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7話:本日何度目かの気絶

6000字を目指していたら8500字になってしまっていた。

   1:本日何度目かの気絶



「なんだ、聞いたより元気そうじゃねーか」

 ガラララッと木製ドアが開き、鮮やかな赤い髪を纏う少年がこの白い部屋に入ってくる。

 全く今度は一体誰ですか何者ですか情報量多過ぎて俺氏の脳ミソさんが過労死寸前な状態で更に情報を詰め込もうと登場してきたアナタの名前は何ですか……ッ!

「にしてもすげぇ声だったな。何かあったか?」

 とかそんな事を言うお前はまず何者だよ。

「初登場シーンのクセして自己紹介も無しに質問ぶつけてきますか……」

「おっとそりゃ失礼だったな。俺の名前はフィルン・アルメーデン。海翔と晴香のクラスメイトだ。大まかな話は二人から聞いたぜ? 何でも、天界式の魔法陣なんて大層なモノ扱えるらしいじゃねぇか。お前何者だ? 何処から来た? この辺に他の学校なんて無いし、と言うか黒髪が一人こんなとこで何してたんだよ」

「お前……自己紹介したからって何の躊躇も無く質問するのもどうかと思うぞ? 初対面の相手くらいには紳士的に振る舞っとくのが男だろ」

 ……話が追いつかねぇ。態度に気を付けろとか口では言ったけど、本当は理解が追いつかないからそれを口実に話を切っただけだ。天界式の魔法陣? 黒髪が何してた? まるで意味が分からんぞ!

「紳士的……? あぁ、よく間違われるけど俺はこれでもか弱い女の子だぜ? スカート穿いてるだろ?」

 と、赤髪の、実は女だったフィルン・アルメーデンに言われてようやく服装に意識を向ける。白の生地の制服、スカート、そして赤いネクタイ(・・・・)

「ネクタイ……?」

 認識の違いに思わず首を傾げる。

「女子はスカーフじゃなかったのか……?」

 俺の独り言にフィルンが反応し、答えを返す。

「男子も女子もネクタイだぜ? と言うかスカーフ着けてるとこなんて珍しいな。黒髪の十分の三倍くらい珍しい」

 何だその分かりづらい表現は。そもそも──

「──黒髪って珍しいのか?」

「はぁ!?」

 俺がそう言った瞬間。まるで氷河期でも訪れたかのように凍りつくフィルン。

「……もしもし賢者サマ? 一体全体どういう事で御座いましょう? 全く理解出来ません……って、あれ?」

 三百六十度見渡しても知恵の姿が何処にも無い。いつの間にやらフラフラと何処かへ行ってしまったらしい。キレそう。

(あのガキどこ行きやがった……ッ!)

 戻ってきたらどうしてやろうか考えていると。


 ガラガラガラッ……


「何やら物騒な考え事してるみたいだけど、多分その知恵ちゃんって君の直ぐ後ろにいると思うよ?」

 耳にまだ新しめに残っている晴香の声がそう訴える。

「え? 後ろって言われても何も見えないけど……腕でも振ってみるか」


 ブンッ!


 と、俺の腕が虚空を切り、数秒経つと回避姿勢の知恵が薄らと空気に映し出されてきた。

「うお!? 誰か出てきた!?」

 驚くフィルンをよそに、俺は半透明の賢者に聞く。

「何してんだお前……?」

 この状況を前に、そう問わざるを得なかった。本当に何してんだお前?

「ここにいると教えてもらった上で殴ろうとするような思考は一体何処から生まれてくるのじゃ!?」

「俺の過労脳ミソから。で、何やってんだよ」

 動揺と焦りと怒りを足して三で割ったような知恵の質問にサクッと答え、再び質問する。

「お主が此処にいるのはおかしい事ではないが、儂がいるのはおかしいじゃろう?」

「まぁそうだな。それで隠れたのか? 一瞬で見破られた訳だが」

 ねぇ今どんな気持ち? 普通の人間に見破られてどんな気持ち? と、カメレオン賢者を煽ってやろうと思ったがさっきみたく拗ねられると面倒なので止めた。

「……言っておくが暮那井は普通などではないぞ。アルメーデンだって充分に優秀な魔法使いじゃが、儂の透化を見破れていなかったじゃろう?」

 また心を読まれていたか。なんて、もう慣れてしまった。非常識に馴染んでしまった俺はもう、立派に常識人への一歩を踏み出してしまったということなのだろう。

 常識を護る事に諦めが付いたところで晴香が一言。

「ちょっと待って? どうして私達の名前を知っているの? もしかして以前に会った事ある?」

 との事だった。

「いいや、初対面じゃ。知る筈もなかろう」

 晴香の質問に知恵はそう返した。

「何だよ普通に名前呼ぶから面識あるのかと思ったぞ。どういう事なんだ知恵」

「そうだぞ。さり気なく俺の名前まで知ってる訳だし」

 俺のセリフに続いてフィルンも主張する。

 そして、そんなこんなで知恵が口を開く。

「名前を何故知っているか……か。普通に答えを明かしてもつまらんじゃろうし、当ててみるといい。たった一つの、それだけで全てに説明を付ける事ができる理由を」

 ……うーわ。見ろよあの顔。当てさせる気なんて毛頭無さそうだ。

 すると。

「たった一つの理由……?」

 と、単純とも言える純粋さを発揮する晴香。その純度は初めて言葉を交えた者でも容易に理解できる程のモノだ。

 そこへ透かさず言葉を挟む。

「おい、お前の回りくどい手法のせいで純粋な少女が一つ損をしたぞ。詫びろ。」

「損とは何じゃ損とは! まるで儂と言葉を交える事が損失を招くかのような言い草じゃの!」

 俺の命令に抗議する知恵。だが無駄だ。

「お前の下らない遊び事に純心が弄ばれたんだ。詫びも無く済ませられる訳が無いだろ」

 そんな俺の言葉に知恵は、あらゆる負の感情が入り混じったように固まり、むーっと、瞳は潤いを増す。

 それを見兼ねたのかフィルンは。

「なぁ、そこまでにしてやれよ。確かにこの可愛い可愛い晴香を無意味に戸惑わせたのは死罪に価するが、それにしたってやり過ぎだ……それにコイツもすげぇ可愛いし……」

 と、何処か少し常軌から逸れたような発言をする。

「えっ」

 戸惑った……と言うよりも引いた。素でそんな声が出てしまった。晴香愛強過ぎね? あと最後のボソッと言ったの聞こえたぞ。

 俺の困惑の感動詞に対し。

「うん? どうした?」

 とかフィルンは首を傾げる。

 つまり本人は特に意識せずに口走ってる訳か……もしこれが日常茶飯事なら晴香も大変だろうな。

「そうなんだよ! いつもフィルンはこんな恥ずかしい事何回も言うんだもん! しかも皆いるところで!」

 と、少し赤面しながら晴香が答えてくれた。

「そうか、これがデフォルトなのか……苦労するだろうけど頑張れ。ところで、さっきの声に出てました?」

 俺の意識が正しかったのなら、頭の中でそう思っただけの筈だ。しかしこの少女は思考を読むように────

「うん。“思考解読(リーダー)”って言って、人の心が読める力なんだ」

 って、お前もかーい! なんて、反射的にそう思った。

「そうだぞ。晴香の前で変な事考えるなよ」

 フィルンが便乗のような何かをして言う。けれど。

「フィルンが言えた事じゃないでしょ?」

 晴香に突っ込まれる。コイツ本当にいつもこの調子なんだな。

「──で、何の話してたんだっけ?」

 脱線したまま走り続けてしまった。自力ではもう元の路線へ戻れない。助けて。

「えぇと……あれ、何だっけ? 忘れちゃった」

 晴香がそう言う。「忘れちゃった」をはにかみながら、最後に☆を付ければ完璧だったのだが、多分フィルンくらいの末期患者なら即死だった。危ない危ない。

「何故2人の事を知っているか、じゃ。もう答えてしまって構わんのじゃろう?」

 おお、そういえばそうだった。

 たった一つで説明できる理由。それは一体なんなのか。

「簡単な話じゃ。能力を使っただけの事」

 まぁ確かにたった一つだ。だが、理解ができないんじゃ説明したとは言えないって知ってたか?

 そこへ晴香が疑問を提示する。

「その能力って、具体的にどんなモノなの?」

 晴香さんと同じ意見です。フィルンも表情を読み取るに同意見っぽい。

「うむ……直ぐに納得されるような能力ではなくての……と言うよりかは、存在を認められないと言った方が正しいじゃろうな」

 知恵のその言葉に晴香とフィルンは。

「存在を……」

「認められない……?」

 と、台詞を分ける。何故分かれたしなんて言ってはいけない。

「まぁ、言うだけ言ってみろよ。試さない事には始まらないぜ?」

 フィルンは内容によっては認めそうだ。が、二人の事を一方的に知っていた知恵が性格まで知らない筈がない。フィルンの性格を分かった上で存在の否定を確信しているという事だろう。どんなレベルのチート能力だよ……

「力の名は“全知”。その名の通り、森羅万象を知り尽くす力じゃ。この力を際限無く使い込めば、あらゆる存在、事象を支配し尽くせるじゃろう」

「──────」

 絶句。この場にいる知恵を除いた全員が凍結する。

「……誰か何か言ったらどうじゃ」

「本当にチートじゃないですかやだー」

 お望み通り何か言ってやったぞ。

「この馬鹿はチートだと言うが、暮那井とアルメーデンは信じるかの?」

 知恵のその言い方だと馬鹿は信じたって事になるのか? まぁバランス崩壊レベルのチートとして俺は認めたが。

「……本当に何でも分かるの?」

 ふと、晴香がそう言う。

 これはアレだな。誰も知り得ない事を訊いて確かめるテンプレ的な流れだ。

「うむ。概念という概念は全てこの力によって認知される。なんでも訊いてくれて良いぞ」

 ん? 今なんでもって────いっ!?

「お主は暫く何も考えるな」

 ぶったな……と思ったが、それ以上考えれば二度もぶたれそうだったので辞めた。

「あのね、えぇと……」

 晴香さーん、顔赤くなってますよー。って伝えたいんだけど、あの調子じゃ駄目だ。能力使うことも忘れてますね。

 フィルンに目を移してみれば──おーい、鼻血出てんぞー。

「何じゃ? ほら、はっきりと」

 テメェこの悪魔! 晴香頑張ってんだろ急かすな!

 だが、天使(のような可愛さ)の晴香に悪魔の言葉は届いていない。何故なら緊張しきっているから。

 やがて天使は言葉を紡ぎ始める──

「ぇと……海翔の好きな人は誰かなぁ……なんて……」

 なんだこの可愛い生き物は。見ろよフィルンが自分の血溜まりにぶっ倒れてんぞ。

「あぁぅ……やっぱり全部忘れてぇ……!」

 顔を手で覆って蹲ってしまった。今の内に遺書を書いとくか……え? お前の家族この世界にいないのに誰に宛てるのか、だって? おまわりさん、もしくは憲兵さんに決まってるだろ。殺人だと思われると面倒だろうし「萌え死にました」って伝えるんだよ。

「そうか古都葉の想い人じゃな。少し待っておれ。場所の分からない者に対してこの力を使うには集中しないといけなくての。さらに言うと、使えばそれなりに疲れるという不要な付属品が付いて来る」

「お前にはデリバリーってもんがねーのかよ」

「それを言うならデリカシーじゃろう」

 コレガヤリタカッタダケー。でも、実際にコイツデリカシー無さ過ぎ。だが、晴香の恥ずかしがってるところをもっと見せてくれそうだ。グッジョブ!

 そんな事を考えている内に、知恵の万能過ぎる脳内インターネットエクスプローラーでの検索が終わったらしい。一瞬だったな。

「結論から言おう。海翔の想い人は非存在。じゃが、一番強く感情を抱いているのは暮那井じゃ。家族も同然に想っておるようじゃの」

 との事だった。人の思考をリアルタイムで覗けるって怖いな。って、まさかそれが読心術の原理……?

「大当たり。近くの人間、それこそ視界の中なら最早ノーリスクも同然じゃ」

「おぉう、すげぇ能力だな。だが少しくらい自重したらどうだ?」

 正直、心を読まれるっていうのは恐怖を憶える。極力控えて欲しい。

「まぁそうじゃの。使い過ぎても面白くないし、古都葉と接触したらこの力は封じる事とするかの」

 と、ここで気付く。あれ、海翔どうしたんだ? と。

「なぁ晴香、海翔は──うお!?」

 話し掛けようとした先には眩し過ぎて直視できない程の笑顔が!

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺は天使に話し掛けたと思ったら女神に話し掛けていた……

「え? あ、何? ごめんね、聞いてなかった」

 この娘の為なら死ねる……そう思った。

 そうかぁ……海翔の中の一番だったのがそんなに嬉しいかぁ……

「どうかした? なんかニヤニヤしてるよ?」

「いいや何でも。海翔はどうしたんだって思って訊いたんだ」

 テンションが上がった今も心を読み忘れている様子。かと言って油断はできないが。

「あぁ海翔ね。海翔は中庭に湧いて出た魔物の退治してる筈なんだけど……なんだか遅いね」

 もしかしてこれってハプニングに巻き込まれてるフラグ……?

「まぁあの魔物素早そうだったしな。海翔は座標転移(シフト)あんまり得意じゃないし時間掛かっても仕方ねぇよ」

 お前いつの間に復活しやがった!? さり気なく会話に参加してくんなビビるだろうが! 制服も純白を保ってるし一体どういう事だ……?

「きっと今頃少し本気出して倒してるだろ」

 蘇生したフィルンはそう言うが、どうも俺にはその台詞をフラグとしか捉えられない。

「……お前ら何で海翔と一緒に退治しなかったんだ? 三人でやれば直ぐ終わるんじゃないのか?」

 俺なんかのところに来るより友達の手伝いをしてやれよ。

「いやぁ私達もそう言ったんだけどさ、『訓練終わったら彼のところに行く約束したでしょ』なんて言って一人で飛んでっちゃったんだ」

 何て言うか、律儀。凄い良い子だと思いました。

「それじゃあ自己紹介もお預けって事だな。名前を認知してもらえないってのは若干辛いが」

 海翔がまともに会話できる時に俺の事を訊くっていう言っていた事を思い出す。

「何でお預け?」

 フィルンはその事を知らないので晴香から補足説明を受ける。

「あぁ、そういう事? 面倒臭い事するなぁ」

 至極真っ当な感想だな。俺だってそう思うわ。

「ところで知恵」

 ふと思い出して訊ねる。

「何じゃ」

 気怠そうに返事をする知恵の態度は微塵も気にせず、普通に質問。

「お前の透化が見破られた時に晴香は普通じゃないとか言ってたけど、それってフィルンが黒髪がどーのこーのって言ってたのと関係あるの?」

 この世界についてやはり分からない事が多い。黒髪が特別視されるなら俺も危ういという事に繋がる。また情報を詰め込まねばなるまい。

「そういえばそんな事も言ったの。そうじゃ、普通ではない。特殊じゃ。晴香に限らず海翔もそうじゃ。そして、もちろんお主もな」

 知恵の回答。やはり黒髪には何かしらの面倒事が絡んでいるらしい。

「俺が特殊……ねぇ……」

 そんな俺の独り言にフィルンが反応し。

「何か言いた気だな?」

 まぁ、言いたい事はあるわな。

「……何をやっても平均の若干上と若干下の間を右往左往し続けてきた取り柄も特徴も特に無い俺が特殊だとか。最高に面白い冗談だ」

 こういうのを自虐とか言うのだろうか。それとも俺より下位の奴等に対する皮肉? どんな価値観を持っているにしても、あまり良くない思想だと一般論は否定するんだろうな。

 そんな俺に知恵は。

「そうか……それでは──」


「──何故、南川(なみかわ)(かえで)はお主を好いたんじゃろうな?」


「……は?」

 何を言い出すんだコイツは。楓は俺の事が好きだった? 冗談が過ぎるな。

 と、これも冗談だろうと処理しかけたところで知恵はまた意味の深そうな事を言う。

「お主はトラックに轢き殺されかけたのは覚えているか?」

 何故そんな事を訊くのか。深意は分からないが取り敢えず答える。

「もちろん覚えてる。向こうの世界で最期に見た光景だしな。あのメタリックな銀色が嫌いになりそうだ」

 何処のトラックだったかは覚えてないが、あの銀色は忘れなかった。銀色のトラックって何処の会社のだ? 佐〇急便か?

 どうでもいい事を考えていると。

「とらっく?」

 会話を聞いていた晴香がそう言い、隣のフィルンの首は傾いている。

 魔法が主体のこの世界は科学の進歩が遅れているのか、それとも呼称が違うのか。

「あぁ、こっちの話だ。後で話してやるから待っててくれるか?」

 と、一旦話は切る。俺だって異世界に来た訳だし、この世界の常識ってモノを理解しないといけないからな。

「と言うか、さっきから何の話してんだよお前ら?」

 フィルンがそもそもの事を聞いてきた。そりゃあこんな話を第三者の視点で聞いてればそうなるわな。

「それも後でじゃ。大分長くて小難しい話になる。」

 今度は知恵が切る。とっとと説明をしたいらしい。

「それでじゃ。何か不思議に思う事は無いか?」

「お前の存在」

 質問を切り捨てる。嘘は言ってない。特に思考回路辺りは俺に到底理解できそうにないと思う。

「後で横隔膜を引き摺り出してやるとして、ヒントを一つ。転生の代償と、トラックじゃ」

 さり気なく殺人宣言しやがった賢者は憲兵さんのところに連れて行くとしよう。

 ……転生の代償とトラックねぇ……代償って何だったっけ? 確か確認とか言ってたな。

 一つ目は……大切な人の事は平気かってことだったな。そんで二つ目が────

「──代償として、二日分の記憶を消す……あ!?」

 ようやく主張が理解できた気がする。

「じゃあ何でトラックは覚えてんだ!? アレも一応二日の中に入るんだろ!?」

 質問なのか、それとも自問自答なのか。よく分からないテンションで口走る。

「ようやく分かったのか。おっそいのう……」

「大抵お前のせいだろうが」

 全くどの口が。それとも何? 自分のせいじゃないって意思表示なの? くたばれ。

「それで、その原因じゃが」

「何だよ強引だな」

「……まずはその声帯から抉るとするかの」

「スイマセンっした」

 女の子を前にして事あるごとに“おまいら”が言われ続けた「おまわりさんこいつです」が「おまわりさんこの子です」に分岐進化した瞬間である。

 どうやらこの賢者、早く話を進めたいが為に命をも刈り取るらしい。あんたもうやってる事が死神以上に理不尽だよ。

「それで原因じゃが、お主は孔に呑まれて最初に何を思ったかの?」

 やっと話が進みそうだから今度は黙っておく。茶番なんて要らねぇ。

「確か、ここは何処? で、その次にさっきまで何してたっけ? っていう典型。その後何だったかな……」

 覚えていることをできるだけ口に出す。すると知恵は。

「そこまで覚えているなら良い。その何をしていたかを思い出した事が原因なのじゃ」

「つまり?」

 早く答えをくれないとそろそろ過労で脳血管が切れる。さぁ早く答えを! 早く答えを教えろ俺が死ぬぞ!

「脳内まで喧しい奴じゃの……」

 またまた心を勝手に読みやがって。

「簡潔に言うぞ。孔で思い出した事で、その『思い出した記憶』が『孔での記憶』の一部としても扱われるようになったのじゃ」

「何処が簡潔なんだよ全然分かんねぇぞ」

 日本語じゃないと僕には理解できないです。

 すると知恵は溜め息を吐き。

「『思い出していた内容』を覚えているという事じゃ。解るかの?」

 何か呆れていると言うより、もう疲れたって顔してんな……って、俺のせいか。

「でもまぁ、あんまり解らないんですけど」

 そんな風に正直に言い切った。嘘を吐く理由なんて無いし、そもそもバレる。

 と、賢者はまたまた溜め息を吐く。今回のは幽体離脱でもしそうな程深かった。それだけ俺に手を焼いてるって事なのか?

 次の瞬間。

「……もう説明は無駄じゃの。先程と同じように勝手に進めさせてもらうぞ」

 と、死神サマが宣言する。

「お前ホントに人徳ってもんが無いな! 賢者とか絶対嘘だろ!」

 某RPGで最強レベルの力を振るう上級職である賢者。その敬意を表すべき存在がこんな悪魔と比較するような性格だ。誰か代わってくれ。

「さて、実行といくかの」

 その知恵の言葉を理解した時には、既に小さい手が俺の頭を取り囲んでいた。

「代償になった記憶は完全に消滅しておっての。そっくりなモノを儂が創って擬似的な回復を試みる」

 その言葉を理解できるかと言えば、できない事は無い。けど、記憶の創造って賢者だからってできるもんなの? コイツホントは神様なんじゃねーの?

「さっきから死神だの悪魔だの神様だの……儂はただの賢者であって、そんな崇高な存在ではない。そんな事より、とっととやらせて貰うぞ」

「まぁさっきもやられてるしな。実際痛くなかったから何時でも来てい──」

記憶構築コンストラクト・メモリア

 知恵の手から放たれた光が俺の視界を埋める。

 コイツ……ハナっからお構い無く始めるつもりだったか……!

 ──次の瞬間。

「ぐあぁあぁぁあぁッ!?」

 脳を素手で掻き回されるかのような激痛が頭を、否、脳を襲う。

「思い出せない程に古い無意味な記憶を材料に再構築、と言うよりも、脳の変形と捉えてくれて構わん。まぁ痛いじゃろうな」

 後ろのベッドに力を亡くした体が倒れ込む。

 騙したのか……?

「無用心なお主が悪い」

 意識がどんどん朦朧になっていく。

 人の皮を被った悪魔め……

「それでは、暫くしたらまた起こす」

 そんな知恵の遠い台詞を最後に、意識がまた途絶えた。


 姿を眩ませ続けた、どうも◼◼です。

 今まで特に何の設定も無く文章を綴り続けてきたわけですが、ようやく裏方の設定に手を付けました。結果、過去やら別世界やら思い違いやら……なんか複雑になった。異世界日常しようと思っていたのにハイファンタジーになったよ。タイトル詐欺回避……?

そんなこんなで、ご閲覧ありがとうございます。これからも「僕は運命に逆らう為に魔法を駆使する。」をよろしくお願いします。

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