幼馴染みは過保護で保護者です。
シリアスが長いです。まだ続きます。
さっさとくっつけていちゃいちゃが書きたい……。
昼休み。
風華は幼馴染みでクラスメートの河野紗雪と向かい合ってランチタイムに突入していた。
「そういえばさ、さっき購買で噂になってたんだけど」
紗雪の今日のお昼は入手困難と言われる焼きそばパンとカレーパンとアップルパイ。購買から一番遠い1年生で、どうやって紗雪がそれらをゲットしているのか、すさまじく疑問である。
「噂って?」
こてん、と首をかしげながら、風華が聞く。小動物を思わせる風華の動作は、いちいち可愛い。紗雪は思わず焼きそばパンを持つ手に力を入れてしまい、飛び出したそばが指を汚した。
「あー、うん。曰く……クールビューティーの王子に下級生の姫がいた、ってさ」
「クールビューティー……?王子?……ひ、姫?」
どこのおとぎ話か。
噂にも疎く、ちんぷんかんぷんなワードに、風華は更に首をかしげる。そんな風に言われる人物に、心当たりはない。というか、それを素で言われてる人物、恥ずかしすぎる。
「風華はそのままでいてね!」
「へ?あ、うん?」
ーーー紗雪ちゃん、アップルパイの生地、ぽろぽろ落ちてるよぅ。あぁ、机の上、うぅ。
「まぁ、説明しとくと、王子は晴久先輩のこと」
「へぐ?!」
「それでわかると思うけど、要は姫は、アンタのことよね」
「えぇ?!」
ーーーなにそれ?!
ぽっかーんとアホ面をさらす風華に、紗雪は「あぁもう、可愛い」と幼馴染み馬鹿を発揮する。
「さっきの休み時間、アンタ、晴久先輩のところ行ったでしょ?それで、あんな噂が出てるのよ。晴久先輩、有名人だからねぇ」
ーーー姫?が?わ、私?!
さぁぁと血の気が引く。自分はただ、与えられたミッションを遂行しただけで、目をつけられることなんて望んでいない。まっぴらごめんだ。
「まぁ、大方、晴久先輩がいつもの如く、風華を構ったんでしょう。アンタの名前までは出てなかったし、校内でしばらく接触しなければ大丈夫じゃない?」
「あ……う、ん」
かたかたと震えだす指先が、色を失う。
紗雪は小さくため息をつくと、手を伸ばし、落ち着けるように、2、3度、風華の手の甲を叩いた。
「……タイミングが悪かったね。ごめん。お弁当の残り、食べられそう?」
「や、やめとく」
「そう。……でも、そのおにぎりだけ、食べちゃおうか」
「う、ん」
もぐもぐとおにぎりを口に詰め込み、風華はゆっくりとお弁当を片付けた。紗雪はそれを苦い気持ちで見つめ、振り払うように明るい声で話題を変えた。晴久のことと、噂の件は、宏和にでも釘をさしておこう、と決めながら。
放課後。紗雪は部活へ、風華は委員会の当番のため図書室へと別れた。昼休みよりはだいぶよくなった顔色に、紗雪は小さく息をこぼし、風華を案じる。先に帰って休むのもいいのだけど、ひとりで帰すのも心配だったため、当番が終わっても教室で待っているよう告げた。
ーーー風華のママ、荒療治過ぎるよねぇ……。
びくびくするのがデフォルトみたいな風華を、3年の教室へ行かせるなんて、子やぎを狼の群れに放り投げるようなものだ。
「……わ、悪い。紗雪、その」
部室に入ると、宏和が残念なくらい申し訳ない顔をして、紗雪に頭を下げた。
「風華ちゃん、大丈夫だったか……?」
その言葉で、紗雪は宏和が今日の噂の件に関わっているのだと察した。
「……あら。白井先輩。いらしてたんですねぇ。もう引退してもよろしいんじゃないですか?受験生ですよね。勉強に専念しては?」
笑顔だが、怖い。部室にいるメンバー全員が心の中で思う。ご愁傷様。
「紗雪~」
「けっ。どうせヒロが考えなしに動いて目立ってってところでしょ?あの子が目立つの駄目なの、わかってるでしょうが!お馬鹿!」
「うっ……すまん」
「部長~、この申請書、記入漏れてますよー。これだと生徒会にまた突き返されちゃいます」
「あ、マジだ。河野、サンキュー」
「いえいえ」
紗雪と宏和が所属しているのは軽音部。バンドを組むメンツが大部分の中で、紗雪が担当しているのはもっぱら裏方だった。1年生ながら、事務作業のほとんどを理解し、諸雑務をこなす。学祭の申請、ステージの手配、練習場所の確保、課外活動ではライブハウスや他校との調整、そして金銭管理。紗雪が宏和の手伝いを中学のときからしているし、本人が「自分が作ったものを客観的に見れないなんてつまらん」との意見なので、ステージに立つメンバーからはマネージャーとして重宝がられている。
なので、部内では宏和よりも紗雪のほうが強い。
「さ、紗雪?噂のことなら、出来るだけのことはするから!」
「当たり前でしょ!馬鹿なの?」
「うっ……」
「ともかく!あの子に害がないってわかるまでは」
「までは?」
「ヒロの家行かないから」
「マジか!」
「大マジよ!お馬鹿!」
可愛い系でそこそこ人気のある宏和だが、本人の気持ちは紗雪にだけ向けられており、ここ10年ほど、それは変わっていない。
「お前ら、独り身も多いんだからな!部室でいちゃつくなよ!」
「いちゃついてません!罵ってるんです!」
「……そ、そうか」
「はい」
紗雪は大真面目で返した。長い長い片想いが実って、宏和は紗雪に彼女になってもらえたし、付き合ってすぐに最後までいたしてしまったけれど、立場はいつまで経っても変わらない。
紗雪が絶対。これ絶対。
きたる学祭の準備を進め、一段落ついたところで紗雪は「お先に失礼します」と部室を出た。教室で風華が待っているはずである。
が。
「紗雪」
「うっさい。馬鹿」
「ちょっ、ほんとごめんて。そんなに風華ちゃんやばいの?」
「……たぶん、このまま沈静化すれば、大丈夫だと思う。でも油断出来ない。風華はちょっとしたことでまた殻にこもっちゃうから」
ーーー本当は悔しい。
ーーーでも、風華をあの頃のようにしたくない。
ぽんぽん、と足を止めた紗雪の頭に宏和が触れる。変なところで年上の優しさを見せる宏和に、悪態をつきたくなる。暴走気味な紗雪を、情けない声と優しい手で止めるのが、宏和の常だった。
「とにかく!ヒロは3年生側止めて。風華にはなるべく私が一緒にいるようにするから」
「りょーかい」
と、一段落したかと思ったのだが。
ーーー風華が、いない。
教室はもぬけの殻、図書室は閉まってる。スマホに連絡もない。
ーーーなんで?!どうして?!
急いで風華のスマホに電話をかけるが、コール音が流れ続けるだけで、出ない。
ーーー鞄はない。帰った?でも……
風華は連絡もせずに、勝手に帰るような子ではない。
「紗雪?」
「あ……」
ーーー探さないと。
宏和の心配そうな顔を横目に、紗雪は下駄箱へ駆け出した。
ヒーロー出てこず……。
一応、晴久と風華と宏和と紗雪が幼馴染みです。