文化祭です。①
季節感ありません。
「腕試ししていきませんかー?ボート部です!腕相撲やってまーす」
「クッキーの販売は次の回、3時からになりますー。今、売り切れでーす」
「ドーナツいかがですかー?」
去年、学校見学も兼ねて文化祭に来ているとはいえ、普段とは違った雰囲気に流されそうになる。ただ、人混みの中では、いつもよりも視線を浴びないので、風華は気が楽だった。
人気の出し物の教室の前は行列が出来ているし、搬入やらも相まって、廊下はごった返し。神戸のクラスのお化け屋敷も盛況なようで、もらったチケットを早瀬にあげたところ、興奮した様子で「すっごい面白かったー!」と青白い顔をした有川を引きずりながら言っていた。
風華たちのクラスは飲食ではなく、物販。しかも手作りのうちわや、うちわに絵を描くのがメイン。室内が人で溢れることもなく、下手をすればお客さんよりも生徒の方が多いくらいだった。
1日目、風華は基本的に教室内か、着替え場所になっている別の空き教室で、クラスメートたちの浴衣の直しをしていた。
せっせと無駄口をたたくこともなく、着付けの手伝いをする風華に、クラスメートは多少気まずいと思いながらも、特別嫌みは言わなかった。早瀬が頻繁に様子を見に来ていたことも原因のひとつだろう。
最初に「高山先輩ってー」と言い始めた子に、早瀬は「自分で聞きに行ったらいいじゃん。兄妹だからって、予定全部把握してる?」とピシャリと言ったのだ。
うちわをメインにしているから、主な客層はクラスメートの両親や、小さい子を連れたお母さん。夏休み前といえど暑いので、それなりに売れているようだった。その内に浴衣姿の女子がお互いをスマホで撮り始め、教室内は少しだらついた空気になった。
「あー、こうなっちゃうよねぇ」
「別にいんじゃね?楽しんでるみたいだし」
「そうなんだけどさー、お客さんの相手ほったらかし気味だし?」
「あー」
早瀬と有川は、部活の当番の合間に顔を出しては手伝い、また消えていく。紗雪も部活が気になるらしく、3時過ぎには戻ってくるから!と言い残して行ってしまった。
風華は当番ではなかったが、ひとりで校内を回る気にもなれなかったので、うちわに絵を描いている子の相手をして、大人しくしていた。
じろじろと見られないわけではなかった。
廊下から「ほら、あれが……」なんていう声はしっかり風華の耳に入ってきたし、面と向かって「お前が高山先輩の妹?」と直接聞いてくる人もいた。
「ぇ……あ、はぃ」
そう言って俯く風華に、相手は苛立たし気に嫌な視線を向けて去っていく。舌打ちも聞いた。
ーーー何が悪いのだろう。
「おねーちゃん、どっか痛いの?」
「ううん。大丈、夫だよ」
にっこりと笑顔を作ることは出来なかったけれど、気を失わなくなっただけ成長したのかな、と甘いことを思ってみる。
幸い、小さい子には晴久は関係ないらしく、安心して相手をすることが出来た。
「こっちじゃない?風華、高山先輩のクラス」
部活の方が落ち着いたらしく、宣言通り3時過ぎに戻ってきた紗雪と一緒に、晴久のクラスに顔を出すことにした。少し疲れたので、甘いアイスを食べて癒されたかったというのもある。
校舎も階も違うので、その廊下に着いてふたりは驚きのあまり立ち止まった。
ーーーな、何?この列……
確かに人気のある出し物は、行列をなしていた。けれど、晴久たちのクラスはその比ではなかったのだ。
「最後尾こちらでーす。あー、壁際に沿って並んでくださいっ」
「割り込まないでください!」
主に女子。他校生や、大学生らしき人もいる。男子はどちらかといえば高校生、中学生のような人が多いようだ。
「今ってさ、ふたりともいるんでしょ?」
「バスケ部の王子が揃うなんて超レア!」
きゃっきゃ、うふふ。
そんな音が聞こえてきそうな雰囲気。周りのクラスはすでに諦めたのか、客呼びの声も少なかった。
「さ、紗雪ちゃん」
「これは……予想以上だわ。高山先輩のシフト、漏れてるんでしょうね。……しかも、あのヘタレも一緒か」
「ヘタレ?」
「あ、うん。こっちの話。で、どうする?せっかくだし、並ぶ?」
「う、うん」
晴久から貰ったチケットを、無駄にはしたくない。明日はクラスの当番と、委員会の当番があり、今日のほうが時間を気にしなくてよかった。
特別行きたいところがあったわけでもないので、風華と紗雪は伸び続ける列の後ろに並んだのだった。
とても寒い日に、夏でアイスの話。




