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顔は合わせてませんが出会いです。

見切り発車です。

あらすじ詐欺にならないよう頑張ります。

どうして、という疑問はたくさん浮かんでくる。でもそれは、音になることがない。そんなこと気にする必要がないと、先輩は私を黙らせてしまう。



少しだけ困ったように笑いながら。



ーーーその唇で。








高山風華たかやまふうかは覚悟が決まらずにいた。

目の前のドアは、普段自分が開けているものと変わらない。ただそれが、自分の教室のものではなく、2学年上の3年生の教室であるから、彼女は躊躇っていた。



ーーースマホ持ってくればよかった。いや、先に連絡を入れて、廊下で待っていてもらうよう伝えればよかった。



左手で握り締めたお弁当を、渡さなくてはならない。昼休み前の休み時間は、今が最後。移動教室などで、このタイミングになってしまった。



ーーーお腹痛くなりそう……。



ただでさえ、3年に知り合いは少ない。知らない人に話しかけるのは怖い。大きな声も出せっこない。



ーーーなんで両方とも閉まってるの……。



その結果、前と後ろのドアの間をうろうろ。不審極まりない。じろじろと3年生に見られている気がする。風華はただそこにいるだけで、体力が奪われていくような気さえした。





「で、いつになったら風華ちゃんはドアを開けるのかなー?」

「へぐ?」


「あー、はいはい。びっくりしない。驚かない。ね?」

「ーーーヒロ、くん?」



後ろのドアに手をかけ、少し屈み気味に風華を見下ろしていたのはこざっぱりした髪の白井宏和しらいひろかずだった。



「あ、や、えっと。じゃなくて、し、白井先輩」

「うんうん。風華ちゃんに先輩って呼ばれるのもいいけど、別にいつも通りでいいよ」



優しい顔に、ほっと一息つくと、風華は控えめな笑顔を浮かべた。

宏和は臆病な子猫がなつき始めたような感じがして、ぐりぐりと撫でまわしたいのを、グッとこらえる。

ーーーそんなことをしたら、怖い怖い思いをする。



「なぁに?晴久はるひさに用事?」

「そ、そう、です」



消して宏和が怖いわけではないのだが、すらすらと言葉が出てこず、風華は自分が嫌になって俯く。端から見ると、下級生に告白されている図に見えなくもない。

ーーー風華ちゃんは、もうちょっと自信持てるといいんだけどなぁ。

すれ違う友達からのからかいの視線をスルーしつつ、宏和は仕方ないなぁ、というように「ちょっと待っててね」と風華に声をかける。






「はーるー、いるー?」

大きな声を出しながら、宏和は風華がうんうん唸って出来なかったことをあっさりしてのけた。

ーーー迷惑を、かけてしまった。

申し訳なくて、俯いたままの風華を、宏和はちょっと可哀想に思った。自信が持てないのは、なんというか、全部が全部、風華のせいというわけではない。

「ーーーうるせぇよ。ヒロ……風華?」

「相変わらず口が悪いねぇ。まずは俺にお礼じゃない?」

「はぁ?」

「あ、あのっ!し、白井先輩、あ、ありがとうっ、ございましたっ!」

「うわー、待った待った。風華ちゃんじゃなくって」

風華が勢いよく頭を下げると、宏和はマジ勘弁といったように手を振る。

「ーーーてめぇ、何風華に頭下げさせてんだよ」

「うわー、やっぱこうなったー」

宏和も背は低いわけではないが、バスケ部で180を超える晴久からすれば、劣る。宏和は晴久からアイアンクローを受けながら、「俺悪くないギブギブ!」と叫んだ。

周りは慣れているのか、またやってるよアイツら、という視線を向けるだけで、誰も止めない。



「で、どうした?風華」

ぜーはー息をはいている宏和を無視し、晴久は風華の方を向いた。多少待たせたことを気にしているのか、少しだけ、申し訳なさそうに見える。

「あのっ、これっ。お弁当」

風華が差し出した包みを見て、「……あ」と晴久は小さく声を漏らした。

「あの、その、ね、お昼買っちゃってるかもしれないけど、例え買ってても、男子高校生の胃袋はそんなんでいっぱいにならないって」

「風華」

「へぐっ」



「……ありがとう」



そう言って、晴久は破顔した。それはもう、さっきまで宏和をしめていたときとは大違いだった。

そのまま、風華を腕の中に引き寄せ、頭を撫でる。ようやく風華は安心して、ほっと息を吐いた。よほど緊張していたのだろう、体の緊張がほどけていくのがわかった。



男らしいというよりも、綺麗。

少し長めの黒髪に、ノンフレームの眼鏡。180超えの身長に、バランスのいい体躯。ぱっと見て、晴久はクールビューティーな孤高の王子様。しかし口を開けばキツい口調で、モテるのに気軽に声をかけられない。「それがいいんじゃないのー」と幼馴染みの紗雪さゆきは言っていたが、風華にはよくわからない。

だって晴久は、風華のことをとても大事にしてくれて、守ってくれる存在で、怖いと思ったことなどないのだから。




「あー!はるが後輩にお弁当もらってるー!」


後ろから聞こえた声に、風華の体が強ばる。だが、晴久が頭を撫でてくれるので、怖さは和らいだ。

宏和とは違う声。ーーー知らない、人。



「えーなになに?はるってば、俺を差し置いて年下の彼女とかいたの?初耳なんですけど!」

「ちっ。うるせぇよ、そら。ちったぁ静かにしろ」

「えー?俺、浮気は怒るよ?」

「だ、れ、が、浮気だ!ヒロも笑ってんじゃねぇよ」




ーーーカオス!怖っ!怖いよ!




晴久に抱きしめられながら、頭上で言葉が飛び交う。



ーーーどうしよう……?



やるべきことは果たした。ならばもう、ここにはもう用はない。目立つことは、風華にとって恐怖でしかない。なので、この状態から即刻解放されたい。



ーーーそういえば、次の授業……?!



「はうわっ!」

「ってぇっ」

「ご、ごめんなさいっ。授業があるから、もう行くね!」



思いっきり頭を上げて、晴久の腕の中から逃げるようにダッシュする。廊下を走ってはいけないし、後ろから「走るな!コケるぞ!」と晴久の声もしたけれど、止まる気はなかった。



ーーー後頭部になんか固いものあたった?い、痛いっ。



後頭部を擦りながら、風華はミッションを終えることができ、安堵の息を吐いた。

晴久の顎が、しばらく赤いままだったのを、風華は知らない。




顔合わせてません。

宏和はヒーローではないです。(今回ヒーローっぽいですが……)

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