第117話 9階層
俺は今9階層でリザードマンと対峙している。
一体はルシェが撃退してくれたので、残る一体を、俺が撃退しようと光のサークルを飛び出して試みている。
今までもゴブリンなどの人型とは戦闘してきたが、このリザードマンはちょっと違う。
もちろん剣や防具を装着している事にも驚いたが、今までのモンスターと違い、動きが洗練されている。
今までも棍棒程度を振り回すモンスターはいたが、あくまでも力任せに振り回しているイメージだったがこいつは違う。明らかに訓練したかのような剣さばきなのだ。
タイミングを上手く合わせることができれば武器破壊も可能だとは思うが、こちらの魔氷剣は5回しか斬り合えないのであまり受けに回るのは得策ではない。
最近使用していなかったポリカーボネイトの盾の使用も考えたが、知能の発達したモンスターの斬撃を上手く受け切る自信がないのでやめた。
今の俺にはやはりこのスタイル。左手に魔核銃、右手にバルザードのスタイルが一番しっくりくる。
距離を詰められる前に
「プシュ」 「カンッ」
一応狙いを定めて撃ってはいるものの、両者が動きながらの状態で正確に当てる事はなかなか難しく、リザードマンの防具に阻まれてしまった。
「プシュ」
「グギャー」
再度、防具のない部分を目掛けてバレットを射出。当たった瞬間に痛みで大きく仰け反り隙が出来たところに思い切って飛び込み袈裟斬りに伏す。
なんとか9階層初モンスターをスムーズに撃退することが出来た。
もしかしたら個体能力値は8階層のモンスターの方が高いかもしれないが、やはり9階層のモンスターの方が気を抜けない。
純粋な剣技だけなら俺よりもリザードマンの方が上だろう。こちらは武器のアドバンテージを最大限生かした戦い方をするのを心がけよう。
まあ当然だがドロップアイテムは無い。
「なあ、おい。今までと違ってモンスターが武器を普通に使ってるな。前みたいに気を抜いて死ぬなよ。」
「だから俺は一度も死んでないんだよ。」
ルシェなりに心配してくれているのだろう。前のように矢のような遠距離攻撃だけは気をつけないといけない。
そんな事を考えて探索していると、突然肩口に激痛が走った。
「うっ。」
矢?いや、もうすこし大きい気がする。どちらにしても痛みの感じからして骨が折れた。
「『鉄壁の乙女』ご主人様、かなり前方にモンスターです。感知が遅れました申し訳ございません。肩は大丈夫でしょうか。」
「おい、気をつけろって言ったばっかりだろ。大丈夫か。また死ぬのか?」
「いや、だから俺は死んだ事ないんだって。くっ。」
俺は慌ててリュックから低級ポーションを取り出して飲み干した。飲んで暫くすると痛みが引いてきた。単純骨折であればこれで完治するはずだ。
完治を待っている間にも大きな矢のようなものが何本も飛んでくるがシルの『鉄壁の乙女』のお陰で助かっている。
「シル、敵モンスターを確認できるか?」
「いえ3体いるのはわかるのですが、距離のせいで目視出来ません」
恐らく50M以上は離れていると思われるが、矢はどんどん飛んで来ている。とんでもない膂力だと思うが、どうすればいい。このままだといずれ『鉄壁の乙女』が切れてジリ貧になる。かと言って防御のない状態にシルとルシェを晒すわけにもいかないので2人は動かせない。相手がしびれを切らして出てきてくれればいいが、この階層のモンスターは知能レベルが高いようなので期待できない。
「シル、このまま『鉄壁の乙女』を維持してくれ。ルシェはこの場で待機だ。俺は敵のところまで突っ込むから。」
「ご主人様、無茶です。私も一緒に行きます。」
「大丈夫だ。問題ない。」
俺はポリカーボネイトの盾を構えて、全速力で猛ダッシュした。魔氷剣では、制限時間の調整が効きそうにないので魔核銃を選択する。一応、的を絞らせないために蛇行しながら走り抜ける。普段の俺は足が特別早いわけではないがダンジョン内ではレベル17のステータスを発揮し、かなりのスピードを出せている。おそらく今の俺のステータスはパワー型ではなくスピード型だと思われる。
50mを超える距離を蛇行しながらも7秒ほどで詰めることが出来たが、その間も矢が数本飛んできて、盾に守られることになった。
近付くにつれ敵影を確認することができた。見た目はオークだが銀色の毛を生やしているのがみて取れるのでこいつらはシルバーオークだな。オークの上位種と言われているモンスターだ。
弓と言うにはかなりオーバーサイズな弓を構えて撃ってくる。
矢がかなりのスピードなので瞬時に反応することは難しいのでとにかく大きく避けるしかない。
シルバーオーク3体の同時攻撃は捌き切れないのでとにかくまず1体を仕留める。
盾の脇から魔核銃を発砲する。
「プシュ」 「プシュ」
的が大きいので走りながらでも当てることができた。
「グブォーン」
被弾したシルバーオークにさらに追撃を三発加えて1体を仕留めることができた。これで残り2体。止まればやられるのでスピードを緩めず蛇行する。
シルバーオークも焦ったのか、連射してくるが精度が悪く当たらない。
その隙を狙ってまた魔核銃を発砲する。
「プシュ」 「プシュ」 「プシュ」
今度は3発で仕留める事が出来た。残る弾は2発だ。
そのままの勢いで最後の一体を仕留めにかかる。
「プシュ」 「プシュ」
「グフォーン」
ダメージは与えているが消失まではいかない。
「ウォーターボール」 「ウォーターボール」
氷の槍を連続で投射して最後の一体を仕留めた。
9階層の2番目の敵でこれか。盾でなんとかなったけど、守られてない所に当たったらやばかったかもしれない。
魔核を拾って、シルとルシェのところに戻ると
「ご主人様、ご無事で何よりです。安心してみている事が出来ました。さすがですね。」
「いや、それほどでも・・・」
「おい、さっきのって一旦私たちをカードに戻せば良かっただけじゃないのか?」
「えっ?」
「カードの状態で近くまで運んでから再召喚すれば、3人でもっと楽に戦えたんじゃないのか?」
「うっ。確かに。」
とっさのことでそんな発想がなかったが、ルシェの言うことが正しい気はするが、今回は俺なりに頑張ったんだから、俺の努力もちょっとは認めて欲しい。