1.ある日の放課後
世の中、クイズゲームやクイズ番組は多々あれど、それを題材にした小説は殆ど見掛けないので自分で書いてみました。クイズ好きの方はもちらろん、あまり興味の無い方でもこれを読んで楽しんで少しでも興味を持っていただければ幸いです。
私がちーきくにその話を聞いたのは、新学期のドタバタもようやく落ち着き、ゴールデンウィークも終わってこれから本格的に暑くなりそうな5月の初夏だった。
「ね、突然だけどさ、さーちんクイズって嫌い?」
部活での休憩中、何気ない話を同じクラスで仲の良いちーきくこと菊池悠貴としていると、どういう流れでそうなったのかちーきくがそんなことを聞いてきた。
「・・・クイズ?!クイズってなぞなぞとか、純粋に知識が問われる常識問題とか?」
そう、『クイズ』と一言で言っても色々種類がある訳だが、
「あはは、いやなぞなぞとクイズは別かなあ・・・。うん、普通に知識を問う方。」
まあ、いずれにしろ私は正直なところなぞなぞだろうがクイズだろうが取り立てて嫌いという訳ではない。むしろテレビなんかでやっているクイズ番組はけっこう好きで観ているし、毎週土曜の夜にいつも決まって観ている番組もよく考えたらクイズだ。どちらかと言えば好きな方かも知れない。
「まあ・・・嫌いじゃない・・・けど。」
私がそういうとちーきくはちょっと安心したような顔をして、おもむろに鞄の中から一枚のチラシのようなものを取り出し、そしてこう言った。
「これに一緒に出てみない?」
その紙を覗き込む。するとそこには、
「第10回全国中学生クイズ選手権 参加者募集!!」
の文字が読めた。
「これって・・・!」
「そ!いわゆるあの”中学クイズグランプリ”。」
全国中学生クイズ選手権大会、通称『中学クイズグランプリ』。私が知っている限り数年程前から始まった全国の中学生同士によるクイズバトル。
まだ歴史はそれ程深くはないが、全国大会ではテレビ中継も入り毎年開催時期になるとどこかしらで話題が出る結構大きな大会だ。
「いやー、私さあ実を言うと小学生の頃からずっと出たかったんだよねぇ・・・。本当は一昨年も去年も出たかったんだけど、どうしたらいいのかよくわかんなくて迷っているうちにエントリー期間過ぎちゃったり、予定が合わなかったりして出らんなくて・・・。でも、もう出られるチャンスって今年で最後じゃん?だから思い切って出ようかなって。」
「・・・と言うことで、さーちん!是非一緒にお願い!!」
募集要項を見ると、参加形態は「三人一組のチーム戦」となっている。なるほど!私か誰かちーきくを含め三人いないとエントリーすら出来ない訳だ。
それに、中学生クイズなので、文字通りこの大会には「中学生しか」参加出来ない。高校生以上はもちろん駄目だし、仮りにどんなに優秀であったとしても小学生以下でもエントリーは出来ない。中学校に通ってさえいれば学年は問われないが、既に中学三年生であるちーきくや私にとっては今年が出られる最後のチャンスである。
特に断る理由も見付からないし、中学生最後の夏の思い出作りと思えば良いかも知れない。
「うーん・・・そうだね。特に予定が入っていなければいいよ!」
「ホント?! ありがとうさーちん!!!是非よろしく!!と言うか、予選でもまだ一ヶ月位先、通ったら本戦は8月なのでどうか空けておいて下さいお願いします。」
まあ、その位前から決まっていれば、もし後から何か予定が入りそうなことがあったとしても優先できるだろう。
日程に関してははそれ程心配はいらないようだが、しかし私にはどうにも拭い切れない懸念事項がある。
「でもさ・・・中学クイズって全国のトップ校ばっかり出るんでしょ?!私なんかが出ても大丈夫なの?」
そう!あまり具体的には詳しくは無いが、この大会は知識を競うだけあって、公立私立を問わず、全国のトップ校の中のトップ校が集まる筈である。
「そうだね・・・確かに神奈川県は東京と並んで全国でも激戦区と言われてるけど・・・」
ちーきくは少し言い淀んだかと思うと、一呼吸置いてから、
「問題です!次のうち県庁所在地であるものを全て選びなさい。①群馬県高崎市 ②島根県松江市 ③青森県弘前市 ④香川県香川市 ⑤福岡県博多市」
いきなり地理の問題を出してきた。
これは既に受検の時に散々やった社会の基礎だ。えっと、群馬県の県庁所在地は確か高崎ではなくて前橋市だった筈。島根県は松江市で合っている。香川県は高松市。東北地方は仙台を除いて全部県名と県庁所在地は同じだった筈。福岡は・・・博多駅は確かにあるけど市そしての名前は福岡市ではなかったか。
「②だけだね。」
「おー正解!!じゃあ、次。唱歌『荒城の月』の作詞者は土井晩翠ですが、作曲者は誰?」
地理かと思ったら次はいきなり音楽か。しかし、音楽系の部活に所属している身としてはこれは答えないとまずいだろう。
「瀧廉太郎!」
「またまた正解!さーちんやるね!」
「・・・ふむ、じゃあこれはどう? 実際には経験したことがあるのに、まるで未体験であるように感じることをフランス語で何という?」
あーこれは聞いた事がある。確かアレだ! 確か・・・、
「デジャ・・・」
いや、待てよ? 違う!それは確か「経験したことが無いのに経験したことがあるように」感じることじゃなかったっけ? ってことは正しいのは・・・・・・、
「いや、ジャメビュ!!!」
私がそう答えると、ちーきくには予想外だったのか少し驚いたような顔をして
「お?!・・・おおう、せ、正解だよさーちん!!!」
そう言ったかと思うと、
「・・・す、凄いよ、さーちん!!! 」
ばっ!
いきなり抱きついてきた。
「ちょっ・・・?! ちーきく何を??」
「あ、ごめんごめん。でも正直言うと今のはちょっと引っ掛けのつもりだった。」
「デジャブって答えると思った?」
「うん、実を言うとね。そっちの方が一般的には有名だし。」
「あんたのことだから絶対そういうの出してくると思った。」
そうなのだ!ちーきくが変化球な言動をするのはいつものことだ。悪い言い方をすれば斜め上。良い言い方をすれば・・・天心爛漫?とでも言えば良いのだろうか。
とにかくそんなちーきくのことなので、そのまま素直には終わらないと思って一応問題を注意深く聞いていたのが、今回見事功を奏したようである。
「あちゃー見抜かれたてたか。やっぱりさーちんは私のこと解ってるね。」
「そりゃ3年も付き合ってたらね。」
ちーきくとは、中学に入学してすぐに知り合った。それからよく話すようになって今の関係になったのだが、流石にもうお互い性格は知り尽くしている。
「あー、もうそう言ってくれるさーちん大好きだよー!」
「だから抱き着くなっての!!」
そして、ちーきくは、たまに気持ちが昂ぶるとこうして抱きついてくるのが玉に傷なのである。