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その優しさはたまに苦しいです。

ヒロイン不在回です。

「よーっす!おー、バスケ部、せいが出るねぇ」

暗い中でぼんやりした光が漏れる体育館の入口。

片付けをしている下級生を尻目に、コート脇で水分補給をしている晴久捕まえる。流し目のように色気駄々漏れで宏和の姿を確認した晴久は、何の用だ?と威圧的に視線だけで聞いてくる。

こぇえなぁ。幼馴染みに向かって、その威嚇はないんじゃない?」

「威嚇なんかしてねぇよ」


さいでっか。


宏和は晴久が晴久なりに昼休みのことを考えなしだったと思っていることを知っている。恐らく今日の練習は苛立ちもあってハードだったにちがいない。憐れバスケ部。ご愁傷様。


「……風華ちゃん」


ぴくっと晴久が反応する。目に入れても痛くない、というのは、たぶん晴久の風華に対する構い方だと、宏和は思っている。

「……何だよ」

「えーっと、うん。さっき紗雪と帰ったよ」

「は?こんな時間にか?」

「うん。図書委員の当番だったんだって」

「……委員会の時間はとっくに終わってんだろうが」


ーーーだよねー。


「ヒロ、お前、知ってること全部吐け」

「いいやー、それ俺紗雪にしめられちゃうヨネ!」

「んなこと知るかよ。とっとと別れちまえ。さゆは俺が嫁にするから」

「いやいやいや!昔っから言ってるけど、その冗談笑えないから!まじヤメテ!」

晴久が紗雪を嫁にするというフレーズを使うのは、小さい頃から。それも宏和に対する脅しの意味合いが強い。最も、晴久は晴久で紗雪のことを好ましく思っているのだが……主に風華に対する付き合いの面で。


「……で、お前がわざわざ来るってぇことは、何か伝言か?」

「んー、ちょっと違うけど、まぁ、そんな感じ」

伝言とは少しニュアンスが違うかもしれないが、宏和は紗雪から晴久のことを頼まれたと思っている。



「ーーーはけ」


「うーわー、痛い痛い痛い。アイアンクローやめて!自分の握力考えて!」


目の前から見下ろされると、晴久の整った顔も加わり、凄みが増す。練習の後だというのに、この馬鹿力!と宏和は心の中でだけ叫ぶ。本当に言ったら、今以上に痛い思いをすることなんてわかりきっていた。


「ふぅー、いやね、晴久さん。俺、結構か弱いからね。わかってると思うけど」

「知るか」

10年来の付き合いなんだから知ってて!という抗議を、宏和は飲み込む。話が進まなくなる。

「んー、と。風華ちゃんさ、ちょっと気分、悪くなったらしくて、」

「……片付けよろしくな!俺、帰るわ!」

「人の話、最後まで聞けよ!」

「うるせぇ。帰らせろ」


ーーーあー、もう。怖いわ!女子の皆様、どこがいいの?この暴君の。


おそらく、顔、と答える人が大半だろう。学年3位から落ちたことのない、頭のよさと言う人もいるかもしれない。

でもきっと、過度のシスコンを歓迎する人はいない。

宏和は残念な性質たちの幼馴染みを、少し憐れんだ。


「紗雪が一緒だから大丈夫だって。きっと。保健室で休んでたらしいし」

「保健室?」

「え?何かある?」

「いや、さっき」



「なぁにはるってば、俺がいない間に堂々と浮気ー?」



背後からのし掛かられ、宏和はその重さに顔を歪める。

こんなことするのは、ひとりだけだ。そういえば、バスケ部員なのに、姿を見ていなかった。



「天」

「ただいまぁ、はる」


甘い甘い声。それが似合いすぎるハニーフェイス。晴久よりも高い背丈と、長い手足。

晴久がクールビューティーな孤高の王子様だとしたら、葉月天はづきそらは砂糖菓子のような甘々王子様。

ただし、それは容姿だけに限ったこと。


「はるー、聞いてよ。保健室行ったらさ、また笹塚センセに迫ろうとしてるのがいてさぁ。ほんと気分悪ーい」

「……お、重っ」

「ほぉんと女って





くだらない」



天はそう吐き捨てた。

晴久の口の悪さとはタイプの違う、嫌悪すら感じる言い方。

声色も、晴久へ向けた甘さの欠片もなく、突き放すように冷たい。

「……天。今、保健室に女子がいたんだな?ひとりか?」

同じく異性にモテる晴久に対して、天は同族のように感じていた。晴久も馴れ馴れしく近寄ってくる女子には厳しい。しかし、晴久には大切な風華いもうとがいるので、程度はわきまえているつもりだった。そこは、天と大きく違っていた。

「えー……あー、たぶんー?下級生かなぁ。超ちっこいの。体も、顔も、ぜーんぶ。アレで男に迫るとかないよねぇ」

ケラケラと、天は笑いながら話す。晴久のまとう空気が、どんどん固くなっていく。


ーーーマジか。キレる5秒前ー!


「オイコラ喧嘩売ってんのか?言い値で買うぞ?」


ーーー5秒もたなかったー!


間に挟まれた宏和はひとり、その重苦しい空気の中、頭をたれる。

「ちょっ、はる。何そんな怒ってんの?女のことなんてどうでもいいじゃん」

「うるせぇ。オイ、神戸かんべ。戸締まりちゃんとして帰れよ。俺は急用だ」

「お、おお。お疲れ」

おっとり人のいい神戸は晴久の声に、反射的に答える。練習後もしっかりしめる晴久にしては珍しい行動に、首をかしげながら。


「はるっ」



「……天」


「な、に?」




「お前が女嫌いなのはどうでもいい。……が、俺の大事なものを壊すな」



それだけ言うと、晴久は部室へ向かって走り去る。

唖然と残された天は、どうしたらいいのか、顔色を失って立ち尽くす。

「俺、置いてかれたー。帰るマンション一緒なのに」

宏和は空気が軽くなったことに一息つき、明るい、いつもの声を出す。

そうして、天の背中を一発、バァーン、と叩いた。

「天」

「っつってぇ……何だよ」

「今回は相手が悪かったわ」


晴久と宏和のやり取りは面白いといいなー。


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