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すみっこオレンジ

作者: 二原将敬

「わんっ、わんっ!」 

 朝の散歩を終えて、玄関から入る。

 白いご飯、目玉焼きに胡瓜の漬物。そして豆腐の味噌汁がいつものように湯気をたてている。

「いただきます」

 ゆっくりと味噌の味が喉を通って、ほぅとひと息。肩に血が巡って柔らかにほぐれていく。

 今日も頑張れるかな。なんて思いながら食べ慣れた味噌汁を一人すする。


 テレビをつけると、分割された画面の中から熱い自論を語るお笑い芸人さんが映る。

 この形の収録も少しずつ見慣れてきた感がある。

 大学の先生と進行者の言葉被りが有り、テレビの中では苦笑いを浮かべていたり、いなかったり。

 食器を乾燥機に並べ終え、リュックを背負ってドアを開ける。

 通い慣れた道を自転車で漕いでいく。

 

 子供の日が過ぎたある日、あることに気づく。

カレンダーをめくることを忘れていたこと。

そして、母さんが起きるのが遅くなっていること。

 初めは5分ほどだったけれど、今では仕事に行く直前に起きてきて、身支度をしてすぐに出勤する。

 夕飯の量も以前の半分の量になっている。

「ちょっと疲れてるだけだよ」

 そう言う母の目のくまは、化粧では隠せないくらいになっていた。

 残業が多くなってきた母を支えればと家事を自分一人でこなし、母に休んでもらうものの顔色は変わらない。

 不安から焦燥に悪循環になってしまう。


 悩みは意外なことで解決出来た。


 カレンダーを巡って気づいた母の日。

 近くの花屋さんへ歩いて行く。店頭には赤いバラや、スイートピーが所狭しと並んでいる。

 並んでいる花々は、華やかで美しく目を惹きつける。

 けれど、どこか今の家で飾るイメージが湧かない。

「お花をお探しですか?」

「はい。ただこちらに並んでいる花はちょっと...」

 自分の表情を窺う女性は、あたりを見回し

「こちらのお花はいかがでしょう」

 一輪の花を抱えてきた。大きく開いた花弁が印象のオレンジ色。五本の花が生き生きと主張している。



 テレビ近くに花が花瓶に入れられ置かれている。部屋のどこからでも表情が見えるよう部屋のすみっこへ。

 ニュースをよく見ていた母が、お花をゆったりと眺めるようになった数日後。

 


 朝の食卓にはいつものご飯やおかずと一緒に、味噌汁が湯気を立てていた。

 オレンジの花と並んで。







 




 

 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] >けれど、どこか今の家で飾るイメージが湧かない この一文にリアルを感じてはっとさせられました。 とても短いけど、とても変化のある素敵なお話。 読ませてくださりありがとうございました。…
[良い点] 日常の中のちょっとした癒やしって大切ですよね。疲れ切っていたお母さんの心が少しでもほぐれればいいなと思いました。
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