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秘密の月の箱 〜secret moon box〜  作者: 与知田 菜々香
10/12

第9章 宙希 美月 ウォル 春馬 一月 それぞれの決断


   宙希の決断 別れ


 12月の初め ちょっと早い二人だけのクリスマス。

美月と宙希は 卒業に向けて忙しい毎日でした。

ぼた雪が降っている寒い夜、美月の家の月がよく見える

ベッドにスキンシップをして愛し合い 温もりを感じて

「どうか このままずっと一緒にいられますように……

 このままずっと時間がゆっくり流れるばいいのに…」

何て思いながら眠る2人でした。

厚い雲が もう少しで満月になりそうな月を隠していま

した。静かな夜 しんしんと雪が降っていました。

静かな夜ほど雪はたくさん降り、あたりを銀世界に変え

ます。

夜中 日付が変わり2時間か3時間位 もう少しで月も

沈もうとしている頃、上空(じょうくう)の空は とても

風が強いのか あんなに厚かった雲がどこかにいってし

まいました。

2人を照らすことはできないが 窓から月の光が部屋に

入り月明かりを感じ美月は 目がさめました。

宙希は 腫れた目と頬が赤く所々表皮が剥がれ痛そうに

なっていました。

そんな宙希の顔を美月は 黙って見つめていました。

赤い頬にそっと触れると宙希は 痛そうな表情します。

「宙希」と言って

美月は 宙希の寝顔を見ながら考えました。

「私 どうしたらいい」とつぶやきました。

宙希は頬のピリッとした痛みで目覚め美月を見ました。

幸せそうな表情で微笑み 美月にキスをしました。

10秒15秒 口づけをした後2人は見つめ合いにこりと

しました。

「僕 帰るね」と宙希は あっさりと言いました。

「うん」と美月は うなずきました。

2人は 起きて服を着ました。

宙希は帰る支度をして美月の前に立ち 美月を抱き寄せ

抱きしめました。

宙希の左手と美月の右手、宙希の右手と美月の左手は

恋人繋ぎ 思いっきりの笑顔を見せた宙希は

「さよなら 美月」と優しい声で言って 

手を離し振り返ることなく部屋を出て行きました。

その日が最後 もう会うことはありませんでした。

宙希は 美月の家を後にその足で旅立ちました。

宙希は どこに旅立ったのでしょうか。


 2ヶ月半ぐらい前 美月の部屋で勉強をしていた時に

宙希が見つけた月行きの切符が はじまりでした。

美月が ずっとまっていた月に行ける切符を宙希が先に

ゆうきが発見し美月に渡しました。

あの日から宙希は 美月の言葉が怖く 美月と一緒にい

ても笑うことがほとんどありませんでした。

宙希の家に行き一緒に勉強することも、美月の家で過ご

すことも少なくなりました。

就職活動や卒業論文を書く時 互いに相談し合うことも

なく会話がない でも大学ではいつもと変わらず一緒に

過ごしました。忙しい毎日といえば忙しい毎日でした。

今までは 忙しくても2人で楽しく過ごすことができれ

ば良かったのに 次第に別々に行動することが多くなり

ました。

宙希は いつもと変わりなく普通にご飯を食べ大学へ行

き就職活動をして帰宅します。夕食を家族の誰かと一緒

に食べ お風呂に入り早くに屋根裏部屋に行きます。

食事の時以外、家族の誰とも話をせず部屋にこもってい

ました。何をしているんだろうとみんな心配していまし

たが、誰も何も聞きませんでした。

ただ、朝になれば目が腫れていて元気なく何か聞いても

何も話してくれそうもない宙希 でも必ず朝になると

「おはよう」と言って みんなに挨拶をします。

宙希から話し始めるのをみんなが待っていました。


 11月になり 宙希はお父さんとお母さんに声をかけま

した。

宙希のお父さんとお母さん、向かい合わせに宙希が座り

「僕 相談したいことがあるんだ」と宙希は

海外留学の資料をテーブルに置き

「一年間 海外留学したい」と言いました。

「何があったの」とお母さん

海外留学の資料を手にし お父さんは一言

「それだけか」と

宙希は 下を向いていた顔を上げ

ギリシャ神話のことを勉強してきたい 宇宙の事も」と

話しました。

あんなに仲の良い2人に 何かあったと家族みんなうす

うす気づいていました。

少しの間環境が変われば何かが変わると考えお父さんは

「行ってこい」と言い 宙希の頭をなぜ部屋を出ていき

ました。


宙希は毎日、泣きながら考え決めた事でした。

「美月、忘れる事はできない 引き止める事もできない

 僕がいなくなればきっと 月に行く決心がつくだろう

 1年後僕を待っていてくれたらその時 美月に言おう

 月に行かないでくれと引き止めよう」


大事なお願いをするために宙希は姉ちゃんの部屋に行き

入り口のドアを開け 姉ちゃんに声をかけました。

「姉ちゃん お願いがある」と宙希は 

開けたドアから顔だけ出し

「お願いって 私にできること」と 宙希に背中を向け

仕事をしながら答えました。

宙希は 姉ちゃんのデスクのそばに行き

「お父さんとお母さんが 留学を許してくれた」と

言いました。

お姉さんは振り向き宙希の顔を見て

「うん 知ってる」と いつもと変わらないお姉さん

「美月には 話さないで行く」と話す宙希

「美月ちゃんと何かあったんだ」と姉さんは

優しく宙希に尋ねました。

「月に行く切符が 届いた」と宙希は

冗談を言うかのように話しました。

「月に行く切符 あの話は本当だったの」と姉さんは 

半信半疑で言いました。

「僕も嘘だと思ってた でも僕が見つけた」と宙希も 

半信半疑で、でも本当のことだと心で思い言いました。

たくさん泣いて涙が枯れて 涙が出ないそんな表情して

いる宙希の顔を見て姉さんは聞きました。

「月に 両親のところへ行くって」とお姉さん

「何も 言ってない」と宙希 ぼそっと一言

お姉さんは机に向かい パソコン画面を見ながら

「お願いって 何」と尋ねました。

宙希も お姉さんが見ているパソコン画面を見ながら

「僕を探しに ここに来ると思う」と言いました。

「美月ちゃんが」と 何か考えながらお姉さんは答えま

した。

「うん 多分」と 宙希が言うと

「窓から見える三日月を見ながら

「私は 何をすればいい」とお姉さん

「何も 知らない そう言って」と宙希は お姉さんの

後ろ姿を見ながらお願いしました。お姉さんは

「分かった」と一言 言った後

お父さんとお母さんおじいちゃんおばあちゃん兄ちゃん

 みんなにもお願いした」と宙希に聞きました。

宙希は 右手で前髪を軽く掴み

「まだ 何か聞かれると思って 話していない」と言う

そして右手で口を押さえた。

「そう 分かった 私からみんなに上手に話しておくね

 だから心配しないでいってらっしゃい」と 

優しく元気よくお姉さんは言いました。

「ありがとう 姉ちゃん」と宙希は 

鼻水をすすりながら言いました。

「大人になったね宙希」とお姉さんは

寂しくも 嬉しくも思い言いました。

「うん」と宙希は 深く頷きました。


お父さんとお母さんが月に旅立ってから12年、美月は

どれほど月に行きたいって思っていたのだろうか

宙希は考えると引き止めることはできなかったのです。



   美月とウォルの決断 願いと赤ちゃんは任せて


 あの日から宙希は 美月の前から姿を消しました。

「さよなら 美月」と笑顔で言った宙希 その笑顔が

最後で会えなくなるなんて思ってもいなかった美月。

お互いに忙しいから 会えないんだと思っていました。

宙希の姿が見えない日々が一週間、10日と続いたら 

やっぱりおかしいと思い美月は あちこち宙希を探し始

めました。宙希の予想どうり美月は 宙希の家に宙希を

探しに行きました。


 宙希の家は いつもと変わらずイルミネーションと

クリスマスツリーが飾られていました。

美月は クリスマスの大きなリースが飾られている玄関

のドアの前でドキドキしながら 数分立っていました。

そこに 宙希のお姉さんが出かけ先から帰ってきました。

モゾモゾしている美月に

「もしかして 美月ちゃん」と。

美月は 静かに振り返り宙希のお姉さんの顔を見て

「宙希のお姉さん」と 不安そうに

「宙希は 元気ですか」と尋ねました。

宙希のお姉さんは 寒そうにしている美月に

「中に入ろう」と声をかけました。

玄関先で美月はお姉さんの顔を見て

「家にいますか 最近 顔を見ないから」と言い

かじかんだ右手を口元に

「元気よ」とお姉さんは一言 ひと呼吸して

「でも ここにはいないの」と 美月の様子を見ながら

言いました。美月は下を向き

「どこにいるんですか」と小さな声で聞きました。

「行き先 聞いていないから」と はっきり言いました。

美月は 諦めたのか

「そうですか わかりました」と頭を下げ

「ありがとう ございました」と言い

挨拶をして外へ出て帰って行きました。

美月は その日以来宙希を探すことはありませんでした。


 美月は、大学の寮で冬休みを過ごし年を越しました。

新学期が始まり宙希のいない日々、元気がなくて体調を

崩してしました。熱はありません。ただ身体からだがだるく

朝起きるのが辛く 食欲はいつもの半分をやっと食べて

いました。調子の良い時は うどんを食べ大学に行きい

きました。

久しぶりの自分ひとり 忘れていたひとりっきりを思い

出していました。


 2月になり「月一回の女の子の日」、生理が来てない

ことに最近 気づきました。

食べ物の好みも変わりました。

食欲がないのも、憂鬱なのも気になっていたのですが

宙希との別れが原因だとずっと思ってました。

思い切って宙希の家の産婦人科に行くことにしました。

ちょうどその日は宙希の祖父、宙希にギリシャ神話の

物語を寝る前に読んで聞かせてくれた おじいちゃんが

担当でした。とっても優しくそして淡々と

「おめでたですよ 心臓が元気に動いてます」と

超音波画像を見ながら言いました。

美月は 超音波画像の赤ちゃんを見て聴こえてくる拍動、

小さな心臓がパクパクと元気に動いてるのを確認したら

なぜか目尻から耳に涙が流れ落ちました。

「赤ちゃん」と美月は 小さな声で言いました。

宙希のおじいちゃんは 美月のことを覚えているのか、

それとも 知らないふりをしているのか

「パパさんに伝えたら 喜びますよ」と美月に 

言いました。パパって『誰』と美月は 心当たりがある

ようなないような……。

「次は 4週間後に来てくださいね」と言い 

宙希と同じ表情でにこりと微笑みました。

「はい わかりました」と美月は 立ち上がり

「ありがとうございました」と言って

診察室から廊下へ出て 窓際に立ち太陽が出ているのに

雪がちらちらと降っている空を見上げ

「宙希は ここにいるの」とつぶやきました。


美月は、お腹をやさしくさすりながら考えました。

「そういえば 月への切符が届いている月に行けるんだ

 いつ行けるんだろう お腹の子は…どうなるんだろう

 就職先も決まり 卒業論文も終わった 卒業したら

 卒業式は来月の初めにある この子が生まれるのは

 いつだろう これから先…………」と

いろんなことが頭の中を巡り、何も解決しないまま日々

が過ぎて行き2月が終わりました。

卒業式も無事に終わり 美月は3月から生まれ育った

自分の家で 1人暮らしをすることにしました。


 3月の新月の日の夜 美月はベッドで秘密の月の箱を

手にうとうとと眠ってしまいました。眠り始めて数分後

美月のところに月からの訪問者が 舞い降りてきました。

不思議な夢を見ながら美月は

「赤ちゃんを お願いします」とつぶやき

「私は 月に行きます」と寝言を 言っていました。


 ウォルが風に乗り 美月の家に舞い降りて来たのです。

「美月 美月」とウォルは 

美月のお母さんの声の真似をして呼びました。

美月は お母さんの声に気づき 辺りを見回し

「お母さんどこ お母さん」と

「美月 月に来る」とウォルは

美月のお母さんの声を真似して 美月を呼びました。

「月に行く でも行けない」と美月は 

誰と話をしているのか 独り言のように答え

「月に 来ないの」とウォルは 

そろそろ自分の正体を伝えなければと思いながらも 

話しを続けました。美月は 疑うこともなく

「お腹の子は どうすればいいの」と美月は 

真剣に話し続け

「今あなたの元に『ウォル』という名の月の巫女が」と 

ウォルは言い 美月の枕元に座りました。

「月の巫女」と美月は 枕元にいるウォルの影を見て

びっくりすることも怖がることもなく お母さんだと

思いました。

ウォルは 美月の顔を見つめ 頭を少しかしげ

「美月さんのお母さん もともと月の巫女で」と

美月のお母さんの真似をやめ 話し始めました。

美月はウォルの顔を見て 自分に似ているこの人は誰

と思いながら話しを聞き

「何の話をしているの」と尋ねました。

ウォルは 美月の頬に冷たい手でそっと置き

「父さんと恋に落ちたの」と 言いました。

「お父さん」と美月は言い 

頬に置かれた手が冷たいと感じました。

「そして 美月さんが生まれたの」と

ウォルは言いながら姿を現しました。

「美月さん こんにちは」とウォルは 

改めて挨拶をしました。

「夢 夢を見ていたのかな」と美月は 

自分とそっくりなウォルを見て言いました。

「夢じゃないけど」と ウォルはニコリと

「あなたは 誰ですか」と今度は びっくりとした表情

でウォルを見て ウォルに尋ねました。

「ウォルって言います」とウォルは 

嬉しそうに答えました。

「ウォルさん」と言って ウォルの頬に触れました。

「はい 韓国の言葉で月という意味です」とウォルは 

答えました。

「韓国語で 月」と美月は言い 

ウォルの冷たい頬をなぜました。

「はい」とウォルは 返事をして

「私に名前をつけた方と私は 恋に落ちました」と 

嬉しそうに言いました。

幸せそうなウォルの表情を見て美月は ほほえみました。

ウォルは 美月の笑顔を見てほっとしました。

「私にあなたの身体からだをいただけますか」と

美月の目を見ながらお願いしました。

「私の身体からだ」と美月は 

何の話し?と思いながら言いました。

「入れ替わって いただけますか」とウォルは 

なんの迷いもなく言いました。

何の話しをしているのか美月には さっぱりわかりませ

んでした。

「入れ替わるって どういうことですか」と美月 

「私と入れ替わることで 月の巫女として月に行くこと

 ができます 美月さん」とウォルは 言いました。

「月の巫女として」と美月は 少し理解し

「月に行ける列車の切符」とつぶやきました。

「そのための 月行きの切符です」とウォルは 

言いました。美月は 

「あっ」と思い出したように

「お腹の赤ちゃんは どうなるんですか」とウォルに 

尋ねました。ウォルは 美月の暖かい手を取り

「私が 代わりに産んで育てます」と言って

両手で美月の手を握りました。

「それから 父親のところへも 連れて行きます」と 

ウォルは真剣に言いました。

「父親って 誰かな」と美月は考えました。

「赤ちゃんの父親は誰ですか知ってますか」とウォルは

 美月に尋ねました。

「たぶん 宙希」と美月は 答えました。

「ユウキ」と ウォルは聞き返しました。

松江宙希まつえ ゆうき」と美月は 言いました。

「あっ こないだ隣にいた人ね」とウォルは

言いながら風に乗り 

「会ったこと あるんですか私と宙希に」と美月が 

話しているのに

「満月の日までに 答えを出して」と言って 

ウォルの姿は見えなくなりました。

ウォルは『宙希』だと実は知っていました。

「満月の日まで」と美月は 

ぶつぶつと言いながら 月に行こうと決めました。


「ウォルさん お腹の赤ちゃんをお願いします

 私は月に行きます

 月から宙希と赤ちゃんを見守ります」と

秘密の月の箱に返事を書き 入れました。




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