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第18話「アイルビーバック(ロード編)」

 がやがや……。

 ざわざわ……。


 このやろー!! 俺の依頼だぞ、それは!!

 おーい! ポーションまだかー?!

 ぎゃははは! 今回のクエストは大成功だぜぃ!



 ……いつも通りに騒がしいギルドの一角。

 そこに───。



「え?! 『放浪者(シュトライフェン)』御一行ですか? ど、どうしたんですか? い、いいい、いつお戻りに??」


 受付にいた美人に声をかけるロード。

 すると、彼女は大袈裟なくらい驚く。


「??……やぁ、忙しいところすまないね。ちょっと事情があって───」


 メガネが野暮ったいものの、中々の美人だとみるや適当にイケメンオーラを出しつつ、クエストの経過報告だと告げるロード。


「──は、はい。場所を設けますので、少々お待ちください」


 メリッサと名乗った受付嬢がカウンターを離れると、その間は近くのベンチにどっかりと腰掛けるロードと、その仲間。


 彼らの表情は昨日と打って変わってツヤツヤ。


 ロード達はたっぷりと休養を取ってから、日も高くなったころに起き出すという重役出勤でギルドに顔を出していたのだ。


 本当はもっとゴロゴロしていたかったのだが、腐ってもSランクパーティ。

 しかも、デカいクエストを受注したあとだ。

 多少なりとも注目されているのは間違いない。


 そのうえ、街に入ったことは入門の際に確認されているので、さすがに何日も置いて報告するというのはよろしくないだろう───という判断だった。


 仕方なく、渋る仲間たちを宥めすかして、

 ロードを先頭に渋々ながらギルドに向かったというわけ。


 ……一時撤退にせよ、失敗にせよ───報告義務を怠ると色々面倒なのだ。


「おい、いい加減シャンとしろよ?」


 メリッサがバタバタと走り回り書類を準備しているのを尻目に、ロードは仲間たちに告げる。


「うー……了解」

 まだまだ、眠たそうな目をしたラ・タンク達。


 ロードはともかくとして、

 やんごとなき出自のセリアムレリアムや、夜更かしの好きなボフォートはまだ眠そうに目をこすっている。


 …………もう昼なんだけどね?


 それでも、宿で休んだことで昨日に比べればはるかに疲労が回復し、いつもの余裕を取り戻したロード達は、突貫作業で鍛冶屋に修理させた装備を着込み、不敵な表情だ。


 急ごしらえとはいえ、ピカピカに磨き上げられた鎧に兜。

 そして、汚れをふき取ったピカピカの武器で、……見栄えだけはまさに勇者パーティだ。


「お、お待たせしました、こちらへどうぞ」


 美人受付嬢のメリッサに案内されて、受付の隅の応接セットに通される。


 ソファーに腰を掛けると、何も言わずとも茶が提供される。──いいね、これぞSランクへの対応ってもんだ。


「ええっと……。それで、本日はどういったご用件で?」

「……は?」


 怪訝そうな顔で訪ねてくるメリッサに、ピクリと表情筋をヒクつかせるロード。

 「コイツ、まだ慣れてない新人か?」と顔で語りつつも、イケメンオーラ全開でロードは口には出さない。


 クエスト関連以外に、こんなクソ田舎ギルドに何の用があるというのか。


(ち。まぁ、いいか……)


 Sランクパーティたるもの、こういった表の顔も重要なのだ。


「ゴホン──!……それはもちろん、クエストの経過報告と、依頼継続のための融資の相談ですよ」


 融資────というか、囮の調達なんだけどね。


 キランッ! と歯を輝かせつつ、ロードはメリッサに微笑みかける。

 本当はギルドマスター辺りを出してくれれば話は早いのだが、どうも不在中らしい。


「え? け、経過報告……ですか?? それに、ご融資ですか? な、何のための……?」


(なんのためだぁ?!……このクソあま───)


 要領を得ないメリッサに若干のいら立ちを感じたロードだが、ここはグッと我慢する。


「そりゃあ、グリフォン退治のクエストですよ。まだ未達成ですが、中間報告もかねて顔を出させていただきました」


「は、はぁ? ほ、報告ですか?──……えっと、ですから何の??」


 怪訝な顔をしたメリッサは、報告書をまとめてあるファイルをパラパラと開きつつ、一応聞き取り調書を準備していた。

 どうにも要領を得ないな……と、少し苛立ちながらも、会話の途中でロードは気付いた。


 この受付嬢の顔は───……もしや?


「な、なんのって……? そりゃあ……。あ!──もしかして、もう噂が流れてるんですね」


 やはり噂は早いな、とロード達は誰ともなしに「うん、うん」と頷いた。きっと、手負いのグリフォンが近隣で大暴れしているのだろう。


 『放浪者』が仕留めそこなった、と言われているのかもしれない。


 ……まぁ、それならそれで、融資が受けやすくなるというもの。

 グリフォンなんて怪物を仕留めることができるのは王国広しと言えども、ロード達くらいだろう。


「……噂ですか? まぁ、噂といえば、噂と言えなくもないんですかね?」


 やっぱりそうか……!


 グリフォンの危機は、噂どころかそこにある危機として伝わっているようだ。

 おそらく、あの開拓村の生存者か、近傍市町村の被害者、はたまた近隣で活動中の冒険者からの報告が上がっているのだろう。


 なにせ(つがい)を殺され、怒り狂ったグリフォンだ。

 その危機について、ロード達よりも先んじて報告していることは想像に難くない。


「───そう、その噂の件です。……うーむ、どこから話せばいいのか」

「は、話ですか??……は、はぁ?」


 首をかしげるメリッサ

 しかし、ロードは瞑目し、ツラツラと脳内でストーリーをくみ上げ始める。


「えっと──そうですね。……まず、北部の開拓村で我々はグリフォンと遭遇しました。あれは厳しい戦いでしたよ」


「はい、ええ、はい……」


「そう。我々『放浪者』は善戦し、多大な損害を出しつつも、あの強大なグリフォンをあと一歩というところまで追い詰めました。しかし────」


「……なるほど」


「奴は酷く凶暴なグリフォンでした。あれはもう、災害……いや、厄災そのものといっていいでしょう!」


「ふむ……」


 どことなく気のない返事のメリッサの口調を聞きつつ、ロードはここぞとばかりに、クワッ! と目を見開き、最高潮に語る。


「そうです! あのグリフォンが二匹も出現したんです────!!」

「ら、らしいですね~……」


「『らしいですね~……』じゃないですよ!! とんでもない話です!! あのグリフォンが二体ですよ! おかげで我々はかけがいのない仲間を失ってしまいました…………。レイル───ちくしょう!!」


 語尾を小さく、俯くロード。

 その姿は哀れで見るものに同情を抱かせることだろう。


「ロードさん……」


 しょぼくれるロードにメリッサがそっと手を重ねた。


 その気遣いの温かさに、ニヤリとほくそ笑むと、ロードは心の中で舌を出す。



(ケッ。新人ギルド職員を騙すのなんてチョロいぜ。俺の話術に掛かれば──)



 自らの失敗を糊塗するために、ロードが軽い芝居を打っている。


 表面的には悲しそうにしてみせ、

 ついには、感極まったように怒涛のように報告し、最期にはキラリと目に涙──……。


(どうよこの高等テクニック……!! さぁ融資をよこせ! 俺に感謝しろ──────)


 しかし──────!!!





「──え~っと? ですから、さっきから何の話をしているんですか??」


 ───ロードの前にはコイツ何言ってんだ? というメリッサの顔があった……………。

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