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第19話「邂逅」

 さっきから何を言っているか、だと……?


 ボケた回答をする受付嬢のメリッサに苛立ちを感じるロード。


 当のメリッサはといえば、

 ポカーンとした顔。


(ち……。使えねぇ、受付だな!)


 だが仕方ないことかもしれない。と思いなおすロード。

 きっと、事の大きさに衝撃を受けているのだろう、と。


 ──……だから、新人の受付嬢は困るのだ。

 もっと、こう大モノをだね──……!


「はぁ…………。おーい、何を言っているかだと? おいおいおーい、しっかりしてくれよお嬢さん! グリフォンだよ! グリフォン! それが二体も街の北方に現れたんだ! どういうことかわかるだろう?!」


「は、はい。まぁ、聞いておりますが……。あ、あのー……?」


 熱く語るロードの言葉を遮る様に、メリッサが口をはさむ。


「…………さっきからなんだ! おい、このギルドにはまともな職員は──」


 何なんだ、このボケた受付嬢は!!

 ロードが顔を不機嫌にゆがめるのだが……。


「……えっと、『かけがいのない仲間を失った』とおっしゃりましたが、どなたかお亡くなりになったんですか? 見たところ、全員おられるようですが──」


 全員?


「何を言っているんだ! ここで加入した冒険者がいただろう! レイル。レイル・アドバンスのことだ!」


 そう、全員なものか。

 大事な大事な、大事な囮のレイル(・・・・・・・・)がいない────。


「え、えぇ?! れ、れれれ、レイルさんが!?」


 レイルの名前を出した途端、飛び上がらんばかりに驚くメリッサ。

 その様子を見て、知り合いだったのか? と、あたりをつけるロード達。


「そう! レイルです! 俺たちの仲間のレ──」






「…………レイルさんなら、とっくに帰ってきましたよ?」



 ……………。


 ……。



「「「「はぁ?」」」」




※ ※ ※



 え?


 レイル??



 ……レイルいるの???


「…………いやいや。そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないですか。……レイルはあの村で死んだ────」


 そう。ロードもラ・タンク達も皆目撃していた。

 血まみれでグリフォンの前に倒れていたレイルを。


 あの状況で助かるなんて奇跡(・・)でも起きない限り無理だ。


「あははは。メリッサさん。それはきっと見間違いですよ──それか、幽霊でも見たんじゃないですかね」

「わっはっは! ちげぇねぇ!!」


 ゲラゲラと笑うロード達にメリッサが眉を顰める。


「幽霊も何も、レイルさんはきっちり報告してくれましたよ? グリフォンを仕留めたって──」


「「「はぁぁぁぁあああ?!」」」


 ロードたちが間抜けな表情で口をパッカーと開けて驚く。

 そして、次の瞬間。


 ぷ……。

 ぷくくく……。


「「「「ブハハハハハハハハハハハ!!」」」」


 ぎゃーはっはっはっはっはっ!!!


「あはははは、何を言ってんですか? アナタ、ギルドに勤めて何年ですか?」

「ひーっひっひひ! グリフォンを討伐だぁ? 馬鹿言ってんじゃねーよ」

「うぷぷぷ! そうですよ。そんなデマに振り回されるなんて、このギルドもたかが知れてますねー」

「くすくすくす。もーどこの誰が流した噂? 嫌になるわねー、有名になるとすぐこういう……」


 レイルがグリフォンを退治とかどんなデタラメだよ。

 つくなら、こう───もう少し、ましな嘘にしろってーの。


「いえ、噂も何も…………。というか、皆さんお仲間ですよね? 死んだとか、嘘とかどういう意味ですか?」


 あー…………。


「いや、だから────レイルは、」


 ロード達の大騒ぎにギルド中が「「なんだなんだ?」」と注目を始める。


 どうやら悪質なデマが流れているらしい。

 おまけにレイルを名乗る偽物まで──。


 それもこれも、この田舎のギルドのザルな仕事が原因だろう。おまけに、メリッサのデマを真っ向から信じる純粋無垢ッぷり──……。


(──はぁ……大方、このデマを流したのは開拓村の連中だろうな)


 村を無茶苦茶にされた腹いせに、ロード達の悪評をばら撒いているのだ。

 まぁ、宿代も踏み倒したし、

 グリフォンを怒らせたのはロード達だから、気持ちはわからなくはない。


(だが、後で覚えとけよ、田舎の貧乏開拓村め……。絶対に滅ぼしてやる!)


 と──────。


 それはさておき、

「────メリッサさんでしたか? 辛いですが、事実は事実です。……レイルは死にましたよ。俺たちの目の前でね……。グスっ。ゆ、勇敢な、かけがいのない仲間でした」


「え………………?」


 ここではっきりとレイルの死を告げるロード。


「そ、そんなはずは!!────だって、討伐証明も提出されましたし、多数のドロップ品も入手し、エリクサーも見つかったって……」


 …………。


 はぁ、……馬鹿な女だ。

 レイルがグリフォンを倒しただぁ??

 そんでもって、ドロップ品がなんだって??


「ほー。エリクサーをねー」


 ────なぁにが……エリクサーだよ。

 ありゃ、伝説級のアイテムだぞ?


 そんなもん入手したら、当分遊んで暮らせるっつーの!


 ったく。

「はぁ……。──それはデマです。俺たちのクエストを横取りしようっている悪質な連中の仕業ですよ。……まさかとは思いますが、報奨金払っちゃってたりしてないですよね?」


「あ、いえ……。金額が金額ですので、それはまだ──」

「それは重畳。よかったですよ、ギルドが詐欺にあう前で……」


 さすがに、あの大金をポンと払うような真似はしていないらしい。

 領主の出した依頼なだけはあって、真贋もきっちり見分けられているのだろう。


 誰だか知らないが、『放浪者』の上前を撥ねようだなんて舐めた真似を……。


「はー……。まったく困りましたね。まぁ───たまにあるんですよ。Sランクにもなって、冒険者界隈で目立ってくると、こういう嫌がらせがたまーに、ね──……」

「そ、そうなんです、か……?」


 ようやく話を聞く気になったのか、やたらとテンションの高かったメリッサも少しトーンダウン。


 そして、ギルド中の目が『放浪者(シュトライフェン)』達に集まる。


「えぇ、そうですとも」

「で、ですが……! れ、レイルさんが──」


 なおも食い下がるメリッサ。


「レイルは死んだんです……! 俺たちが見届けました。勇敢で称えられるべき行為です。彼は村人と俺たちを逃がすため……。そして、自ら進んで殿(しんがり)を務めてくれたんです」


「そ、そんな……! そんなバカことって───」


 ハッとして口を押えるメリッサ。

 あまりにも衝撃的な一言だったのだろう。


「えぇ、わかります。お知り合いが亡くなったということを受け入れたくないのでしょう。……俺たちだってそうです。彼の死は辛い────そして、俺の責任でもあります。……後でいくらでも罵ってください」


 キラリ! と、目に涙さえ浮かべてレイルの死にざまを語るロード。

 そして、存分に罵ってくれと言う。


 もちろん、そんなことをするはずがないと知っていて、だ。


 腐ってもSランクパーティ。実力者たるロード達を真正面から罵れる人間は、まずいないし、今まで囮に使ってきた冒険者はそもそも泣いてくれる(・・・・・・・・・・)ような人もいない(・・・・・・・・)連中ばかり。


 だから、どうということはない。

 それを知ったうえで言うのだ──。


「──ですが、レイルの偽物を(かた)るような奴はこの場できっちりと否定しなければ!」


「え、えっと……」


 オドオドとするメリッサに対して、ロードの仲間達は全員がウンウンと頷く。


「だいたい、どうやって信じるって言うんですか? 討伐証明なんて偽物に違いありませんよ」

「し、しかし、本物だと鑑定器は証明しているんですよ?」


 メリッサは奥にしまわれていたグリフォンの討伐証明だという巨大な嘴を取り出してきた。


 たしかに二体分あるし、禍々しいオーラを放っているが……。


「あーはいはい。偽物偽物────レイルにグリフォンが倒せるわけないでしょ」


「そ、そんなはずは……! レイルさんの報告は詳細で、たった一人で立ち向かい二体のグリフォンを倒したと……」


 必死な表情のメリッサを見て、ロードが思わず吹き出しそうになる。

 フラウを除く仲間も、今にも吹き出しそうだ。


 ……っていうか、笑ってるし。


「ぶふー!! れ、レイルがグリフォンを倒した?! ぶぷぷー!!」

「ら、ラ・タンクさん、笑っちゃだめですよ──ぶふふー!!」


「あはは! でぃ、でぃ、Dランクの冒険者がグリフォンを二匹もた、倒すって、なんの冗談なのよ──ぷぷぷ!」


 かけがいのない仲間と言ったわりには、酷い言い草。

 だが、それを気にするものは冒険者界隈では非常に少ない。


 ザワザワ、

 ヒソヒソと、

 さざ波のようにレイルの陰口が広がっていく。


 もちろん、あの【鉄の虎(アイゼンティーガー)】もいる。


「「「たしかに、疫病神のレイルがグリフォンを倒せるわけないよなー」」」

「「「なんだよ、ただのデマか? やっぱり疫病神だな──」」」

「「「この悪質な噂も疫病神のせいに決まってるさ。『放浪者』もあんな奴を仲間にして大変なこった……」」」


「けけ! アイツに何ができるってんだよ! 昔からレイルはそうさ!」

「「ジャンの言うとおりだせ!」」


 と、まぁ散々だ。

 それほどにレイルは疎まれていた……。


「──メリッサさん。気持ちはわかりますが、彼はDランクの冒険者ですよ? 騎士団ですら手を焼くグリフォンを彼がどうやって倒したというんです……」


「で、ですが!!」


 それでも、認めないメリッサ。

 これはロード達がどうのこうのというより、レイルが死んだと認めたくないのだろう。


 全くバカバカしい。

 なんであんな役に立たないカスのためにロード様が語ってやらねばならん、とばかりに心の中でため息をつく。


「つまり、それこそがデマだということです。Sランクの俺たちですら手を焼く大空の覇者!!──それを倒したというなら、証拠を見せてほしいものですよ!!」



 あーーっはっはっは!!




「…………あっそー。そんなに証拠が見たいなら、見せてやるよ」




 ──バンッ!



 気持ちよくレイルを罵っていたロードのもとに、派手な音を立てて扉を蹴立てる一人の影。


 そいつは、正面から堂々とギルドに乗り込むと、ロード達の目の前にズカズカと────……。



「え……?」

「な……?!」

「ちょ──!!」



 ゴツ、ゴッ、ゴッ!!



「お、お前──……!」

「れ、レ……──」



 ゴッゴッゴ!! と、固いブーツの足音も荒々しくギルドを行く人物。

 そいつこそ、(くだん)の冒険者で────胸に鈍く輝く冒険者認識票(ドッグタグ)にははっきりと「Dランク」と……。



 あぁ、そうとも。

 彼こそが疫病神と忌み嫌われる冒険者で────。

 ……万年Dランクの──。




 れ、


「「「「れ、レイル?!」」」」




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