宝石
「人と同じように、宝石にもその輝きを増す一瞬があるという。
それは人の心が見せる幻か、はたまた本当に宝石が宿した輝きなのか。
だが、宝石の煌めきは確かに人を魅了し続けている。
創作上、宝石には何らかの呪いなり、祝福なり、力が込められていることが多い。
大地には、星には命が宿っているとされている。
石には星の意志が込められているのではないだろうか?
赤い石には星の情熱が。
青い石には星の哀切が。
黄色の石には星の喜びが。
そうして星の想いが閉じこめられた石が宝石となっているのではないだろうか?
ならば、石が自らの意思によって輝きを増すということもあり得ないということではないのだろうか?
また、その意思が身につけていた者の想いを継ぐこともあるのではないだろうか?」
誰にともなく、私は一人言を呟いた。
妻がいつも身につけていた小さな小さな緑の石を掌で遊ばせる。
宝石と言うにはおこがましい程の安い石。
私が妻に贈った最初で最後の宝石。
それを彼女は顔を綻ばせて身につけていた。
私はその石を天に翳す。すると、一瞬だけ輝きを放った気がした。
本当に瞬き一度にも満たない出来ごとに驚く。
そんな私の手を、小さな手が包み込んだ。
…そうだな。
悲しみに暮れるよりも、今はこの子を育てなくては。
心配そうに見上げてくる息子の頭に手を置き、なんでもないと告げる。
私はポケットに石を戻した。
石に想いが宿っているのとかどうかなんてわからない。
石は言葉を語らない。
その想いが幻だったとしても。
見る者がなにを思うかは自由なのかもしれない。
私はそう考えを纏めて、息子の手を引き歩き出した。
ポケットでは、緑の石が温もりを発しているような気がした。