第一話 海の中の世界
Side ルイン
僕ら人魚を初め、様々な海の生き物は皆音楽が大好きなんだ
そんな僕等の耳を楽しませてくれるのがウミガメのカロンが率いる音楽団<セイレーンの調>
カロンが選んだメンバー達は皆素晴らしい音楽の才能を持っているけれど、僕の大切な女の子は他のどんな人魚にも負けない歌声を持っている
歌うために生まれてきた種族なんて他種族は僕等を呼ぶけれど、彼女……セイレーンの調の歌姫と呼ばれるミュファこそそう呼ばれるべき存在だろうね
今も皆がミュファの伸びやかで透き通るように美しい歌声にただただ聞き惚れてる
勿論僕も……
それに彼女の魅力は歌声だけじゃないんだ!光を受ける度に煌めく銀色の長い髪、魅惑的な紫の瞳……真珠のように眩しい白い肌、思わず抱きしめたくなる可憐な身体、桜貝のように淡く色付いた唇
彼女の瞳の色と同じ紫色の鱗が輝く綺麗な尾ヒレ……何から何までミュファを形作るもの全てが美しい
初めて彼女と会った日のことは今でも色濃く覚えているけれど、あの時僕は彼女が僕の為に訪れた女神だと思ってしまった
実際はミュファは僕の父上が信頼を寄せる臣下の娘で、同い年の友人がいなかった僕のために遊び相手にと王宮に連れて来られたんだけどね
でもその時にはもう僕は心に決めていたんだ
ミュファを僕のお嫁さんにするって
それからはとにかく彼女を独占するために何処へ行くのにもミュファを連れていったし、彼女に他の男を近寄らせないように子供ながらに色々考えていた
それは成長した今でも変わらないんだけど……ね
もし、カロンの楽団員が女の子ばかりなら観客として彼女の歌声を聞いていただろうけれど、残念なことにカロンの楽団員には男も居るし、歌には男女ペアになって歌うデュエット曲も多くあるんだ
ミュファが僕以外とデュエットするなんて考えただけでも不愉快で堪らないし、我慢ならない
だからミュファがカロンの楽団に入ることになったと聞いたときに僕も勿論入団テストを受けて、今じゃ彼女のパートナーとして男性ソロを任されている
カロンは完璧な実力主義者だからね……身分が高くたって良いポジションにつけてくれるなんて事は無い
それに、生半可な能力じゃミュファと合わせたら悲惨だからね
彼女とのペアを勝ち取る為に厳しいレッスンにも耐えたんだ
全ては僕のミュファへの愛の力が成させたと思っているよ
こうして僕とミュファの歌声が絡み合い美しいハーモニーが生まれる事に僕の心、身体が温かな幸福感で満たされていく
ミュファも僕と同じように感じてくれていたら嬉しいな
僕のミュファへの愛が少しでも伝わるようにと今日も歌に僕の想いを込めて歌う
………僕の可愛い幼なじみは少しばかり鈍感さんだからね