第309話 覚悟
俺は今家で眠ろうとしている。
精神的にかなり消耗したのでドリュアスを撃破した後、みんなで相談して今日はもう引き上げる事にしたのだ。
家で晩ご飯を食べてからお風呂にも入って、疲れたので明日に備えて早めに眠る事にした。
灯りを消してから布団の中に入って目をつぶると、頭の中に今日倒したドリュアスの瞳が浮かんできた。
魅了の効果は戦闘時のみの一時的なものなので間違いなく影響は無くなっているはずだが、あの時感じた、感情は覚えている。
緑の髪の女性……
あの瞬間は、モンスターとは思えず、明らかに自分と同じ人間であるかのような錯覚を覚えて身体が動かなかった。その感覚がまだ俺の中に残っている。
今迄もモンスターが生き物であると言う認識は勿論あった。
そしてダンジョン探索もリアルであり、命の危険がある事もしっかりと認識出来ていた。
ただ、そのファンタジーやゲームの登場物のような見た目から俺の中でモンスターを倒す行為はVRMMOの中でモンスターを倒す行為と近しい感覚だった。それ程抵抗感も無く倒せていたし、倒しても消えて魔核が残るだけなので、相手の死をそれ程意識する事は無かった。
ただ今回の事で漠然としていた認識がはっきりとしたものに変わった。
モンスターも生きている。
人型のドリュアスは勿論他のモンスターだって生きている。
それを毎日俺は狩っているのだ。
「そうだよな〜。当たり前だよな。あ〜」
しかもドリュアスのような完全に人型の敵を倒した事、おまけに魅了の効果でシンパシーを感じた状態で倒した事は、俺の精神にかなりの影響を与えたようだ。
このまま探索を続ければまたドリュアスにも出会うかもしれない。ドリュアスだけで無く、天使やシル達の同胞にも遭遇するかもしれない。
その時に俺は倒す事が出来るだろうか。
躊躇無く止めをさす事が出来るだろうか。
ドリュアスの瞳が脳裏をよぎる。
普段、人とろくに喧嘩もした事が無い俺が人型のモンスターの止めをさす。
「う〜。あ〜。きついな……」
人型で無くとも命を絶っている事に違いはない。
今まで勢いと楽しいとだけで来てしまった部分は否めないが、自覚してしまった以上このままではいけない。
俺には明日から探索者を止める事はできない。自分勝手かもしれないが止める事が出来ない程にダンジョンの探索にハマり込んでいる。
続ける以上避けては通れない。
そして俺が躊躇する事で他のメンバーを危険に晒す。
メンバーそしてサーバントが危険に晒されている状況を思い浮かべる。
以前ベルリアと戦った時の情景が思い浮かぶ。
あの時に感じた、どうしようもない絶望感と焦燥感、そして俺を守るために傷ついたメンバーの姿。
今思い浮かべても自分への怒りが収まらない。
二度とあんな思いはしたくないし、メンバーにさせたくない。結論の出ないそんな事ばかり頭の中でぐるぐると考えていると既に深夜の1時30分になっていたので、何とか寝ようと無心を心がけて、うだうだしているうちにいつの間にか眠りについていた。
朝6時30分になり、目覚ましの音と共に目が覚めた。
「あ〜眠いな〜」
今日もパーティメンバーと一緒に13階層に潜る。
正直自分のやっている事に正当性を見出す事は難しい。
だけど、俺はこれからも探索者を続ける事を決めてしまっている。
モンスターをこれからも狩る以上、罪悪感を感じる事もあるだろう。
躊躇する事もあるかもしれない。
俺の出した答えは、今まで通りに続ける事だった。
今まで通り続ける事は自分のエゴを通す事だと思う。自分に都合の良い勝手な理屈を捏ねる事だと思う。
それにより俺の心が痛む事もあるだろうが、これは自分で決めた事への責任なのでしっかりと心に刻み込んで進んでいきたい。簡単に割り切れる事ではない事を理解したので、その上で俺はこれからもモンスターを倒しながらダンジョンを進んで行く。
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