第9章 それぞれの決断 つづき
一月の決断 ウォルあの時のウォル
新月から半月になった夜 一月とウォルは雲ひとつない夜の空で月を見ていました。
一月はあぐらをかいて座り、1m位離れたところにウォルが右足を左足の前に 手は後ろで組んで立っていました。
「ウォル 僕が君に名前を付けたんだね」と一月
「そうあなたがつけてくれたのジェウォン」とウォル
「前世でも僕は好きなことをしていたんだね」と一月
「そうなの それで旅に出ていたの」とウォルは
右足を動かし時々 一月の表情を確認しながら話しました。
「うん いろんなことが知りたくって」と一月は あの時と同じように月を見つめ
「竹林で月を眺めながら気を失った」と 足をリズム座りに変えて言いました。
今は3月、昼間はポカポカ春陽気。でも夜になると気温が下がりとても寒くなります。そんな日は、澄み切った空気 冷たい風が拭いて月がとっても綺麗に見えます。
「季節は 春じゃなかった」と一月
「あの日は 6月の〜」とウォルは 思い出しながら
「満月になる日の4日前だったかな」と一月の方を向き
「竹林で倒れているあなたを見つけ 風に乗って」とウォルは 言いながら一月の隣りにリズム座りをしました。
「あの時も こんなに月が輝いてた?」と一月は 一回もウォルのことを見ることなく会話をしていました。ウォルは 一月の横顔を見ながら
「一月私の姿 頭から足の指先まで全部見える」と 聞きました。
一月はウォルの方を見て
「見える」と 答えました。
一月は、ウォルの手を取り立ち上がり いつもふたりで寝ているベッドにウォル連れて行きました。
ベッドの上で一月は ウォルを抱き寄せ上向きになり ウォルは一月の左胸あたりに右頬をのせ
「私 重い」と 聞きました。
一月は ウォルの身体が半分自分の上に乗ってるのを感じ
「重い でも冷たい」と 答えました。
「私を抱いて 暖めてくれる」とウォルは 小さなつぶやくような声で言いました。一月は
「うぅん 上手くできるかな」と 不安そうにでも出来ると思いながら言いました。
ウォルは 恥ずかしそうに
「大丈夫 すぐ温かくなりから」と 一月の顔を見ながら言いました。
「溶けて 消えちゃいそうな気がする」と一月は ウォルの顔を見て微笑みました。
「消えない でもまた冷たくなるかも」と ウォルもニコリとして言いました。
2人は 結ばれました。
長い長い時を越えてやっと。
ウォルの身体の温もりを感じて一月は 5分から数分ボーっとした後
「ずっと一緒にいるにはどうすればいい」と つぶやくように言いました。
ウォルは 初めての体験でしかも自分の身体がこんなに熱くなることも初めてだったので、少し意識を失ったと思うくらい目をつぶっていました。そして目をつぶったまま
「私の願い事」と 一月に聞こえるくらいの小さな声で言いました。
一月はウォルが 月の巫女だということを忘れていました。それくらい普通にウォルを抱いたから…… でも、目を開けないウォルが心配になり
「願い事 ひとつふたつ たくさん」と ウォルを起こしながら言いました。
やっと目を開けウォルは、心配そうに自分の顔を見ている一月に うっふぅと微笑み
「三つぐらいかな」と言いました。
2人は向き合い 見つめ合い
「まず 一つ目は」と一月は 聞きました。
「私は ある女性の身体と入れ替わります」とウォル
「入れ替わる?」と一月
「その女性のお腹には 赤ちゃんがいます」とウォルは 一月の表情を見ながら話し続けました。
「赤ちゃんがいる 突然父親になる」と一月は ウォルは何を言っているんだろうと思いながら 話しの続きを聞きました。
「少しの間 父親になって」とウォルは 不安そうに話し続けました。
「分かった」と 一月が言うとウォルはほほえみ
「それから」とウォルは 言いました。
「それから 二つ目は」と一月
「赤ちゃんの本当の父親を探して」とウォル
「探すの」と一月 ウォルは何を言っているんだろうと また思いながら言いました。
「そして 赤ちゃんと赤ちゃんのお父さんを見守り続けて幸せにしてあげて」とウォルは 不安そうな顔で一月にお願いしました。一月は
「うん 分かったできると思う」と なんとかなるだろうと思い答えました。
ウォルは 深呼吸のようなものを2回して
「最後は 春馬のこと」と 話しを続けました。
「春馬のこと?」と一月は 一言
「いつまでも3人で 仲良く過ごしたい」とウォルは 少し声が震え
「3人で できるかな」と一月
「春馬のことも 大好きだから」とウォルは 自分の気持ちを最後まで伝えました。
春馬の性格を知っている一月は
「あいつ また旅に出るとか言うよきっと」と話し
「うん」と ウォルは頷き
「いいの 春馬も幸せにしてあげたいから」と 言いました。
「ウォルは それで幸せか」と 一月は聞き
「一月といるだけで幸せだから 春馬も」と ウォル言いました。
一月は こんなめちゃくちゃなことを言うウォルを見て笑い
「今度こそ 幸せになろう」と ウォルに言いました。
春馬の決断 いつまでも貴方が好き
満月の日 ウォルは風に乗り月に帰っていきました。
今日は 七月七日七夕の日、珍しく晴れました。
月も綺麗に見えてマンションから星もよく見えます。
2人でハイボールを飲みながら
「あの頃は ジンジャーエールとコーラだったね」と春馬は 言いました。
「ジンジャーエールにウイスキー入れたら 美味しいかも」と一月
「ジンジャーハイね!コーラはコークハイよ」と春馬は言って ハイボールをふた口ゴクゴクと飲みました。
「春馬は 飲んだことあるの」と一月は言い ハイボールをひと口飲みました。
「お店で たまに作るから」と春馬は言い ベランダに行き 星空を見ました。
一月は 春馬の後ろ姿を見つめ
「春馬 俺 ウォルと結婚することにした」と春馬に 聞こえるように言いました。
春馬は 振り向き一月に
「結婚するってどうするの いつするの」と 尋ねました。一月は ハイボールを飲みほし
「いつになるか まだ わからない」と 言いました。
春馬もハイボールを飲みほし グラスをテーブルに置き 冷蔵庫からジンジャエールを持ってきました。一月のグラスと自分のグラスにウイスキーを3分1位注ぎ
「一月が 月に行くの」と 言いました。
一月は 手際の良い春馬の手元を見ながら
「月には 行かないよ」と
春馬は できたジンジャーハイにレモンを添えて
「でも ウォルは月の巫女でしょ」と 言いました。
「そのうち わかるさ」と言い できたジンジャーハイを春馬からもらい ひと口飲みました。
「とうとう私の片思いは このまま終わるのね」と春馬は言い 自分のジンジャーハイにレモンを絞りマドラーでかき混ぜひと口 飲みました。
「春馬のことは 男として好きだよ」と一月はテーブルに肘をつき グラスを両手で持って言いました。
春馬は 一月が座っている椅子の後ろへ行き 後ろから一月を抱きしめ
「女としてじゃないの」と 甘えた声で言いました。
一月は グラスを置いて振り返り、春馬の方を向き
「女としても 好きだよ でもさ」と 言いました。
春馬は 驚いた表情で
「でも」と 一言
一月は椅子から立ち 春馬と向かい合わせになり
「初恋には 勝てないよ 春馬」と 真剣な表情で言いました。
涙目になりながら春馬は
「初恋ね 私も一月が初恋」と言い 下唇を見えないように噛みました。
「春馬 これからも一緒にいよう」と春馬を見上げ
「嫌じゃなければ 」と 言いました。
春馬は 一月の手を取り
「一緒に お風呂に入ってくれる」と 聞きました。
「うん」と 一月は頷き
「泣きたい時には 胸を貸してくれる」と春馬は
自分の左手で一月の右手を握り、右手は一月の左手を握りながら言いました。
「うん」と一月は頷き 春馬の手を握り返して笑い
「一月と同じベッドに寝ても大丈夫」と言いながら春馬も ニコリとしました。
「うん いままでと一緒」と一月は 背伸びをして春馬を抱き寄せました。春馬は しゃがみこんで
「それから」と言い 一月を見上げました。
一月は 立ったまま春馬を見下ろし
「それから」と 両手を恋人繋ぎにしました。
「最後に キスしてくれる」と春馬は 思い切って言いました。
「いいよ」と一月は 優しく答えました。
一月は 繋いだ自分の左手と春馬の右手を離し ベッドに春馬を連れて行きました。
「春馬!ここに立って」と一月は 春馬をベッド脇に立たせ
「何するの」と春馬は 一月がベットの上にあがり自分を見下ろしている様子を見てました。
「俺 春馬より背が低いから」と 言うと
「えっ」と言い春馬は 驚いた表情で一月を見ました。
「これで少しは 女性に」と 照れながら一月は 春馬を見下ろしました。
「ありがとう 一月」と春馬は言い 一月を見つめました。
一月は 両手を春馬の肩にそっと置いて春馬のファーストキスをもらいました。
15秒間くらいのくちづけ 一月の唇と春馬の唇が離れ お互い見つめ合い 言葉を交わすこともなく ただ見つめ合い 春馬の片思いは甘酸っぱく終わりました。