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第11話「そのスキルの名は────」


 ロード、上ぇぇええええ!!


 その言葉が誰から出たものだろうか。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 そんなことより今は──……。


『キュルァァァアアアアアアアア!!』


 空を圧するグリフォンの咆哮(・・・・・・・・)

 そして風圧ッッッ!!




「な、なんだとぉぉおおお!! 二匹目だっぁあああ?!」




 ゴォォォオオオオオ!!




 物凄い風圧を叩きつけながら、羽根を持った巨体が村の広場を航過していった!!


「う、うそだろ──グリフォンが二匹もだとぉ!?」


 これにはロードも。

 そして奴に斬られそうになっていたレイルも驚いた。


「ちぃ!! ふ、フラウ!」

「む、無理ぃ!! 二発目なんてすぐ打てるわけが──」


 馬車の中から状況を察したフラウが怒鳴る。

 それを聞いてロードが慌てて宿に逃げ込んだ。


「くそくそくそ! ま、まずいぞ……! 二匹だなんて想定外だ!」

「畜生! 俺の槍が──」

「わ、私も魔力が尽きました」


 『放浪者』の攻撃メンバーが万策尽きたといった様子。

 彼らも初撃の奇襲に賭けていたのだろう。

 予想外の事態にてんやわんやの様子。レイルにトドメを刺すどころではない様子だった。


 そこにパニックに陥った村人が大挙して押し寄せる。

 なにせ、『放浪者』の面々が後先考えずに大技をブチかましたのだ。退避場所になるはずの家も壁が破壊されたり、炎上したりで村人は家屋から飛び出さねばならなくなっていた。


「た、たたたた、助けてください! 」

「ロード様ぁぁああ!」


 勇者と名高いロードにすがる村人たち。


「ちぃ! どけ! 邪魔するな!」


 ラ・タンクがタワーシールドを振り回して村人を威嚇する。


「ボフォート! マナポーションだ!」

「わわわ! 急に言われても、魔法は使えませんよ?!」


 投げ渡されたマナポーションを受けとり、慌てて飲み干すボフォート。


 それを尻目に、ラ・タンクとロードはなんとか態勢を立て直そうとする。

 馬車の中では初撃を決めたフラウが大型弩(カタパルト)を巻き上げていく──……。


 だが、

『キュルァァァアアアアアアア!!』


 急旋回をしたグリフォンが『放浪者』を明確な敵とみて宿を強襲する。


「来たぞ!!──フォーメーションEだ!」


 ラ・タンクの身体を盾にフォーメーションを築き上げた『放浪者』!

 ボフォートが極大魔法を放つため魔力を回復させ、その時間をロードとラ・タンクが稼ごうとする。


「「「勇者さまぁ!! ロードさまぁ!」」」


 その雄姿を見て村人が歓声をあげるが────……。


『ゴルァァァァアアアア!!』


 翼を格納し、急降下滑空態勢に移ったグリフォンを見たラ・タンクが悲鳴を上げる!


「む、無理だ!! 直撃するぞ!」

「ひぃ!! か、躱せぇぇえ!!」


 敵の攻撃を受け止めるべきラ・タンク(前衛)の腰が引けては戦いにならない。

 そして、ロードもラ・タンクにつられて。無様な恰好で地面に伏せてしまうと──。


「ちょ?! わ、私がいるんですよぉぉぉおおお?!」


 一人敵前にボケラーと突っ立ち詠唱していたボフォートが情けない悲鳴を上げる。

 おかげで詠唱中断……。


 半端になった魔法がうねりとなって魔力の暴走を始めた。


「あ、しまった────!! 爆発するぞぉぉおお!」

「「はぁぁ?!」」


 二撃目の極大魔法、サンダーロードは不発。

 その上あろうことか…………暴走した!!


「あーーーーー……逃げろぉぉおお!」

「お助けぇぇえええ!」


 ドカーン!! と、中空で爆発したボフォートの魔法。

 幸いにして大した威力ではなかったが、逃げ惑う『放浪者』の陣形は崩壊。

 フォーメーションEとやらは、用をなさなくなってしまった。


 そこに、逃げ足の速いロードとラ・タンクが「ひーひー」と逃げ惑う。

 だが、それ以上にグリフォンのほうが疾かった!!


「うわ! 来たぁぁああ!」

「ろ、ロード!! 剣持ってるんだから、戦えやぁぁあ!」


 む、無理だーーーーーーーー!


「あーーーーれーーーーー……」

「ひぎゃぁああああーー……!」


 ドッカーーーーーンと、体当たりで突っ込むグリフォン。


 遁走中のロードとラ・タンクを標的に定めると、グリフォンが急降下アタックを仕掛けた!!

 そして、ズドォォオオン!! と、半壊した家に逃げ込んだロード達ごと、家を吹っ飛ばすと、さらに追撃に移らんとする。


 クルクルと無様に舞い上がったロード達。


「ひーひー! む、無理だ! 二匹は無理だぁぁあ!」

「ど、どーすんだよ、ロード! アーーー……鎧がへこんだぁぁあ!」


 豪華装備のおかげで命拾いしたようだが、満身創痍。

 次にまともにぶつかればロード達と言えどもグリフォンにやられるだろう。


 その姿を、傷だらけになったレイルが苦々しくみる。


(なんだよ……! 卑怯な不意打ちしなきゃグリフォンを倒せないのか?! それで、Sランクなのかよ!!)


 ドラゴンすら倒せる実力を持つのがSランクだといわれる。

 そのうえ『勇者』とさえ称されるようなロードの実力があれだ……。


 確かに優秀なスキルを持ち、相当な実力者なのだがこの体たらく──!


 まともに反撃すらできずに逃げ惑うのみ……。

 クエストは失敗、このままでは全滅──────。



「はぁ……。あー失敗失敗。仕切り直しよ」



 だが、ここで戦闘に加わっていなかった聖女が発言。

「ロード。これは不測事態よ。ここはいったん逃げましょう」


 ギョッとしたのはそれを間近で聴いていた村人たちだ。

 ここまでグリフォンを怒らせておいて逃走するという。


 ──に、逃げるだなんて。

「う、嘘ですよね? ロードさま?」

「せ、聖女様がそんな発言を……?!」

「たたた、助けてください! このままでは村は──」


 縋り付く村人たち。

 だが、ジロリとそれをひと睨みすると聖女といわれた、汚れなき乙女は村人たちを小馬鹿にするように笑う。


「はぁぁ? 助けろぉぉ? 知っ~~~たことじゃないわー。さ、撤退するわよ」


 それだけ言うと、くるりと踵を返し、馬車に乗り込む。

 なるほどなるほど。冷静な聖女様──セリアム・レリアムは、あっさりと撤退を提案。


 そして、ニィと口角を歪めると、ドワーフ少女のフラウを見る。

 

「んふふ~……♪──幸い、生き餌ちゃん(疫病神のレイル)がまだ生き残ってるわ。……誰かさんのおかげで、ね」


 聖女の意味深な目線を、ふいっと躱すフラウ。

 巨大な弩を担いだ彼女(フラウ)も、馬車から出てくるとどうするのかと、視線を向けている。


「はっ! な、な~るほど、生き餌がヘイトを稼いでいる隙に村から脱出か──悪くねぇな」


 グリフォンは知恵ある生物だ。

 二匹がいたということは(つがい)の可能性が高い。


 ならば、片割れを殺したロード達を逃しはすまい──。



 だったら……。



 ボロボロの恰好のロードも、ポンと膝を打って勢いよく立ち上がる。


「よ、よっしゃあ! 撤退するぜッ!……フラウ────へへへ、たまには上手くやるじゃねぇか」

 ポンポンッ、と気安げに肩に触れるロードの手を嫌そうに払いのけるフラウ。


 レイルが生き残れるように攻撃したことを揶揄するロードと、それを聞いて顔背けるフラウだったが、結局何も言わずに馬車に乗り込んだ。


「さ。行くわよ。時間がないから荷物は忘れましょ」

「命あっての物種──まぁ、この分だと怒り狂ったグリフォンは村を食いつくすでしょうね」


 セリアム・レリアムもボフォートもまったく村の事情など意にも介していない。


「うーん。ま、槍なら後で取りに行けるか──……しゃあねぇわな」


 ラ・タンクもあっさりと槍を諦めると、御者席に乗り込み、馬に拍車をかけた。


「ハイヨー!! はぁ!! 行け行けー! 逃げるが勝ちよ!」


 そして、全員────レイルを除いて乗り込んだことを確認すると、

「「「ヒぃぃッヤっホーーーーーイ!!」」」


 バッカーン!! と、宿の馬車止めを破壊して突進する大型馬車。


 ガラガラガラガラ!!


「あーーーばよー! 疫病神ぃぃぃいい」

「まーた、戻ってきますよぉぉ。あっはっは!」


 『放浪者』の連中はそう好き勝手に宣うと、グリフォンが上空を旋回してるのを尻目に馬車を走らせる。

 だが、グリフォンがそんなに甘いわけが────……。



「ふふふ♪ 頑張ってねー! 神聖白光(ホーリーブライト)ッッ」



 ピカッッ!!


 一瞬にして、空をも霞ませるような眩い光が生まれる。

 それは村全体を覆いつくし、生きとし生けるものすべての目を眩ませた。


『ギュァァァアアアアアア!!』


 さすがにこれにはグリフォンもたまらずクルクルと迷走し、村の教会に突っ込む。

 ドカーーーーン!! と石造りの教会が崩れ、大勢の避難していた村人が泡を食って飛び出してくる。


「あぎゃ!!」

「ぎゃああああ!!」


 そこに視力の回復したグリフォンが起き上がり、怒り狂って村人を食い漁ると、

『グルァァァアアアアアアア!!』


 空を圧するように咆哮した。


 ビリビリと震える空気。

 もはや、グリフォンの怒りはこの地の人間すべてを食いつくすまで収まらないだろう……。


 そして、状況的に『放浪者』のメンバーを優先的に。

 この位置関係ならグリフォンはまずレイルを襲うのは間違いない。


 だからロード達は今のうちに逃げるのだ。

 レイルと村人たちを見捨てて──。


「どけどけーーーーー!!」


 ラ・タンクの乱暴な運転。

 それは村人などに配慮するはずもなく、


「うわ、なんだなんだ!」

「危ない! みんな避けろッ!」


 村の門を守っていた自警団を蹴散らすと、ロード達はあっという間に馬車で逃げ去って行ってしまった。

 なんという速さ────……。




「あ、あいつら……!」




※ ※



「くそ! なんて奴らだ……!」


 逃げ去るロード達。

 あとには怒り狂ったグリフォンが残された。


 そして、村は阿鼻叫喚の有様を呈していく!!


『グルアアァァアアアアアアアアアア!!』


「きゃあああああ!!」

「ひぃ!! グリフォンが下りてきたぁぁあ!」

「助けてくれぇぇええ!」

「あ、ぶシュッ!」


 ロード達の放ったスキルの余波と、拙い戦いのせいで大暴れしたグリフォンによって家屋を破壊された村人たちが逃げまどう。

 それを、グリフォンが散々に追い回し次々に口に放り込んでいく。


「「ぎゃぁあああああ!」」


 上空を航過する際に、上半身を食いちぎられた者も居たりで村中血だらけだ。


 片割れ(パートナー)を殺され、魔法で挑発されたグリフォンは怒り狂っているらしい。

 普段なら、一人二人平らげれば満足して飛び去って行くらしいが、今日はそうはいかないようだ。


 餌としてよりも、敵として──。

 ただただ、殺す対象として村人を襲うグリフォン!


『キュルァァァアアアアアア!!』


 ブワサァッ……!


 そうして、ひとしきり逃げ惑う村人を平らげた後、グリフォンはゆっくりと広場に舞い降りる──。


「はは……見逃すわけないか──」


 ズズン……!


 片割れを殺されたグリフォンが、その下手人たる『放浪者』のメンバーを見逃すはずがない。

 もちろんレイルもその対象だ。


 その『放浪者』の主要メンバーはとっくに逃げ去ったというのに、グリフォンは怒りで気づいていないのだ……。


 そして、二匹目のグリフォンに、レイルが騙されただけと言っても通用するわけがなかった。



「お、オーケー。話をしようぜ……」



 ズン……。


 ズン……。



 ゆっくりとレイルに向かうグリフォン。

 嘴には鮮血が……。

 ()の前足には肉片が……。


 そして血の匂いと獣臭と、死の香りが鼻を衝く。



『キュルァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!』



「ひ、ひぃ……」

 ビリビリと空気が震える。

 あのグリフォンは、はっきりとレイルを敵として見ていた。


(こ、ここまでか……)


 レイルは死を覚悟する。


 ロード達に切られ、満身創痍。

 そして、目の前には絶対に勝てないグリフォン──……。


「はは。あの行商人からドラゴンキラーとやらを買っておけばよかったな……」


 もう今となってはあとの後の祭り。

 もっとも、怪しい毒薬が利くかどうかはまた別の問題……。



『クルルゥゥゥゥウウ!』



 恐ろしい形相でレイルを睨むグリフォン。

 口からあふれる呼気が湯気を吹いており、まるで怒気が可視化されたかのよう。


 ……その顔といえば、「テメェ! よくもやってくれたな」と言わんばかりだ。


 だけど、

「──俺がやったんじゃねぇよ……」


 片割れ(パートナー)のグリフォンを仕留めたのはロード達。

 レイルは囮に使われただけだ。そう、死んでも(・・・・)誰も気にしない人間(・・・・・・・・・)として──。


「といっても、聞いちゃくれないよな……」

(くそ……悔しいなぁ……!)


 誰か……!

 誰か助けてくれ──!!


 ミィナ…………………………!


 走馬灯のように少しでも優しかった人々の顔が浮かぶ。

 母親、ギルド受付嬢のメリッサさん。

 あとは故郷の村に人たちと、ミィナの両親……。


 【鉄の虎(アイゼンティーガー)】のジョン達───。

 

 そして、ミィナ。

 幼馴染のミィナ…………。


(これが、俺の人生か──……)


 少ない。

 圧倒的に少ない。


「なんて少ないんだ……」


  ──やっかましい、『疫病神』!

  お前みたいな、

  生きていても役立たずの厄災はよぉ、

  死んで当然なんだよ──



 ロードの言葉が脳裏によぎる。


(うるさい……!)



  ──俺たちの肥やしになること、

  それを誇りにして死ねよ。

  そして、安心しな……。

  これで皆、心安らかに暮らせるさ──



(うるさいッ!!)



 だけど、

「俺には誰もいない……!」


 ミィナのほかには誰も──。

 あとは、誰もいない……。


 レイルの人生において助けを求められる人はこれっぽっちしかいない──……。



 あぁ……。

「──なんて人生だ」


 神様……。


 神様────!!



『クルァァアアアアアアアアアアアア!!!』


(──神様ぁぁああああ!!)


 そして、グリフォンがレイルに食らいつかんとして(あぎと)を開くッ!


 その瞬間、脳裏に浮かんだのは神への救い。

 神……。


 神────。


 神と言えば、頭に浮かんだのは怒り狂ったあの女神……。



  『一昨日(おととい)きやがれ────!!!』


   ビカ────!!



「ブフッ……!」

 あはははは!!


(あの時の女神の顔…………ッ)


「プクククク……」


 目を光らせ、怒髪天をつくあの女神の怒りを思い出し、

 こんな時だというのに失笑したレイル。

(結局……)


「ぷはは……!」


 そーいや、

 あの女神からはスキルを貰えなかったっけ──……。


(俺のスキル──)


 『七つ道具』


 そして、

 『手料理』だっけ?


「へ。何が平等だよ……」




 ……人には2つのスキルが与えられる。




 生まれたときと、

 成人したとき──。


 貴賤(きせん)の区別なく、

 すべての者に平等に──────。


 ハッ!

「嘘つくなよ、女神様よぉ──俺はよぉ、スキルなんざ貰ってないぜ?」



 ほら、

 見てみろよ。



 ──ポォン♪ と脳裏にステータス画面を呼び出す。


 そこに浮かぶのは、

 子供のころから親しんだ「盗賊(シーフ)」御用達のスキル『七つ道具』と、


 そして、



 ※ ※ ※

 

名 前:レイル・アドバンス

職 業:盗賊

スキル:七つ道具(シークレット)Lv3

    一昨日(おととい)に行く(NEW!)


● レイル・アドバンスの能力値



体 力: 235

筋 力: 199

防御力: 302

魔 力:  56

敏 捷: 921

抵抗力:  36


残ステータスポイント「+2」


スロット1:開錠Lv2

スロット2:気配探知Lv1

スロット3:トラップ設置Lv1

スロット4:投擲Lv1

スロット5:登攀Lv1

スロット6:な し

スロット7:な し


● 称号「なし」


 ※ ※ ※










「え────────……」




 あ、あれ??




 な、

「なんだこれ……??」




 こ、こんなスキル…………あったっけ???




   スキル『一昨日に行く』




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