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龍焔の機械神  作者: いちにちごう
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 十三月一日。それが破壊神との決戦に定められた今日の日付。時間の流れが限りなく零になる、例外が二つ重なる四百年に一度の特異日。


 この世界には黄道の破砕日と呼ばれる、時間の流れが停滞する日が年に五日ある。


 これは実際に時間の流れが遅くなっているのではなく、この星の息づく生命の動きが総じて遅くなっているのである。


 この黄道の破砕日だけは妙に太陽や月の動きが早いと気付いたある者が、何年何十年と、多分その人間としての一生を全て懸けて計測した分かった事実である。


 この日だけ何故動きが遅くなるのかと言うと、一年は十二ヵ月に別けられ、それは季節ごとに更に細かく五日ごとの七十二候というものに分かれている。


 しかし本来ならば五日ごとの周期で時間軸(季候軸)が変わるのであれば何の問題も無かったところ、この星・大地の地軸のずれにより年間五日ほど増えてしまったので、一年で五回、一候分が六日となってしまう時期ができてしまう。この時間の停滞は、増えた分を前日と翌日で繋ぐために発生する為であると言われている。


 そして暦上でもそのずれを補正する為に、四年に一回ビセクスティムというものを設けている。


 ビセクスティムとは、四年に一度、一日だけ余分に追加される周期。そしてこのビセクスティムの日も六番目の黄道の破砕日とされ、時間が停滞する。


 この世界は、最初に誰が数えたのか分からないが、大地・星が循環する一年が廻る日付に要するのは、365日であるという。


 つまり366日目には新しい年になっているという訳なのだが、これが旧年中だけで366日を消費し、367日目が新年となる年がある。これをビセクスティムと呼んでいる。


 このビセクスティムは四年に一度の頻度でやってくる。通常の一年は12の月に別けられているが、この時だけ13番目の月を設けることになる。十三月一日というただ一日だけある13番目の月。


 しかし四年に一度のビセクスティムが無い年が存在する。


 ある者は気付いた。


 100で割り切れる年はビセクスティムはない。1100年や1300年といった年にはビセクスティムが無いのだ。


 長い時間をかけて観測していた誰かがそれに気付いた。


 百年に一度、十三月一日という日付は消失する。


 そして五日間存在する通常の黄道の破砕日が、通年よりも更に時間が遅くなっているという事実。


 ビセクスティム自体は、百年に一度の周期で、我々の時間軸では無いものとなっているが、外の世界、つまりこの世界(この星)が浮いている黒き星の海では時間は進行している。


 その静止しているように見える時間もゆっくりではあるが動いてはいる。何故このようなことになっているのか。


 そして更なる観測結果が新しい事実を呼ぶ。


 400で割り切れる年はビセクスティムがある。


 1600年や2400年といった年には100で割り切れるにもかかわらず、ビセクスティムは存在する。


 その二つの例外が重なる時、時の進行は限りなく零になる。誰かがその事実を突き止めた。


 四百年に一度の時が限りなく零に近く停滞する時間。それはこの星・大地が自分が浮かんでいる黒き星の海の中を進んでいくための新陳代謝のようなものなのだろう。


 時の流れがほぼ零になって静止する日。それは四百年に一度出現する二つの例外を伴った十三月一日。


 そしてそれは、この星の意思によってなされるもの。


 ならば――あのエンドベルも、この星に存在するものであれば、その静止した時間軸には抗えないはず。


 そしてその静止した時間の中でも動けるものがあれば、あのエンドベルも倒せるはず。


 機械神一機一機が独立した世界であるとされるのは、この星の時間軸に影響されないで動けるようにするためであり、更にエンドベルとの決戦時に、その身を引き千切り、自らに一番近い平行世界へ自分ごと移動させ絶対に再生させないためである。機械神が並列並行世界へと転移する直前に、操士の乗った操縦席部分は切り離されこの世界に残されるとされているが、真意の程は不明である。既に自決覚悟の設計だったのか、生き残れた四人は本当に奇跡的に帰って来れただけなのだろう。


 四百年に一度の二つの例外が重なるこの時。


 エンドベルもこの世界に存在しているのものならば、その影響は受ける。


 影響を受けたら受けたとしてエンドベルは自らの動きを限界まで加速させて対抗してくるだろう。だがそれを実現させるためにはとてつもない力を消費するのも間違いないはず。


 だからこそ、この世界の理である四百年に一度の二つの例外が重なるビセクスティムの影響を受けずに行動できるように、機械神そのものが独立した理を持つ――機械神単体が一つの世界であるという、狂えし危険な設計となっているのだ。




 十三月一日の前夜――十二月三十一日まで、機械使徒と土塊の巨人アガシオンとの戦いが続けられていた。


 エンドベルも四百年に一度のこの十三月一日は危険であると認識したらしく、守りを固めていた。


 十三月一日の時間停滞の中でアガシオンがどれだけ動けるのか分からないが、相手はエンドベル自ら生み出している己の使途なのだ。油断はできないので、翌日の決戦の前にできる限りの数が掃討された。もちろん機械使徒の被害も多数出た。機械神という最強の機体を明日まで温存しておかなければならないのも辛かった。


 しかし機械使徒の操士たちは次から次へと現れるアガシオンを力尽きるまでぶち壊し、機械神が進む血路を切り開いた。


 そして日が廻り、決戦の日が訪れる。


 十三月一日、四百年に一度の二つの例外が重なるこの日になった直後、遂に12機の機械神は出撃した。


 生き残った機械使徒もそれに追従する。機械使徒も機械神に準じた性能を持たされたのだから、四百年に一度の二つの例外の中で行動できるように時間停滞を遮断する自己遮断加速装置が付けられている。


 しかしそれは機械使徒単体では起動できず、機械神というあまりにも危険すぎる機械の影響下にあって、始めて連動機構が作動する。


 時間停滞の中でもアガシオンは変わらない動きで襲い掛かってきた。しかし操るエンドベルもこの四百年に一度の例外が重なる時の中では十分な数を動かせないのか、昨日に比べればはるかに数は減っていた。


 しかし減っているのは機械使徒も同じ。生き残っていた機械使徒を全滅させるだけの数と力はあった。


 機械神の影響下から外れた機械使徒が、急激に動きを遅くし、土塊の巨人と運命を共にしていく。


 それだけの犠牲を払いつつ、機械神は遂にエンドベルの目前へと辿り着く。


 結果だけを伝えるのであれば、12の機械神はエンドベルへと取り付き、一機一機がその体を少しずつ引き裂いて、それを抱えたまま異世界へと消えて行った。


 しかしそれでもエンドベルの頭部部分は残ってしまった。超常なる力を持つ12機の機械神を全て投入して、そして四百年に一度の二つの例が重なる時間が静止するこの日を決戦に選んでも、エンドベルに止めは刺せなかった。


 頭部だけとなったエンドベルは、首から血管のようなものをだらりと伸ばして静止している。


 頭だけとなった今の状態でも、まだ凄まじい力は残しているのだろう。


 しかし、停滞する時間の中ではその状態では攻撃に転じることはできないのか、静かにしている。


 だからやるなら今しかない。

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