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8話:赤と白の不協和音

5ヶ月で3000字はひどい。

   1:赤と白の不協和音



「──またまた知らない天井だ」

 眠りから覚め、瞼を開ける。

 あの自称賢者の白い死神、知恵の裏切りを末尾に記憶を遡っていく。

 知恵が俺に施したと言う再現された記憶。今その再現場面を思い出してみると、何故だかしっくりと馴染んでいる。作りモノとは思えない程のクオリティだ。知恵の言う「記憶」というモノの定義は知らないが、体だとか感覚だとかが覚えていたのだろう。楓の例の言葉を思い出して鼓動が太鼓を叩き始めるのがその証とも言える。つまり、それを体験した実感があるのだ。ついでに言えば、トラックの銀色が反射した赤への記憶の繋ぎも完璧だった。

 結論としては、確かに俺は楓に告白されていた。だが、1つ問題があるのだ。

「──起こしてやった途端に鼓動を高鳴らせてなんなんじゃ気色悪いの……」

 と言うコイツ。そう、自分が意識をオトした相手の目覚めの第一声に毒を吐く賢者。コイツの行いに1つおかしい点がある。まぁ、全部が全部おかしいのだが。

「……お前が言ってた、『孔で思い出した記憶は孔での記憶』ってのが理解できた」

「ほう、良かったの。今更意味など無いが」

「それでだ。俺はこの世界に来る直前に確認を取られたと思う。心配する人がどーのこーのって」

「あぁ、したの」

「その時に楓の事を思い出していたのを今思い出したんだが、何故忘れていたのか説明をしてくれるか?」

「それはお主が忘れていた方が良いとか思っていたからの。代償のついでに忘れさせたのじゃ」

「それじゃあなんでまた思い出させたのか説明してくれるか?」

 この後俺の怒りが有頂天になったところで異世界譚は再起動する。


 ◾◾◾


 不毛で醜い喧嘩を終えて。

「ところで此処は何処だ?」

 随分と華やかで輝かしい装飾品が俺達を囲んでいる。明らかに民家ではない。RPGの城とかに出てきそうな部屋に俺達はいた。

「此処か? あぁ、そういえばお主は知らんかったの。此処はアルメーデンの家じゃ」

 アルメーデン……フィルンの家か。アイツ良い家持ってんなー……って。

「……え?」

 思考回路が一瞬止まりかけたその時。

「おっ、起きてたか。気分はどうだ名乗らずの少年?」

 ギギギ……と大きな軋む音を鳴らして木製の扉が開かれた。噂をすればなんとやら、御本人様の登場である。

「名乗らずっつーか名乗れねーんだよ。そしてもう少年でもない。というかお前ん家金持ちサマだったのか。貴族か何かで?」

 実際の貴族というモノを知っている訳ではないが、大体こんな感じだろう。元の世界──技術世界(スキアグランダ)、少なくとも日本にはにはそんなモノ無かったが、この世界にある可能性も無いという事は無い。と言うか貴族でもないのにこんな部屋持ってる方がおかしいと思う。

「金持ち……っちゃあ金持ちだな」

 と、フィルンが言う。

「おう素直だな。自分で言っちゃう辺りが凄いわ」

「素直ってよりかは最善策のつもりだぜ? 『いやぁそれほどでも』とかどう思うよ」

「あぁ、腹が立つな。しかしそれすらも自分で言っちゃう辺りが更に凄いわ」

 庶民を分かっていらっしゃる。貴族って悪人の事だと思ってたけど違ったか。

「まぁ、家が金持ちなだけであって俺は別にそうでもないけどな」

 俺がどうでもいい事に脳細胞を働かせていると、フィルンがなにやら身内の話をしてくれるようだ。台詞から察するに一人暮らしでもしているのだろうか?

「お前だけ別居なのか?」

 引っ掛かったので聞いてみた。が、よくよく考えてみれば家族の中で一人だけ別居なんて随分と深刻な問題だったのだが、気が付いたのは質問を口にした後だった。

「……あ、えー……言いづらい事だったら言わなくていいからな……?」

 咄嗟にフォロー的な何かを入れたが意味を成すだろうか? と言うかなんだ、この世界に来てから随分と馴れ馴れしくなったな俺。現世ではもう少し考えながら言動していた気がする。どうも性格が変わったようだ。これが高校デビューってやつか……いや、今回に関しては異世界デビューの方が正しそうだ。って、そんな言い訳は赦されなくて。人の傷を開いたのだ。謝罪で済むわけ──

「ん、別に深い事情はねぇよ?」

「ねぇのかよ」

「ああ、ねぇな」

 なかった! ただの杞憂だった!

「まぁ一人暮らしはそうだな、金持ちって思われるのが嫌だったんだ。それでその辺の民家に住んでる」

 あれ、なんかこの人大胆過ぎない?

 と思っていると。

「お主……フィルンといったか」

 会話に知恵が接触する。

「おうフィルンといったお主だぜ」

「お主はアルメーデン家としてはどれ程の距離にあるのじゃ?」

 ……うん?

「お主はアルメーデン家にどのような立場で扱われている?」

「と言うと?」

 フィルンさえ聞き返す程に意味不明の質問。何を知りたがって──?

「──フィルン・アルメーデン。お主はアルメーデン家について何処まで(・・・・)知っている(・・・・・)?」

「……???」

 質問に対してクエスチョンマークが返る。当然俺も理解不能、広い部屋が「?」で埋まる。

「……」

「……」

「……」

 静寂。このままではいけない気がして「おい知恵──」と沈黙を破ろうとした時。

「……まだ知らされておらぬようじゃの……今の話はなかった事にして欲しい」

 と言われたところでそんな要求を通せる筈もなく。

「なかった事にはならないだろうな。どういうことか説明してくれたら一晩は忘れてやるよ」

 フィルンのひどい提案。

「それお前にコストあるのか……?」

 と、つい突っ込みを入れてしまった。

「あるわけない。自分の家の事情を知るのにコストなんてある方が変だろ」

「ソッスネ」

 正論である。

「そもそもなんで家の人間が知らないような事を第三者が知っているんだか。訳分からん」

 正論のダメ押し。肩の高さの掌を天井に向けてやれやれとフィルン。

「これは犯罪案件ですかね」

 この期に及んで冗談を言うのか俺……異世界メンタル硬すぎ……?

 まぁ賢者に犯罪も何も無いんだろうけど。

 と、そんなやり取りを聞き、知恵がやっと口を開く。

「そうじゃの……これ以上は何も言うまい。現状維持は大切な選択肢じゃ」

「逃げた」

 逃げた。と、率直に。そんな俺の感想に対し知恵は。

「逃亡は時に最善策にもなるじゃろ」

 というものの。

「その時が今だって? そんな筈はないし、仮にそうだとしても逃げられないし逃がさない。当然警備に引っ掛かる」

 フィルンの厳しい包囲網が知恵の退路を遮断している。その最善策とやらは選択肢の項目に挙がってすらいなかったようだ。

 これには賢者も沈黙、やがて。

「……話したとして」

 と。

「フィルン・アルメーデン、お主に今直ぐその命を投げ捨てる勇気があるかの?」

 と。

 こいつは何の話をしているんだ……?

「お前は何の話をしているんだ……?」

 フィルンの台詞が思考と被る。

「言ったであろう。儂が何者か、そしてお主が何者か、という話じゃが?」

 まぁ台詞に違いはあるが、要約すればそういう話題になるな。

 と思ったところで疑問がよぎる。

(俺らが何者なのか話して良いのか?)

 片や世界を調律する賢者、片や平行世界人だぞ。ただでさえぐちゃぐちゃに絡まった現状がさらに締まる事になる。

「そうか、で、率直にお前は何者なんだ?」

 フィルンの質問が飛ぶ。

 マズい。

 そう思ったと思ったらいつの間にやら知恵を部屋の隅へと引っ張っていた。

「なんじゃ」

 知恵はそう言うが当然の反応だ。どうしてこんな行動に出たのか説明する。

「……賢者とか平行世界とか、オープンにして大丈夫なのか?」

 当然小声。

「まぁ平気じゃろ。最終手段として記憶を消せばどうにでもなる」

「えぇ……もっと温厚に行こうぜ」

 平和に、平和に。俺は元日本国民なんで。平和主義なんで。しかし。

「というかもう消してしまえば」

 賢者に憲法なんて通用するはずもなく提案は無視される。

 物騒な……あぁ、そういや賢者(笑)の死神だったわ。

「強引だけどそれが一番手っ取り早い気がしてきた……」

 というかこの賢者が他に手段を選べなさそう。

「それじゃあ合意ということで」

 知恵が合意を強調し、フィルンの方へ振り返る。


記憶喪失(ルーズメモリア)


 フィルンが膝から床へ崩れ落ちる。

 1周年で8話しか進んでないというアホペースの、どうも◼◼です。

 プロローグ2つ合わせて10ですが、それでも月1話を達成出来ていないという。まぁ忙しかったんです。ごめんなさい。今年こそは……(フラグ)

 さて、本編では知恵が変な事を口走っていましたが、回収がいつになるかは分かりません。そもそも回収しないかもしれないですし。まぁノープランなので仕方ないです。颯汰が記憶を取り戻したのが何時なのか描写していませんが、多分次回に分かります。色々と穴だらけですが、ゆーっくりとしたペースで、カメのように進んでいきます。見放さないで頂けると幸いです。

 今回もご閲覧して頂きありがとうございます。これからも「僕は運命に逆らう為に魔法を駆使する。」をよろしくお願い致します。

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