴワン……!
ギルド中が小揺るぎするかのような勢いで壁と床にめり込んだボフォート。
パンパンと手を払いつつ、
「ほぉら、これでジャンピング土下座完成だ。残りは誰がやる?」
ギロリと、ロード達を睨むレイル。
その足元ではボフォートが完全に目を回している。
鼻血まみれで、若干頭が剥げているが、まぁ……命に別状はないはず。
「て、てめぇ……」
しかし、さすがにこれには気色ばむロード。
ただでさえギルド中の視線に耐え切れず逃げ去ろうとしたところに、これだ。
Dランクのレイルに、Sランクがいいようにやられたのでは沽券にかかわること──。
そうでなくとも、レイルのおかげで犯罪者の汚名を着せられそうになっている。
「おい、ロード。俺ぁ、キレそうだぜぇ」
「おう、ラ・タンク奇遇だな──俺も同感だ」
『放浪者』の前衛二人がユラリと態勢を変える。
雰囲気も余所行きのそれではなく、戦闘時の野蛮な雰囲気。
急激にレベルが上がったとはいえ、所詮Dランクに過ぎないレイルにこの二人の相手は分が悪いだろう。
レイルには何か考えがあるというのか──……。
「ふん。いいぜ掛かって来いよ。策は一昨日考えてくるさ」
「はぁ? 何を言ってんだこの野郎」
「構うな、殺さなければ何とでも言い訳が付く──行くぞ!」
サッと抜刀の構えを見せる二人に、レイルも腰を落として身構える。
だが、舐めるなよ──……。何の策もなくノコノコ顔を出したと思っているのか?
レイルには特殊なスキルがあり、
それを使えば────……。
「……スキル『一昨──」
「おい! 何の騒ぎだこれは────!!」
バァン!! と、ギルドの正面扉を大きく開けて闖入者がこの場に割り込んだ──……。




