まじ、埋まるんだ
うざってぇ声を出しながら、突っ込んでくるヤンキーズ。
何で強引奴らは、いちいち声を出さなきゃ気が済まねぇのか。
若干引きながら待っていると漸く俺の間合いまでたどり着いた。
まずは大きく振り被ってきた警棒を、腕を掴む。
そんで、そのままぶん投げて一人目、さようなら。
テコの原理万歳。
二人目は鉄パイプを振ってきたとこで掴んで、手を捻って外してから足払いで転ばせて顔面スタンプ。
うぇ、鼻血ついた。
「天女ぇ!!くたばれや!!」
「うおっ!!危ねぇ、な!!」
鼻血を拭こうと床にスニーカーを擦ってたら、バカが来やがった。
顔面スレスレで鉄パイプを避けながら、前へと踏み込む。
相手からしたらいきなり目の前にいる、みたいな錯覚だろう。
三人目がギョッとした顔をしたとこで、顎にパンチを入れてダウン。
四人目がその隙を着いてか、俺を後ろから鉄パイプを振り下ろそうとしてきた。
目の前には五人目と六人目。
すかさずソイツらの目の前に飛び込んで、一発ずつ腹パンしたら背後に回ってケツを蹴ってやると、前によろける。
結果、味方にヤられて二人ダウン。
焦った四人目には、落ちてた鉄パイプをぶん投げて撃沈。
うわぁ、顔面に思いっきり当たったから、悶絶してるわ。
そうこうしてると、最後の七人目と頭一人だけになった。
この間僅か数分。
相手さんも何がなんだか解らん状態だわな。
七人目が、ナイフ片手に奇声を上げて突っ込んできた。
仕方がないので、顔に向かってテーブルに掛かってたクロスをぶん投げて視界を塞ぐ。
人はいきなり視界を奪われると混乱するらしい。
ナイフを無茶苦茶に振り回しながら叫んでる。
その隙に後ろに回って思いっきり椅子をぶつけたら、大人しくなった。
念のため、コイツも顔面スタンプの刑に処してやったが。
「んで?終わりか?」
「あ、天女。てめぇ...」
「何だよ」
「こんな事して、タダで済むと」
「あん?何、あんたは掛かって来ねぇの?」
「クソッ」
やぁっぱり、コイツもナイフかよ。芸が無ぇな。
何て思ってたら、光を引き寄せ首もとにナイフを押し付けた。
ギラリと照明を反射するナイフが気味悪ぃ。
「近づくとこの女に傷が付くぞ!!」
「いやいや、あんた最低だな」
「うるせぇ!!やっと天女兄弟がいなくなったと思ったら今度はてめぇが幅きかせるとかうぜぇんだよ!?」
「は?」
「大人しく、そこに座れぇ!!」
また、あのクソアニキどもが原因の因縁かよ、うざってぇ。
しかし、どうするかねこの状況。
ゆっくりと座ろうとする俺を見て、頭はニヤリと胸くそ悪い笑みを浮かべている。
なーんてな。
瞬きをする瞬間を見計らって、俺は間合いを一気に詰めてナイフを持ってた手を払う。
瞬間に間抜けな声が上がった。
「は?」
「せぃ」
「んガフッ!?」
顎にアッパーを決めると、ゴキンと思いっきり音がしてぶっ飛んでった。
おぉ、舌かんだっぽいな。
地面に倒れた瞬間に、口から血出てる。
しゃがんで顔を覗き込むと白目剥いてた。
仕方ねぇから近くにあったおしぼりを口に突っ込んどいた。
止血は大事だ。
...止まるかは知らねぇが。
顔を横向きにしときゃ、死にはしねぇだろ。
立ち上がって体を伸ばし、思わずため息を吐いた。
「あーあ。しっかし、つまんねぇなぁ」
足元で気絶しているヤンキーズを一瞥し、ふと光に目をやった。
何だか、口をパクパクさせてる。
酸素でも足りねぇのか?
まぁ、いいや。
「んじゃ、気を付けて帰れよ」
やることやったからスッキリってな感じで帰ろうと店のドアノブに手を掛けた時だ。
「ちょっと待って」
鈴が鳴るような声が響く。
声の主は勿論、光だ。
俯きながら、此方に歩を進めてくる姿を見ながら、俺は首を傾げた。
名前は確かに知ってるが、直接の面識は無い。
確かに助けた様な感じにはなったが、俺に用事は無いだろう。
「どうかしたか?怖くて歩けねぇ、って訳じゃねえだろう?」
俺の言葉に反応すら見せず、俺の目の前に立ち止まった光。
・・・まじで、でけぇなこの女。
「何か用か?」
俺はマジで、この女の考えが解らず。
仕方なく女のデカいのを見ながら声をかけると、ふと気付いた。
・・・何か、プルプル震えてるぞ。何これ、泣くの!?それとも足元でネンネしてるこのアホどもと同類と思われて張っ倒されるんすか!?
なんて事を考えていた時だった。
グイッと腕を掴まれて、光の方に引っ張られた。
油断した俺は当然バランスを崩して、光にダイブする。
「おまっ、ぶっ!?」
そう、俺の目の高さに光のデカメロンが有るわけで。
ぎゅっと力強く、それに埋められる事となった。
こんな素敵体験したことねぇ俺は当然テンパる。
ち、力強ぇな!!ってか、息が出来ねぇ!?
「×¥+_%%『_・・っ!何すんだ、お前!?」
ワタワタしながら、何とか引き剥がすことに成功した俺は思わず距離を取る。
そうして、俺は光と目があった。
その時の表情は、今でも忘れない。
真顔ではあったが、まるで漸く探していた想い人を見つけたかのような瞳で此方を見つめ、呟いた。
「漸く、見つけた」
これが、渡瀬光と初めて会った瞬間だった。