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第680話 親心

結局翌日も朝から二階層を目指して一階層を駆け抜ける。


「今日も頑張ります! 今日の事を考えたらなかなか寝れませんでしたよ〜。今日はゴブリンとスケルトンで二桁目指します!」

「あぁ、無理しないように頑張ろうな」


昨日の経験で自信をつけたのだろう。野村さんのテンションが明らかに昨日よりも高い。

俺達は最短で一階層を抜けて二階層へと辿り着いた。


「ベルリア、今日も頼んだぞ」

「マイロードお任せください」


昨日ベルリアの出番は一度だけだったが、あれがなければ野村さんは怪我を負っていたかもしれない。なので今日もしっかりとフォローを頼む。


「海斗先輩、昨日も思ってたんですけど、マイロードって呼び方凄くないですか? 映画以外で初めて聞きました。中世の貴族か何かみたいですよね」

「………」


慣れとは恐ろしい。確かに最初は俺も同じ事を感じていたはずだ。いつの間にかこれが当たり前になってしまっていたが、人に指摘されるとかなり恥ずかしい。あ〜顔が熱い。

俺が答えに困っていると、タイミングよくシルが助け船を出してくれた。


「ご主人様、敵モンスターです。ご準備を」

「そ、そうか! 野村さん、気を抜かずにいこう」

「わかりました! がんばります」


野村さんがボウガンを構えて進んでいくが、昨日のすり足状態よりも進む速度が格段に上がっている。

明らかに、昨日よりも肩の力が抜けているのがわかる。

少し進むとすぐにゴブリンを目視する事が出来た。

俺が目視出来たタイミングとほぼ同時に野村さんが前方に向けスピードを上げた。


「あっ……」


野村さんの予想外の行動に俺の動きがワンテンポ遅れてしまったが、その間にも野村さんは更にゴブリンとの距離を詰めている。

ゴブリンもこちらに気が付き、野村さんの動きに反応して動き出そうとしているが、距離を詰めた野村さんがすぐさまボウガンを放った。

放たれたボウガンの矢は見事にゴブリンの頭部を捉えて、ゴブリンは抗う間もなく、その場でそのまま倒れて消滅してしまった。



「おおっ!」

「先輩! やりましたよ!」


野村さんの成長が著しい。昨日は恐る恐るだったのに、今日はゴブリンの反撃を許す事なく無傷でしとめた。

LV6になってステータスが上昇した事もあるとは思うが、確実に昨日戦った事による経験が生きている。

明らかにゴブリンの能力を把握した上で、気付かれて距離を詰められる前にしとめた。

もしかして野村さんってセンスあるのか?

なんか、俺はもとより真司、隼人よりも成長が早い気がする。

そもそも俺の周りの女の子達はみんなセンスあり過ぎないか?

もしかして女性の方が探索者としての適性が高かったりするのだろうか?

野村さんは、次に出現したゴブリンも同様の手際であっさりと片付けてしまった。


「野村さん凄いな」

「やっぱり先輩達がいてくれると安心感が違うんで思い切って踏み込めるんですよ」


お世辞かもしれないが、そう言ってもらえると普通に嬉しい。

俺ってやっぱり単純なのかな。

ただ、野村さんを見ていると俺が育てたわけでもないのに、雛鳥が巣立っていくような不思議な感覚だ。

これが親心というやつだろうか。

この日、俺は十七歳にして親心というものが少しわかった気がする。

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