20階層への備え
昨日母親が変な事をいうもんだから、ちょっと浮ついた想像もしてしまったけど、とにかく俺には合格しかない。
そこはもちろんマストだけど、差し迫った問題。
それは今日も潜る20階層だ。
20階層が探索者にとって壁だというのはわかっていたことだけど、想像以上にうちのパーティとの相性が良くない。
草木が生い茂るフィールド特性にモンスターの種類、そして虫や蛇。
女性の多いうちのパーティへの嫌がらせかと思う階層だった。
極めつけは俺以外で唯一の男であるベルリアへの精神系の攻撃。
昨日もかなり早く切り上げので20階層はまだ序盤も序盤であるにもかかわらず既に苦戦している。
俺自身も昨日巨大なヒルに血を吸われたせいか身体が重い。
痒みはベルリアの魔法のおかげで治まったけど、結構な量の血を吸われていたので一日では全快しなかったのかもしれない。
夜寝る前にもそれなりに頭の中でシミュレーションしてみたけど、なかなか上手くはいかなかった。
いずれにしても先の階へと進むためにも、距離を伸ばしていく以外にはない。
重い身体に気合を入れなおし、ダンジョンへと向かう。
「おはよう」
「おはようございます。海斗さんどうかしたのですか?」
「いや、大丈夫」
ヒカリンに気遣われるとは、顔に出てたかな。
これから潜るのにこれじゃだめだ。
ん?
いつもとは違う臭いがみんなからする。
「この匂いは?」
「海斗さんも使いますか? ヒル避けスプレーなのです」
「ああ、そんなのあるんだ。効果あるなら使いたいな」
「ふつうのヒルにはあるみたいなのです」
そう言ってヒカリンが手渡してくれたのは『どんなヒルでもノックアウト ヒルキルキラーZ』というスプレーだ。
どうやら、忌避、駆除どっちにもいけるらしい。
製品名からも凄く効きそうだけど、相手はあの巨大ヒルだしな。
それでも効果を信じ首回り中心にしっかりとスプレーする。
よく見ると3人の服装も昨日とは少し異なっている。
「思ったより大変そうだし、露出は最低限にしたのよ」
いつも短パン姿のミクも今日はスパッツのようなものを履いている。
「海斗のスーツと同種のものよ」
「へ~っ、だけど俺のより薄い気がするけど」
「最新のにしといたから。薄いから動きやすいけど強度は旧式のものより50パーセントアップしてるのよ」
「そうなのか」
ミクの身に付けているスパッツは明らかに俺のスーツよりも薄い。
普通のスパッツとそう違わないように見える。
ウエットスーツを若干薄くしたような俺のと比べるとかなり違う。
これなら服の下にもいけそうだ。
「ちなみにいくらくらい?」
「たしか300万円くらいだったかな~」
「へ~っ」
スパッツで300万か。
全身スーツだといくらするんだろう。
進化してるのは凄いけど、値段も進化している。
動きやすそうだし、強度も増しているならかなりいい気がする。
買えないことはないと思うけど、すぐには無理だな。