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第673話 野村さんのファーストキル

野村さんの帰りが遅くなるとまずいので、とりあえず今日はあと一体倒したら帰ろう。


「じゃあ、次を倒したら帰るけど、さっきと同じ要領で行こうか。一応俺がダメージを与えてからとどめをさすっていう裏技もあるにはあるけど」

「いえ、自分でやります。海斗先輩無しでもやれるようにならないと、自分が困るんで」


もしかしたら安易な方を選ぶかとも思ったけど、今までずっと一人で一階層に潜っていただけあって野村さんはしっかりしていた。

この時点で真司と隼人は完全に負けてるな。

あの二人は完全に俺頼みのパワーレベリングだったもんな。

そういえばあいつらとも、前に遠征に行って以来一緒に潜って無いな。

また今度誘ってみようかな。

野村さんと話をしながら進んでいくが、野村さんの弟は、2人共小学生で普段は野村さんが面倒を見ることも多いらしい。

基本平日は、弟達の世話をして週末にダンジョンへ潜っているそうだが、自分の時間があまり取れて無さそうなので少し心配になってしまった。

女子高生なら遊びにも行きたいと思うのだが、俺に出来るのは少しでも効率よく稼げるようにサポートをしてあげる事だろうか。


「野村さん、あそこにいる。ボウガンを構えて。外しても焦らず確実に二射目を放つんだ」

「わかりました」


野村さんがボウガンを構えて、前方のゴブリンに向かって進むと先程の経験から今度は足下にも注意を払いながら進んでいる。

既に二十メートルの距離まで近づいているが、ゴブリンは背を向けているのでまだこちらに気がついていない。

この調子で有れば、いけるか?

十五メートル程までの距離まで近づいたタイミングで野村さんの足が止まった。

様子を伺うと、緊張で身体が強張っているように見える。

おそらくこれ以上距離を詰める事に抵抗感があるのだろう。

少し距離はあるが、動きが無い相手であれば狙えない距離では無い。

野村さんは、その場でじっくりと狙いを定めてからボウガンのトリガーを引いた。

矢はゴブリンに向けて飛んで行き見事背に命中した。


「や、やりました〜」


命中したのを見て野村さんがボウガンを下げる。


「野村さん! まだだ! まだ消えて無い。すぐに構え直して!」

「は、はい」


俺の予想通り、野村さんが再びボウガンを構えるのとほぼ同時にゴブリンがこちらに振り向いて、叫び声を上げながら猛然と向かってきた。


「ダメージはある。焦らずに狙って撃つんだ!」


ゴブリンは背中のダメージのせいでスピードはあるものの動きはぎこちない。

野村さんとの十メートルを切り、間近にゴブリンが迫って来た瞬間、トリガーが引かれ二射目が放たれた。


「ギャッ!」


二射目はしっかりとゴブリンの胸部真ん中に刺さり、ゴブリンはその場にバッタリと倒れた。

野村さんは倒れたゴブリンにボウガンを向けたまま構えを崩さないが、数秒経過後にゴブリンが消失し地面には魔核が残された。


「海斗先輩、今度こそ本当にやりました〜」


野村さんが、全身の緊張を解き、その場に座り込んだ。


「やったな。一人だけでゴブリンを倒せたんだから、今度は胸を張っていいんじゃないか?」

「はい、初めてゴブリンを倒せました〜。でもやっぱりゴブリンって怖いですね〜」

「ああ、ゴブリンを舐めたらやられるからな。雑魚モンスターっていうのはゲームの中だけだよ。でもこれで次からはもっと楽に倒せるはずだよ」


少し気を抜いてしまう場面はあったが、一人で倒せたのは大きい。案外野村さんはセンスがあるのかもしれない。

俺達は今日の目的を達成したので、魔核を拾ってからすぐに帰路につく事にした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 野村さんとの十メートルを切り、間近にゴブリンが迫って来た瞬間、
[良い点] しかし、怖いですね。独りプレイはリスク管理出来ませんから。
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