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4話:記憶喪失とコントラスト

 3000字で終わらそうと頑張ってたら5000字になってました。


   1:記憶喪失とコントラスト



 見知らぬ場所で目が覚めた。

 「場所」と言うのもおかしいな、ちゃんと言うなら「部屋」と言った方が良い。

 白い壁に白い天井、白い床、それに、白いカーテン。

 棚も机も白い部屋の、真っ白なベッドの上で目を覚ました俺は、起きて直ぐ心に不安を抱いた。

 こんな部屋、俺は知らない。

 美しい程に真っ白な部屋とは裏腹に、俺の脳内は禍々しい程の黒に染まっていく。

 不安に思考を刈り取られ、ただただ自問自答を繰り返す。

 ──何故俺はこんな所にいる?

 知らない。

 ──何故俺は寝ていた?

 分からない。

 ──さっきまで俺は何をしていた?

 思い出せない。

 いくら必死に思い出そうとしても無意味。それは記憶にフィルターを掛けられたように、ノイズを掛けられたように、まるで記憶が俺を拒絶するように。

 意識が途絶える前の、さっきのまでの記憶が、一切、全く、何も思い出せない。

 記憶を映し出す頭の中のディスプレイは灰色にがさつき、ザーザーと耳障りな渇いたを鳴らし続ける。

「……ここは何処だ?」

 不安が言葉となって喉から滴る。

 聞いている人なんていないのに、答えてくれる人なんていないのに、俺は無意識に小声でそんな疑問文を口にしていた。

 すると。

 ガラガラガラッ……

 透明な板をガラス窓代わりに組み込んだ木製のスライド式ドアが突然と音を立て、部屋の出入り口を塞ぐ事を辞めた。

「目が覚めたみたいですね。気分が悪かったりしませんか?」

 白衣に身を包み、眼鏡を掛け、黄色の髪を揺らす若い女性が、俺の視界に現れると同時に、肩にかかった長い後ろ髪を払いながら質問文を投げかけてくる。

 誰だお前は!? なんて質問は後にしておくとして、まずは返答を。

「……あまり優れてはいないです」

 さっきまでの記憶が全く思い出せていない訳だ。もしこれが何かの犯罪に巻き込まれている状況なら、無闇に嘘を付くのは反って危険かもしれない。ここは正直な事を言っておいた方が正解だと俺は判断した。

「そうですか……」

 と、白衣の女性は言う。

 そうですね……記憶がブッ飛んでる訳ですし、結構危険な状態かもしれないですね……

 そんなことを考えていると、白衣の女性が様子を伺いながらもう1つ聞いてくる。

「今、人と……お話はできますか……?」

 と。

 健康な人に言えば失礼極まりない質問だ。

 が、しかし。今の俺は精神的重症だ。気を遣われているということは幼稚園児でも分かる。

 まぁ、人と話す程度なら問題は無いだろう。

 なにせ、ここ2日の出来事が思い出せないだけなんだから……

 と、ここで自分自身の違和感につまずく。


 ここ2日(・・・・)


 確かに今、俺の脳はそう言った。

 記憶が無いのは2日間? ならば、何故記憶が無いのに明確な日数が分かった? そもそもそれは事実なのか(・・・・・)

 それにさっきまでは、「さっきまでの記憶が思い出せない」という認識があった。

 丸1日眠っていた可能性だってあるのに、「さっきまで」という認識が起きたばかりの脳に確定されていた。2日分、それが正しいのなら「さっき」と表現するには遠すぎる。だが、どっちの方も正しいのか分からない。

 この状況を例えるとしたら、地図もコンパスも土地勘も無い状態で挑む暗闇迷路……とでも言ったところか……?

 そんな状態じゃあ、いくら思考を巡らせても全く理解できないので。

 ──そのうち俺は考えるのをやめた。

 ……そして、とうとう壊れた。

 ────あぁもう何がどうなってんだよこれ!? 目が覚めたと思ったら知らないとこで記憶喪失だァ!? 鬼畜ミステリーも大概にしとけよ!? 大体誰がこんな事して得すんだ!! 謎解き脱出ゲームならもっと頭の良い奴選べよッ!! そもそもこんなッ……

 と、キチガイの気分を満喫している俺に。

「あの~……無理なら言って頂いて構いませんよ?」

 白衣の女性の声が聞こえた。どうやら色々考えていた内に黙り込んでしまったらしい。

 不意を突いてきた女性の質問を脳内処理優先度1位に輝かせ、同時に処理を始める。

 さっきの謎については意識の外に投げ捨てた。

「え? あ、えぇ、はい、大丈夫です。それくらいなら平気だと思います」

 こんなんだから急いで作った台詞は……

「そうですか。では、呼んできますね」

 そういって女性はドアを抜け、その姿を死角へと消していった。

 ドアを閉められ、部屋は俺が起きた時の静寂を取り戻す。

「はぁ……」

 魂まで抜けそうな程のため息を吐く。

 普通に喋っていただけなのに異様に疲れてしまった。

 普通に喋ったからじゃなくて色々考えたのが原因なんだろうけど。

「あぁ、もう今日は人と話したくねぇな……って、話す為に呼びに行ってるのか……」

 いちいち声に出さなくていい事が出てしまう。

「どうしてこうなったんだ俺……」

 そんな、呻き声のような小さい声が喉から漏れる。

 聞いてくれる人なんていないのに、答えてくれる人なんていないのに。

 絶望に染まりきった青白い笑みを浮かべた俺は、瞳孔を全開にして気絶することにした。


 ■■■


 ガラガラガラッ


 既視感……いや、既()感と言ったところか? まぁ、そんな事はどうだっていい。俺はその聞いた事がある音で再び目を覚ました。

 寝起き直後でピントが合わない目を、部屋に開いた長方形の穴に向ける。

「お待たせしました」

 と、そこには案の定、さっきの白衣の女性がいた。だが1つ、予想外。俺が目を向けた2秒後、中学生くらいの少年と少女が死角から現れる。

「お話したいと言うのはこの子たちなんですが、どうぞご親切にお願いします」

 見知らぬその2人の髪は、他の色を拒絶するような黒髪。強い強いコントラストをこの部屋の白と奏でる。

「あぁ、はい、分かりました」

 と、了解の返事。

 だが、ここでふと思う。

 ──中学生男女2人が、初見の部屋で記憶喪失してる男子高校生である俺に何の用があるのか、と。

「それでは、大人がいると話しづらいかも知れないので、これで失礼します」

 そう言った白衣の女性はドアの向こうへ消えていった。


 さて、部屋に取り残された俺と中学生2人。

 俺とお話し……ねぇ?

 果たしてどんな用があるのか。子供がいる限り犯罪組織ではなさそうだし────ハッ!?

 一瞬、恐ろしい予測が脳裏をよぎる。

 もしかするとこれは、これは誘拐の類いなのでは? この2人は軟禁されている被害者2名なのでは!?

 いや待てそんなはずはない悪行なんてしてないはずだ罰が当たるような事は一切していないッ……

 そんなこんなでパニクっていると、「キチガイ一歩手前で壊れた俺の思考なんて知った事ではない」とでも言うように、少年がベッドに近付いてきた。

 ──近付いて……来たけれど……

(──こいつッ……何も喋らねェッ……!?)

 おいおい、俺はお前が近付いてきたから捕手(キャッチャー)の体勢をとったんだからな? なのに投手(ピッチャー)が投げないって……“言葉のキャッチボール”が成立しねぇだろうが!

「ふふっ……」

 急に笑い声が聞こえた……もとい、突然誰かが笑った。

 ……? 笑う要素なんてここまであったか?

 誰が笑ったかを突き止めるべく、さっきの思考を意識の外に投げ捨て、まず最初に可能性の高い少年に目を向ける。しかし少年は依然硬直したままだった。つまり今笑ったのは……

 お前かッ! そこの女子中学生ッ!

 確信した視線をドアの前にいる少女に送る。

 しかし、虚しく空振り。少女は至って普通の表情であった。

(……)

 ……空耳だったか? とうとう本当に駄目になったか俺……

 なんて考えている内に、時計の針も止まってしまいそうな程の静寂な時間が過ぎていく。

 ……相手が喋らないといえど、このまま時間が過ぎてくのはなぁ……

 そう思い、発案。

 俺から話しても問題は無いよな……?

 そして、決心。

 ……よし、俺から何か喋ろう。

 言葉を伝える為に、空気を変える為に、沈黙で重くなった空気を吸う。

 そして、声帯を通して空気を吐く。

「えぇと……」

 俺のそんな一言で、凍り付いた空気が砕け散った。

 2人はそれぞれの方向から、俺に目を丸くして視線を送ってくる。

 その視線に怯むが、またあの空気になってしまっては本当に意味がない。

 もう一度息を吸い、声を出す。

「こっちから質問しても……いいか?」

 やった、言えたぞ! これで俺のターンだ!

 多分この少年少女にも聞きたい事があるんだろうけれど、こっちは精神の正常さが懸かっている。申し訳無いが、俺の精神が安定するまで待ってくれ。

 2人に質問し、返答を待っていると、3秒くらいたってから少年が答える。

「え、あ、うん、い、いいよ!」

 と、軽くしどろもどろに少年。

 なんだ? 緊張……している? 圧倒的ホームにいる奴が隔離的アウェイにいる奴を前に緊張している?

 まぁ、こんな精神状態で相手の心配ができる俺ではないのだ。さて1つ目の質問。

「それじゃあまず、ここは一体何処だ?」

 真っ白な見知らぬ部屋で起きた俺は、地理情報を持ってなさ過ぎた。

 そして記憶喪失。どうやってここに来たかも覚えていない。

 暗闇迷路で例えたなら、この2人は懐中電灯ってところか──

 と、次の瞬間。

 タタタタッ……

 少年がベッドから離れ、少女の後ろに回り込み、隠れてしまった。どうやら懐中電灯には電池が必要だったらしい。

 ……なんだろう、まるで某超次元サッカーRPGの侵略してくる宇宙人と戦うシリーズで、「ツンツン白髪の炎のストライカー」しか育ててなかったのに途中で離脱された時の気分……

 伝わりにく過ぎる説明乙、俺。

 と、そんな事を脳内プレゼンしていた俺に。

「ここは“陽照(ひでらし)総合学園訓練区域”……の、治癒室だね」

 と、隠れてしまった少年に代わって、少女が慣れたように言う。

「ごめんね。昔から、初対面の人にはいつもこうなんだよ海翔は」

 少女は母親っぽい事を言うが、その口調もその声も、文字通り女の子という感じだった。

 白い生地に金のボタンと真っ赤なスカーフを着けた、いかにも特別って感じの制服を着ているセミロングの少女には緊張なんて微塵も無いように見える。

 海翔と呼ばれた少年とは随分と対照的な態度だった。

「そういえば、自己紹介してなかったよね。私は暮那井晴香。で、こっちで隠れてるのが古都羽海翔」

 声を弾ませた、楽しげな様子で少女──晴香は手短に言った。

「海翔と……晴香……」

 俺は2人の名前を復唱する。

「そう。訓練後にまた来るから、それまで忘れないでくれるかな?」

 いいともー! じゃなくて。

 時間が無いのか、切り上げるように晴香はそう言った。

 というか、そもそも訓練ってなんだよ訓練って。見たことは無いけど、少なくとも中学生が通うところじゃないだろ。そういえば治癒室ってのもよく考えたら謎だな……

 と、色々考えていると。

「お察しの通り、時間が無いんだよね……午後の学時始まっちゃうしさ」

 晴香が言う。

 午後の学時が始まる……つまり今は昼休み的な時間だということか。

 ここが学校と同じような時間の使い方をしているのなら、午後の訓練とやらは大体4時くらいで終わるだろうが、ここは訓練所だ。そうとも限らない。

「訓練が終わるのは4時半くらいだけど、それまで待っててもらえる……?」

 そこまで見当違いでもなかったらしい。

「あぁ、分かった。特にできることも無さそうだからな」

 話を聞いている限り、俺の全く知らないところだろうって事は分かった。それならもう、どうすることだってできない。

「あ、それと、君の名前とかは海翔がちゃんとしてる時に一緒に聞きたいから、今はまだ君の事は何も知らないでおくね」

 と、ここまで会話して、疑問を抱く。

「……どうしてそこまで俺に関わろうとするんだ? 初対面だろ?」

 普通にそう思っただけで、「ほっといてくれよ!」とかそういうんじゃ断じてない。

「まぁそれは海翔じゃないと分かんないかな。君を助けようとしたのが海翔で、助けたのが海翔なんだから」

 つまり、謎が深まったわけだ。

 究極の人見知りが名も知らぬ他人を助けたということだろ? 訳わかんねぇ……

「分かんなくてもいいんだよ。喋った事が無い人の考えなんて、分かる訳ないんだから……」

 何やら意味深げな事を晴香が言った。

 と思った矢先。

「わぁっ!? 第5時始まっちゃう!」

 晴香が焦る。

「それじゃあまた、訓練後にね! 急ごう海翔!」

 ドタバタと走っていく音がだんだん小さくなっていき、聞こえなくなった。


 やがて、時計の針が煩く聞こえるほど静かになったこの部屋──治癒室に、1人取り残された気持ちになる。

「4時半まであと……結構あるなぁ……」

 確かこれが寂しいって感情だったっけ? まぁ、どうでもいいか。

「っはぁ……」

 本日2度目の、魂混じりのため息。

 魂を抜かし切ってしまった俺の思考はやがて止まり、何も考えられなくなった。

 数秒間、意識を遠くへ逃がした俺は。

「……寝よ」

 とりあえず夢の中へ逃げる道を選んだ。


 ネタを多めにしたいなぁ……なんて思ってる、どうも◼◼です。

 今回は颯太視点のストーリーにした訳ですが、颯太はこんな性格ですって事がプロローグ2以上に伝わればいいなと思います。

 颯太のキャラはしっかり決まってるんですけど、晴香がまだ曖昧っていうか、こういうキャラはよく分かりきってないんですよね……書いてる内に独特な性格になったなら、それはそれでいいんですけど。

 ──っていう理由もあって、海翔には超絶人見知りになってもらいました。まぁ、直ぐに馴れるようにしてあげますけど。海翔にはもっと喋って欲しいっていうのが本心です。

 他にも色々ありますが、またいつかということで。

 ご閲覧ありがとうございます。これからも「僕は運命に逆らう為に魔法を駆使する。」をよろしくお願い致します。

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