第1話「外れスキル」
S級冒険者。
ギルドに所属する冒険者の中でも至高の存在のことであり、最強かつ伝説の存在。
それは実力だけでなく、実績、知識────そして、運! それらに恵まれたほんの一握りの存在だけが成ることができる。
そして、冒険者なら誰もが夢見る頂点でもある。
もちろん、俺ことレイル・アドバンスも、その地位に憧れ──いつかは成りあがって見せると心に秘めている。
もっとも、今のところは秘めているだけだけどね……。
「おい、早くしろよー『疫病神』!」
「皆待ってんだぜー」
そう急かすのは、同じCランクパーティ【鉄の虎】に所属する仲間たち。
最初に急かしたのは、豊かな才能を持つ【軽戦士】のジャン。
このパーティのリーダーを務めている。
そして、次に急かしたのは、パーティの壁役を務める【盾戦士】のベイヴ。
パーティの中でも古株で口が悪い奴だ。
「わ、わかってるよ!」
レイルは急かされるままに、教会の列に並ぶ。
「他の人たち、とっくに終わりましたよー『疫病神』さん? 一人だけ、おっそ~ぃ」
「レイル、いっつも最後──『疫病神』って言われるだけある。ほんとノロマ」
ぐ……。
クソ女ども────。
クソ女どもこと、ジャン達の尻馬に乗ってレイルを『疫病神』と揶揄するのは、
神官服を着た尻軽女、【風来司祭】のメルシア。
ジャンとベイヴの両方と付き合っている、ただのビッチだ。
……レイルには気がないらしい。こっちからお断りだけどね!!
そして、最後──。
グルグル眼鏡をかけたちびっ子魔女風の【黒魔術師】のチェイミー。
ただの生意気チビだ。……王都の魔法学園を首席で卒業したと本人は言っているが、怪しいものだ。
こんな風に口の悪い連中ばかりだけど、
ここに、俺──レイル・アドバンス。職業【盗賊】が加わってCランクパーティを形成している。
ちなみに、
個人の冒険者ランクは、ジャンがB、ベイヴからチェイミーまでがCで、レイルだけがDランクだ。
つまり、パーティ内での立場は「お察し」と言うところ……。
まぁ、みなまで言わせないでくれ──。
「いいか? スキルを貰ったらまっすぐに戻ってこい!……愚図の『疫病神』にかける時間が惜しいんだ」
「そーそー。犬みたいに走ってこい! ゲハハハハハハ」
ゲラゲラと下品に笑うジャンとベイヴ。
「犬だってー! キャハハハハハハハ!」
「でも、実際は犬の方が役に立つ──可愛いし……レイルは、うん」……ペッ。
態度の悪い女どもはケラケラと笑い、長蛇の列を作るスキル授与の脇から面白そうにレイルを眺める。
「す、すぐ終わるよ──さ、酒場で待っててくれていいからさ、……な!」
今日は成人を迎えた者がスキルの女神からスキルを授与される日なのだ。
そして、レイルにとって人生のターニングポイントでもある。
「お前に言われなくても、そーするさ。……じゃー、酒場で待ってるからよ、分かってるんだろうな? 『疫病神』のテメェをパーティにおいてやってるんだ。…………もぉし、くだらねぇスキルを授与されたらその時は──」
「「「その時は──!」」」
ニヤニヤと笑う4つの顔。
そうだった……。
「わ、わかってるさ!! わかってる……よ!」
「……ならいいんだ。おい、皆行くぞ──酒場で飲むぞー」
「「「おー!!」」」
和気あいあいと去っていくパーティの背中を見ながら、胸がざわつく気配を感じる。
ドクンドクンと心臓が嫌な音をたてる。
──『疫病神』の不名誉な二つ名を持つDランクのお荷物冒険者レイルの……残留条件。
それは、必ず──2つ目のスキルは「有用なもの」を授与されること………。
それこそが、
このCランクパーティ【鉄の虎】に残留するためにも絶対に必要なこと……。
スキルが二つ貰える世界にて。
最低でも一つは有用なスキルを持っていることを示さなければ、レイルはパーティを追放される………………。
そして、
ついに教会に並ぶ列が動き──レイルの番がやってきた。
「もし──! そこな青年、アナタの番ですよ!」
ぼんやりと列に並び、佇んでいたものだから、
「…………ぇ? あ、はい!!」
レイルは呼び止める声に慌てて、顔を上げた。
「おや? 緊張しているのですね……わかります────では、こちらへ」
教会関係者らしく、柔和な雰囲気の男性に優しく促されレイルはようやく一歩を踏み出した。
そして、彼に言われるままに、
「さぁ、こちらへ来なさい」
高位の司祭らしき初老の男性に誘われ、レイルは水晶の前に立たされる。
「まずはこちらに手を当てなさい。そして、今の自分を示すのです」
(……今の自分を示す? ステータスの開示ってことかな?)
言われるままに、教会の奥に安置された大きな水晶に手を当てる。
すると──。
じわり…………と、水晶に浮かび上がる文字列。
「おぉ…………」
※ ※ ※
レベル:23
名 前:レイル・アドバンス
職 業:盗賊
スキル:七つ道具Lv3
● レイル・アドバンスの能力値
体 力: 235
筋 力: 199
防御力: 302
魔 力: 56
敏 捷: 921
抵抗力: 36
残ステータスポイント「+2」
スロット1:開錠Lv2
スロット2:気配探知Lv1
スロット3:トラップ設置Lv1
スロット4:投擲Lv1
スロット5:登攀Lv1
スロット6:な し
スロット7:な し
● 称号「なし」
※ ※ ※
「み、見えますか?」
「ふむ……。中々のステータスです。ずいぶん精進しているようですね」
ステータスはきちんと教会関係者にも見えているようだった。
なにか特殊な技術を使っているのだろう。
「あ、ありがとうございます」
Dランクの冒険者に過ぎないレイルには、素直に褒められた気がしない。
「生まれつきもらったスキルは『七つ道具』ですか──……冒険者なら【盗賊】として支援職にうってつけの良いスキルですね」
「そ、そうですね……」
ニコリとほほ笑む司祭に、曖昧に頷き返すレイル。
支援職にうってつけとは随分前向きな意見だ。
実際は『七つ道具』は外れスキルと言われているくらい。
『七つ道具』は戦闘力に乏しく、魔法も使えないので、
このスキルを持って生まれたものは【鍵屋】か【盗賊】くらいしか就職の道はない不遇スキルだ。
だからレイルは────……。
「それでは、お進みなさい──奥には女神様がいらっしゃる。ここからはお一人で……くれぐれも粗相のなきよう」
「は、はい!」
緊張した面持ちで言われたとおりに奥に進んでいく。
(…………ミィナ。ようやくこの日を迎えられたよ)
死に別れた幼馴染を思い出し、
(いよいよだぞ────ミィナ)
そっと、胸に手を当て、ミィナの形見のペンダントを握りしめる。
彼女との約束を果たすため、立派な冒険者になる。
それだけを心の支えにしてきたのだ。
──クソのようなパーティメンバーのいびりに耐え……。
『疫病神』と揶揄されながらも、耐えてきた────。
今日のこの日のために!!
「絶対……スキルの女神様だって認めてくれるはずッ! 戦闘用スキルを貰うためなら何でもやるぞ、俺は──」
そして、
『……こんにちわ、レイル・アドバンス。成人を迎えた今日という良き日に────あなたにスキルを授けましょう』
荘厳な光の中に佇む女性がそう言った。
彼女が世界におわす女神──『スキルの女神』なのだろう。
それはそれは、人智を超越した美しさであった。
慈愛と母性に溢れ、およそ暴力や死が隣り合わせにある冒険者の世界とは真逆の場所にいる存在……。
(あぁ……スキルの女神様────どうか、俺に……!)
ニコリ
その女性──スキルの女神が手をかざすと、スキルが詰まったクリスタルが召喚されていく。
キラキラと虹色に輝く「スキル」を内包したクリスタル。
……事前に説明を受けた通りだ。
スキルの女神はこうしてスキルを作るという。
その女神の力で作られたスキルを、
……それが体に馴染めば、晴れて2つ目のスキル授与できるというのだが────。
(頼む……! 頼む!)
なにか、
何か役立つスキルを────!
(せめて、戦闘スキルが欲しい……! 何でもいい。何でもいいから贅沢は言わない)
戦闘スキルであればどんなものでも────。
『剣技』
『格闘技』
『下級魔法』
『弓手の心得』
『槍術』……なんでもいい!!
(なんでもいいから、頼む……。頼む────頼、)
女神様────……!
ニコッ♪
『それでは、レイル・アドバンス────アナタに『手料理』のスキルを与えましょう』
………………。
…………。
……。
「………………は?」
て、
手料理??
「て、手料理ぃぃ……?」
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