夢で済むなら台本はイラナイ
俺の物語は今、ここから始まる。そうだな、書き始めは間違いなくこうだ。
『これが夢ならどれだけ良かっただろう。』
*
空は燃えるように赤く、岩肌はゴツゴツと尖っていて。
そして俺はなぜか全力で走っている。…それも涙目で。
「ちょっ、待て待て待て待て!!!」
「私は待てるけど、ドラゴンは待ってくれないわよ!?」
「マジか!!!!」
俺の隣には、俺と同様に全力で走る女。そして後ろには火を噴くドラゴン。
なぜだ。なぜこうなった。どこから間違えた。
頭をフル回転させても正解に行き着くわけもなく。
「何がどうなってんだよおおおおおおお!!!」
今は走るしかないのだ。
「ねえ、あんた武器か何か持ってないわけ!?」
「持ってたら逃げてねえよ!つか、俺がそんな重装備に見えるか?!」
走りながら隣の女に向かってバッと腕を広げて主張する。
…ジャージだ。有名ブランド、ブーマのジャージだ。足元はただのスニーカー。
重装備どころかむしろ軽装だ。戦うには不向きだ。
走るのには適しているが、如何せん、俺は体力がない。
なぜなら、数日前までは生粋の引きニート“だった”からだ。
「どうすんのよ、バカ!!」
「お、お前だってなんも持ってねえじゃねえか!」
「だって、お試しとかいうから用意する暇なかったんだもん…!」
しょげてんじゃねえよ…今そんな場合じゃないんだよ…!
体力のない俺はもうずっと前から息が上がってとっくに限界迎えてんだよ。
「この場合どういう展開がありえるんだ!?」
「ドラゴン倒して姫を助け出してハッピーエンドか、死んでバッドエンドってとこかしら?」
「もうシステムはわかった、手っ取り早く死のう!」
「はあ!!??痛いの嫌よ!?」
「いいよ、主人公が死んだら物語終わんだろ!!」
「ちょっと…!」
彼女の声を背に足を止めてドラゴンと向かい合う。
グオオオオ…なんて唸り声が聞こえたかと思うと目の前が真っ赤になった。
そこで、俺の1つの物語が終わった。