光という女
渡瀬光。
コイツの事を聞くと大部分の生徒がこう言う。
難攻不落の女帝。
恋心のデストロイヤー。
失恋男子製造機。
パッと聞くと物騒な名前が連なっているが、本当だから仕方がない。
入学当時に告白してきた男を尽くフっては、立ち直れない程の罵詈雑言を吐き捨てて粉砕。
灰になった生徒は数知れず、みんな仲良く風に飛ばされて言ったそう。
曰く、サッカー部のイケメンストライカーな先輩には。
「女の黄色い声援が欲しいの?なら、良い猿山を紹介して上げる。そこでボス猿を目指せば?」
曰く、プロ入り間違いなしと言われる野球部のエースには。
「私を好きなのではなく、貴方は外見しか見ていない。心から虫酸が走るという言葉を熨斗を付けて貴方に上げるわ」
曰く、学校でも白い目で見られがちなオタク野郎には。
「め、女神?...現実は理解できてる?現実の女は貴方に優しくない。崇拝は2次元だけにして、今すぐ鏡を見直しなさい」
曰く、入学当初にシメていたヤンキーズには。
「ヤりたいだけなら声を掛けないで、耳が腐るわ。理解が出来るならもう息をしないで。酸素の無駄よ」
などなど。
数えたらキリが無い位の無双っぷり。
マジでタケの話を聞いた時に、戦慄したわ。
ここまで、人を言葉でコケにする奴がいるんだと。
タケが爆笑しながら教えてくれたから、信憑性が薄かったけどな。
まぁ。そんな事を多々やってりゃあ酷いしっぺ返しがくる。
あれは一年の夏休みだったか。
俺はタケとやる事も無くて、一緒に駅前に来ていた。
夏休みだからか、駅前は学生で賑わっている。
学生だから、遊ぶと言えばゲーセンかカラオケか、ビリヤード、ダーツ位しかねぇしな。
ブラブラ歩いていると、タケはすぐ逆ナンされてうぜぇ。
面倒だから持ち帰れ、何て事を言っていた時だった。
路地裏に一人の女が数人のガラの悪ぃ奴等に連れてかれるのを見かけた。
また女に絡まれてるタケをそのままにして、その後を追ってみた。
路地に入ると頭の悪そうな奴らが薄汚い飲み屋の前に数人たむろっている。
手には警棒やら角材やらを持ってる。
ソイツらは此方に気付くと色々言いながら近寄って来たので、一発ずつ腹パンを決めて沈めた。
うん、正当防衛だ。俺は一般人です。
うめき声をBGMに流しながら地下に続く階段を降りると、静かにドアを開けた。
薄暗い店内に、雑多に並べられたテーブル。
そんな中に女を見つけた。
実はこの時まで俺は光だと気付いておらず、顔を見て始めて理解した。
(あれ?あの女ってこの前タケが言ってた奴だよな)
女の様子を見ると、あからさまに無理矢理連れて来られたのだろう。
白いブラウスにパンツスタイルの光には不釣り合いの場所だ。
しかもガラの悪ぃ男どもが多数。
顔を見ると、タケから聞いていた光にこっぴどくフラれたヤンキーズ。
どうやらフラれた事を根に持ってたらしく、たむろってた所で光を見つけた為に連れ込んだのだろう。
腐ってて、まじで下らねぇな。
当の光は冷めた目をしながらヤンキーズに罵詈雑言を吐いている。
だが、ヤンキーズは人数がいるからか、下品な笑い声を響かせながら詰め寄っていた。
いちにーさんしーごーろくなな。
七人と頭っぽいのが一人、か。
ちぃと少ねぇが、いいか。
流石に見過ごすには俺も良い気分がしねぇしな。
そう思い、店に足を踏み入れた。
「よぉ、先輩方。随分楽しそうな事してんな」
「あぁ?...あ、天女!?」
「天女だけど?」
「てめぇが何でこんな所にいる!?」
「は?夏休みだろ」
「そうじゃねぇよ!!外の奴らはどうした!?」
「あー、何か喧嘩売ってきたから寝てる」
何だか人の顔を見た途端に焦り始めたが、気にせず近づく。
「そんで、こんなとこに女を無理矢理連れ込んで何をしてんだよ」
「てめぇに関係ねぇだろ!?さっさと消えろ「あ?」...っ!?」
何か、失礼な先輩に少しイラっとした。
ゆっくりと近づいていくと、光は驚いた様に目を大きく開いて此方を見ている。
コイツ、こんな時でも表情変わんねぇんだな、何て事を思った時だった。
ドカッと鈍い音が、俺の後頭部からした。
ゆっくりと後ろを見ると、バットか何かで俺を叩いたらしい奴が立っている。
あら、八人いたのか。
「てめぇ、何かしたか?」
「は?え、な!?」
「日本語喋れや、こら」
「ぶげらっ!?」
俺の顔とバットを交互に見ながら、訳の解らん言葉を発する奴の顔面にローリングソバットをぶち込んでやる。
すると、汚ねぇ声を上げながらテーブルにぶっ飛んでいった。
おお、飛んだ飛んだ。
「そんで、これは喧嘩売ってるって事だよな?」
「オメェラやっちまえ!!」
「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」
雄叫びを上げた野郎どもが、キレた面並べてんなぁ。
むさ苦しい事この上ない。
が。
調度暇してたとこだしな、うん。
思わず顔がニヤけたのが、自分でも解った。
多分、相当やべぇ顔をしてるだろう。
「おっけー。ちっと遊んでやるよ」