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6話:白々しい純白の賢者

一週間に一本とか言ってる時期が私にもありました。

   1:白々しい純白の賢者



「ん? 目が覚めてたみたいじゃの」

 がらがらっと扉の音を鳴らし、見知らぬ白髪の少女がそう言った。

 真っ白なこの部屋と、それと同化するような真っ白の髪を持った少女は、俺の状況を把握しているかのような口振りだった。

 まぁ把握してるかなんて知らないけど。なんとなく怪しい気がしただけだけど。

 俺自身すら呑み込めないこの状況を知っている人間がいるとしたら、そいつは多分、事の元凶だろう。

 ────だが。

 少女が何者だろうと、少女が元凶だろうと、今の俺にとってはもはやどうでもいい事。知った事じゃない。

 何故かと説明するのなら、俺がそれ以上に、異常な感覚に困惑しているからだ。

 訳が分からない。この感覚の理由を推測で答えるなら、“『壊れた』から『ぶち壊れた』にクラスアップした”としか考えられない。

 何をそこまで動揺しているのか気になるだろうか?

 なら、これを言葉に表す努力をしよう。


 俺が困惑している理由は、その白髪の少女を初めて見る俺が、『少女を見た事がある』と、たったそれだけの、尚且つ絶対的な記憶を持っているからである。


 訳が分からない。分からないだろ? 初めて見るモノに、『絶対に見た』とだけを覚えているなんて訳が分からない。

 だが、これほどの感覚なら俺自身忘れる事もおかしいだろう。実は覚えているけれど目を逸らしているのかもしれない……

 そうだ、きっと知っている。俺はこの少女を知っている。多分俺は知っている……

 ────それじゃあ自分に聞いてみようか?

 この子は誰で? 何処の子で? 何者なの? ねぇ俺、答えてよ。

 

 ……答えられる訳ねぇだろうがッ!

 何が「答えてよ」だ! バッカじゃねぇの!?

 頭を抱え、あらゆる言葉を駆使して自分を罵倒しまくった。


 静寂が流れる時間の中、突然に頭を抱え込み静止する異常者である俺はやがて口を開く。

「君は誰?」

 そうだ、そこからだ。まずは何者かを知っておくべきだ。

 記憶だとか既視感だとか、結局俺が壊れたって事実しか分からねぇって。

 しかし、少女は何者か答えてくれると思ったのだが、俺の質問に対してきょとん顔の少女は口を開かない。

 そんな表情の少女を前にして俺はこう思った。

(白髪……蒼眼……外国人? 日本語ダメか……?)

 と、直後。

「さっき会話が成立したような気がしたのは気のせいだったんじゃろうか?」

 心を見透したかのような言動を、呆れ果てた顔で少女は。

「まさか代償で失った上に、ショックでさらに失うとはの……」

 今度は仕方なさそうな顔をしてそう続けた。

「代償……? それって何の事……?」

 少女の話を読み取れない俺はさらに質問を増やす。

 すると少女は答える。

「記憶じゃよ」

「はい?」

 いや待て。記憶を代償に──って……厨二病患者ですかこの子?

 厨二のじゃ白髪ロリとかマジすか……属性多すぎんよ……

 俺は沈黙し、ちょっとした静かな時間が流れる。

「……取り敢えず、君は誰?」

 うん、やっぱりここからだよね。


 ──少し間が空き、少女は溜め息を吐く。

「説明するのも面倒じゃのう……」

 面倒と、少女は言う。しかし俺としては何が何で面倒なのかすら分からない。

 すると少女は俺に何やら言い始める。

「まずは、この魔力世界(マギアグランダ)に転生した時のショックによって喪失された記憶を戻す。記憶を司る脳の一部である海馬は基本的に記憶を失くさない。そこで、海馬から直接記憶を引き出す」

 少女はそんなことを言った。が、俺には到底理解できそうにない。

(なんか……大丈夫かこの子……?)

 俺は今の説明を聞いて、そんな感想しか浮かべられなかった。

「理解できないのも当然じゃが、話を進める為にとっととやらせてもらうぞ」

 そう言った少女は俺に近付き、両手を俺の頭にかざした。

「……なんか、本能と直感が嫌な感じで騒ぐんだけど……」

 要は「不安」だと主張した俺に対し。

「大丈夫じゃ。直ぐに終わる」

 テンプレートのような対応を見せる少女。

「それ絶対大丈夫じゃない奴じゃん!? 確実に絶叫するパターンじゃん!?」

「大ー丈ー夫ーじゃーって……痛くも苦しくもない……」

「怖い怖い! それってあれか! 感覚が伝わる前に──って奴か! そうだろそうなんだろ!?」

 しかし、いくら訴えたところで無駄なようで。

 少女は知った事じゃないとでも言うような態度で一言。

記憶蘇生(リカバリーメモリア)ーっと」

 少女がだるげにそう言った瞬間。

 俺の頭にかざした少女の両手が白い光を放つ。

 理解は及ばない。ただただ目の前が真っ白になっていく。

 表現をするなら、雪原で稀に起きるホワイトアウト現象が適切だろう。

 そして視界は一瞬で真っ暗に切り替わり、俺はバランスを崩して後頭部と背中に柔らかい衝撃を受ける。

 ゆっくりと目を開くとそこには、ベッドの上で仰向けになっている俺の顔を上から覗き込んでいる知恵がいた。

 そんな状況の中。

「思い……出した……」

 と、声が漏れる。

「そうか。それはなによりじゃの」

 と、幼い賢者がそれに反応する。

「あぁ……」

 と、俺は返事を返す。そして──


「覚悟しろよテメェェェェェェェッ!!」

「なんじゃっ!?」

 俺は知恵を殴りに掛かる。が、知恵は体を少しだけ動かしそれを避けた。

「何をするんじゃ!」

 唐突な攻撃の理由を問う知恵。

「ほう? 何も心当たりが無いと申すか」

 そうかそうか。ならば教えてやろう。

「俺はな……扉に突き落とされたあの時、次会った時には一発殴ると誓ったんだよッ!」

 そう言って俺はもう一度殴り掛かる。

「誓ったって誰にじゃ!?」

 またもや半身で拳を躱す知恵は問う。

「俺自身にだぁッ!!」

 すると知恵は溜め息を吐いて。

遮光空間(エリアインカーテニア)っ!!」

 瞬間、真っ白だった部屋が暗闇に消える。

 何が起きたか、孔での出来事を思い出した今の俺には理解ができた。

「魔法か!」

 すると何処からか声が聞こえる。

「そのとおり。少しおとなしくしてもらうぞ」

 何も見えない空間の中、いつ、何処から仕掛けてくるのかも分からない。

「ここまでか……」

 これはもう詰みだ。白旗白旗。

 俺が心の中でぱたぱたと白旗を振ると。

「これで終わりじゃ……」

 知恵が「とどめだ」と言わんばかりの台詞。

 一体……一体どんな魔法が……!?

 と、俺のそんな期待を裏切るように。

「喰らえ当て身っ!」

 ドスッ!

 うなじ辺りに鈍い衝撃が走る。そんな中。

(魔法の世界で当て身かよぉぉ……!)

 と、別の衝撃とのダブルパンチ。これはキツい。

 うなじと精神に響く衝撃を抱え、やがて意識は完全に途絶えた。


 ■■■


 ふと体を起こす。

 ……寝ていた。どれくらいかは分からないけれど。

 時計を見ると、元の世界では(・・・・・・)三時半であろう時刻を示す形をしている。

「ん、目が覚めたようじゃの」

 俺を寝かせた張本人がまるで他人事のように振る舞う。

「お前、俺が魔法覚えた時は覚悟しとけよ……?」

 魔法を覚えたら真っ先にこいつを泣かす。もう自分の心に誓った。絶対に遂行してやるよ。

 まぁ今はどうでもいい。今気になっている事は一つ。

「時計読めねぇんだけど」

 そう尋ねる俺に知恵は。

「なっ!? 時計の読み方さえも分からなくなってしまったと!?」

 と、驚きと哀れみを混ぜたような表情をして言う。

「ちげーよ。この世界の文字が読めねぇって意味だよ。理解した上でわざわざボケんな」

 なんとなく冗談だと察していた為、落ち着いたツッコミを入れる。

「……せっかくボケたんじゃからもっと強く突っ込んでくれてもいいじゃろうに……冷めた奴じゃ」

「今の俺にそんな余裕無ぇよ」

 残念そうにそんなくだらない事を言う知恵。

「で、質問に答えてくれませんかね?」

 逸れかけた話題を戻そうと質問に質問を重ねる。

 すると。

「──答えてやらん事は無い。が、答える前に此方からひとつ聞かせてもらう」

 知恵は思わせ振りにそう言う。

 ……何か普通じゃない感じになってきたな……めんどくせぇ……

 まぁ、異世界転生なんて普通じゃない出来事を現在進行形で体験している俺にとってはなんて事は無い訳なのだけれど。

 どうでもいいような事を考えていると、ようやく知恵は口を開き、その質問を言葉に表した。


「いつから時計が読めなくなった?」


 ──と。

 いつから時計を読む事ができなくなったのかと、コイツはそう言った。

「……いやだから読めてるって。ボケはもういいだろ。っつーか賢い者がボケたんじゃどうしようもねぇなコレ」

 その質問にはこう返してやった。どうやら俺はコイツが嫌いならしい。無意識に煽ってしまっている。

 しかしそんな挑発にも乗らずに。

「文字がって意味じゃろうが。さっき自分でも言ってた事じゃが覚えとらんかの? それと、賢者だからと誰もが生真面目な訳ではないぞ」

 良く言えば冷静? 悪く言えば無愛想に反応する知恵。

「てめぇ……人に強く突っ込めとか言う癖に自分はしねぇのかよ……」

 多分それが無意識に煽った目的だと思ったのだが、さっきの知恵の台詞に「ブーメラン乙」と返してやりたくなっただけだった。タイムマシンはどこです?

「で? いつから読めなくなったんじゃ?」

 知恵が話の路線を元の形にねじ曲げる。

「そりゃあ初めから──────」

 そこまで言って言葉が切れる。

 文字が読めなくなるなんて普通有り得ないし、そもそも異世界文字なんて最初から読める訳が無い。「初めから読めていなかった」と言うのが常識的に考えて一番自然だ。

 しかし、俺はあの時──晴香と話をしていたあの時。確かに時計を読めていたし、違和感なんて微塵も感じていなかった。

「……どういう事だよ」

 理解が追い付かない。

 文字が読めなくなるという事が、異世界文字を読めていたという事が、有り得ないと思っていた事が、既に自分の脳ミソは知らずの内に刻み付けられていた。

 理解は理由を棄て、論理は意味を失くした。最早俺に術は無い。

「──考え事は済んだかの?」

「この状況で結論を導き出せるような狂人がいるとも思えないけどな」

 考え事? 済む訳ねーだろ。

「そ・れ・で、いつから読めなくなったんじゃ? いい加減堪えるから答えてもらいたいんじゃがー?」

 とにかく怠そうにそう言う賢者。

 あーはいはい、今答えますよーっと。

「えぇと? 文字がいつ読めなくなったかって質問だよな?」

「そうじゃ」

 うむ、質問文の確認完了。

 いつ読めなくなったか……か。晴香と海翔の時までは読めてたよな……あの時は確か4時くらいに終わるから──みたいな会話を交わしたはずだ。

(それじゃあ、コイツが来た後は……?

 どうだった? と、そこまで考えるよりも先に。

「あー…………」

 ──一つの答えが導き出された。


「……お前のせいじゃねーの?」


 そう俺がそう言うと。

「大・正・解!」

 めでたそうに嬉しそうにそう言った知恵に。

「……なんで質問なんてしたんですかねぇー……?」

 胸に爆発しそうな感覚を覚え、ついでに何故か細かく震える声。

「この前技術世界(スキアグランダ)の現状を知るために遊びに……調査に行ったらいろんな本があっての。異世界に迷い混むような物語では不思議な事象の連続で主人公を混乱させて馴染ませる──みたいな事をしてたんじゃが……違ったかの?」

 その発想はなかったと感じるよりも先に。

現実(リアル)物語(フィクション)を一緒にしてんじゃねぇよ!? バカか!? それともアホなのか!?」

 と、俺から賢者へ叱責のような何かが飛んだ。

「むぅ……そんな言い方無いじゃろうに……」

 見るからに落ち込んだ様子の豆腐メンタルロリ賢者。何だこの罪悪感……俺が悪いの?

 何故か罪悪感に駆られる俺。心が凄くモヤモヤします。

「えー、で、結局お前は俺に何をしたんだ?」

 罪悪感に耐え切れそうにないから強引に話を元に戻そうとするが。

「……ふん」

 と、そっぽを向くテンプレ的行動を見せつけてくる賢者。テンプレなだけあって顔を合わせようとさえしない。

「あのー……賢者さん……?」

 なんて俺が言ったところで。

「…………」

 やっぱり無視ですよねぇ……

 うーむ、何か打つ手は無いのだろうか? 例えばそう、お世辞だとか、あとはお世辞だとかお世辞だとか…………ってヤバイな……もう世辞るしか思いつかねぇ……

 じゃあもう何か世辞を考えろ俺! 時間は無い。脳味噌フル回転だ。

 ────世辞ってのは褒めりゃあ良いって訳じゃないことはネットダイビングによって構築された俺の対人間用心境変化の常識的定義によって証明済みだ。

 ならばどうするか。今回の場合ロリ賢者(対象)は“かまってちゃん”だと例によって培った俺の人間観察眼が告げている。つまり、ロリ賢者(対象)が興味を引こうとしている内容を理解し、それに対して興味の欠片を見せれば良いのだ。

 それがどうしてお世辞になるのかは説明するまでも無いと思うが一応。例えば自分の好きなアイドルが絶賛されて喜ぶ女子中高生だとか、例えば軽音部に所属する姉が褒められて嬉しくなる妹だとか。その辺りの感情を利用し、「異世界」についてもっと関心を抱けば多分こいつも赦してくれるだろう。


 ──要約しよう! つまりこいつに構ってやるのだ!


「……と、そこまでまとめてもらったところで悪いんじゃが、お主の心の声聞こえておるぞ」

 と、知恵の声が整理し終わった脳内を再び掻き乱す。

「なん……だと……!?」

 折角練った策略は無駄になってしまった。

 だがッ! 折れかけた心を全力で支え直してまで聞きたい事が一つある!

「……それは何じゃ?」

 心を読まれても動揺しなくなってきた。この異常な非常識を瞬時に呑み込むようになってしまった自分に対して警笛が鳴りそうになった気がした。

 それでもなおそんな思考だって押し潰して押し殺して、俺はたった一つの質問を澄まし顔で緊張感も無いように白と同化して立つ賢者にさせてもらう!

「俺からの質問だ……結局お前は────」

 大気をまとめて肺に押し込み、破裂でもしそうな程まで詰めて詰めて詰める。

 そして膨大な量の空気を、喉を震わせ、いや、喉を突き破るかの如く一斉に体の外へ押し出す。

「結局お前は俺に何をしたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 そんなくだらない大声が、治癒室とか言うこの白い部屋に響き渡り、数回反響したのを感じた。

一週間に一本とか言ってるくせに2ヶ月も行方を眩ませた、どうも◼◼です。

遅れてしまって本当に申し訳無いです。生活に空き時間が無くなったりだとか、睡眠時間消失が消失して休日も寝たっきりだとか、なんか急に忙しくなりました。これからはペースががくっと下がるとは思いますが、見離さないでくれると幸いです。

前々回は颯太、前回は海翔、今回は颯太……気が付いているとは思いますがこの作品、主人公二人です。何が難しいってこの後二人を会わせた時にどうしようかって決められないところですよ。さてさて次回は誰視点になるのでしょうか。作者であるこの◼◼にもよく分かりません。のんびり待っていて下さいませ。

ご閲覧ありがとうございます。こらからも「僕は運命に逆らう為に魔法を駆使する。」をよろしくお願い致します。

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