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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
ちょっと嵐の予感? 編(仮タイトル)
94/95

075 俺の俺による俺の為の妄想。

お待たせしました?

「いや~なかなか面白い見世物だったぜ。それ「他人の夢小説をみせられるのが、これほどイタイとは思いませんでしたよ、田中誠センパイ」」



 お嬢さん方を安全地帯までふんわり運んだ後、改めてハーレム男さんと向き合えば、気味の悪い笑顔を浮かべて馬鹿なことをおっしゃったので、途中でぶった切ってしまいました。



「夢小説って……って、なんで、名前っ」



 やれやれ。こんなんでは保育園と小学校低学年でお世話になった先生方、なにより両親に怒られてしまいますね。ハーレム男さん改め田中誠さん(25歳)がなんか喚いておられますが、一端仕切り直しましょう。



「その前に。いまさらですが、改めまして自己紹介を。初めまして、田中誠センパイ。越谷 優(こしたに ゆたか)と申します。センパイと同じくルーカスさんにスカウトされまして、フリー契約で魔獣駆除という名の清掃作業を請け負っております。で、現在はお休みを頂いておりまして、諸国漫遊中です」



 両手両足をきっちり揃えて、30度の角度で腰を折って御挨拶。

 年下であっても、異世界&魔獣駆除では先輩ですからね。礼儀は大事。

 ですが。



「あ、念のために。わたしがしたいのは、あくまで観光旅行ですから。武者修行しているわけではありませんし、センパイと一緒に辞めた方の様に『剣豪』を目指しているわけでも、ましてやセンパイの様に『冒険王』になりたいわけでもありませんからご心配なく」

「……っえ? は? なっ……」



 あらあら、田中誠センパイは、突発事項に弱いんでしょうか。素がでちゃっていますよ?

 先ほどまではちゃんとわたし以外に見えていたのだろう、青銀色の長髪に、あぁ、いま改めて確認したら、目も同じ色なんですねぇ。な、細マッチョ美青年の中の人、青白い肌に黒髪、こげ茶目をした中々ご立派なお腹の青年が。



「え~っと。なんで田中センパイの名前が分かるかでしたね。わたしの魔力はどうやら、ルーカスさんと同じくらいあるらしく、魔導適性も良いらしいので。観ようと思えば、田中センパイの本名だけではなく、黒歴史も観る事ができるみたいですね」

「は? そんな、ゲームみたいな」

「いや~田中センパイの方が、よっぽどゲームメイクしているじゃないですか。その格好(アバター)は、ゲームで使われていたんですか?

あ~……ふんふん。日本では格闘ゲームヲタ、おっと失言? 大好きの引きこもり大学生(7回生)だった、と。だからバトル系は得意。あぁでも、ルーカスさんところでの試用期間、最初の戦闘で吐いちゃったんですか」

「なっやめっ」

「うん。まだわたしが話してますからね? 異世界(こちら)の方々はそういう教育は受けていないようですが、同じ日本人の田中センパイなら、人の話は最後まで聞かなきゃいけないのは、分かりますよね?」



 赤から青へと顔色を忙しく変え、わたわたと手を振ってなにかぶっ放そうとしていた田中センパイは、こちらの話が終わるまで口を閉じて頂きましょう。ついでに手足も動かさないようにしてっと。

 自分のハーレムメンバーのピンチ(まぁわたしがやったんですが)を助けなかった罰として、まずは軽く後ろ小手縛りでも味わっていただきましょう。



「優様、小休止されてはいかがでしょう。初夏とは言え、日差しが強くなっております。教育的指導(おはなし)をなさるのでしたらこちらへ」

「へ?」



 縛りの出来栄えを確認していたら、スンバらしく麗しい低音の魅力が限界値越えの執事様にエスコートされました。いつの間にテーブルを移動させたのでしょう。日よけの傘までつけて、セバスチャン……素敵な子!



「温度が上がってまいりましたので、まずはこちらのカシスソーダを。ココナッツサブレをお供にいかがですか」

「ありがとう、セバスチャン」



 あ~少し渇いていた喉に、カシスソーダが沁み渡る~!カシスにはチョコが合うけど、このアヌリン新作のココナッツサブレもいいねぇ。



「……!……っ!」

「ん? 田中センパイ、そんなうらみがましい目をしなくても、お話が終わればおすそ分けしますよ。

で。どこまで話したっけ……あ、そうそう。戦闘で吐くのは、まぁ仕方がありませんよ。センパイたぶん、狩りで獲物をさばいたことはおろか、料理で生肉触った事もなかったんじゃないですか? 女性よりも男性の方が血に弱い方多いですしねぇ」

「……っ」

「あ~でも、その後も何度か凡ミスによる失敗を繰り返したのは、まずかったですねぇ。リアルチート野郎、って言っても中身はただのめんどくさい人なんですが、まぁ外見と能力と家柄と財力だけなら折り紙つきのルーカスさんに対する引け目と……あぁ、嫉妬もありましたか。で、『職場の人間関係に疲れて』退職、と。

 サカスタンを出た後はゲーム感覚で狩りをしている間に、行く先々で英雄、救世主の様な扱いを受けるようになった、と。あぁ、その外見は、サカスタンを出た時に作られたんですねぇ」

「………」

「あぁ、うん。これは夢小説より端的に、中二病的妄想話って言った方がいいですね。俺の俺による俺の為の妄想。イケメンになってヒーローになって世界を救う?ついでにハーレム築いちゃう? いや~モテてちゃって大変だな~おい、みたいな?」

「」



 どう言う仕組みか知らないが、田中センパイの過去を「観たい」と思ったら、映画やドラマのダイジェスト版のごとく彼の周囲に映像が展開されるのだ。それを観えるままに読みあげていけば、最初は激しく反応していたのが、だんだん静かになって行き、いまはなんだか、白目を向いている?


 あぁ、まぁ。気持ちは分かる。分かった上でやっていますがなにか?



「わたしには何人か作家の友人がいるんですが、彼女達はキャラクターを生み出して物語を紡いでいます。登場人物は彼女たちに似ているけれど、彼女たち自身じゃない。だからどれだけ荒唐無稽でも、ご都合主義な展開でもフィクションとして楽しめるんですが、これは……自分の事じゃないのに、なんか居たたまれませんね。見ちゃってすいません」



 誰にでも、夢をみる権利はある。魔導で外見を弄るのは整形手術みたいなものだろうし、それをするのは個人の勝手。いつもならばスルーするところだけど、攻撃(もちろん霧散させましたよ?)されたとあっちゃぁ、ねぇ? 相手に一番ダメージを与えられるだろう方法で、お返ししますよ。ねぇ?


 与えるダメージを最大限にすべく、セバスチャンがそっと渡してくれたナプキンで口元をぬぐい、センパイの口をふさいでいた術を解除して、わざわざ立ちあがって頭まで下げてみた。



「…………」



 まぁ、返事はないよね。知ってた。それに頭を下げたって言っても、センパイは地面に転がしてるからね。

 いやだってね、向かいの椅子に縛ったままだけど座ってもらおうとしたら、うちの素敵執事様が凄い笑顔で拒否するんですもの。


 さて。しばらく待ってみたが、相変わらずハンノウガナイ。ならば次いこう。



「さてさて。自己紹介も、俺物語を見た謝罪もすんだところで、いくつか質問が。田中センパイは、自殺願望でもおありですか?」

「……は?」

「あとなんで、そこまで見た目にこだわったなら、所作や言葉遣いにも気を配らなかったんですか?」

「……?」



 二つの質問の意味がわからないのか、脈絡をとらえかねているのか。ぼんやりと見上げられてしまいましたよ。

 いや、お仕置きのついでに興味本位できいているだけなんだけれどね?



「いやあのですね。顔は大事ですよね、確かに。美しさはひとつの力だし、あ~……あなたがやたらと意識しているルーカスさんほど美しいと、まさに傾国。最終兵器。もちろん好みによるし、あいにくわたしは彼の顔を見て感嘆の声をあげることはあっても、他の人の様にひれ伏したいとか、陶然となるなんてことはないけれど……」

「なにが、いいたい」



 ルーカスさんの名前をだすと、案の定顔に生気が戻り、反応が返ってきましたねぇ。



「あ、ええ。ですから。顔の美しさは大事。身体の美しさも大切。でもそんな美しさを持った人が所作や仕草、言動が粗雑だったり、まぁ『良識』に反していたりすれば、醜くとまではいかなくとも、残念に思いませんか?あなたがいくら魔導を駆使して外見を取り繕ったところで、生まれながらのお貴族教育を受けたルーカスさんには勝てないと思いませんか?」

「……おれの、どこが」

「え? 全部?」

「優様。もう少しかみ砕いてご説明されないと、恐らくこの愚鈍な者は理解できないかと」



 ノータイムでかぶり気味に答えれば、セバスチャンから優しい突っ込み頂きました~!



「グドン……貴様!」

「あ、いくら同郷の先輩といえども、うちの素敵執事様(セバスチャン)に手を出すんだったら、つぶすから」



 で、せっかくそれを堪能していたのを邪魔してくれ、あまつさえ何かしようとしたお馬鹿さんは、つぶしてあげましょう。



「ぐぅっ」



 あら素敵。カエルがつぶれたみたいという形容詞がぴったりな声が出ているわ。まったく。さっきまで反応が鈍かったくせに、直接的表現を使われたら気色ばむなんて、どんだけうたれ弱いのかしらね。



「え~と。どこまで話したんだっけ?」

「この者の全てが醜いと宣告されたところでございます」



 ふふ。それに比べてうちの銀色執事様ったらどうよ!

 助言にお礼を込めて微笑めば、鼻血ものの微笑みが返ってきました。

 予想して、鼻に魔術を展開しといて、本当に良かった。


 こんな素敵なセバスチャンとの旅をつつがなく再開する為に、そろそろ締めに入りましょうかね

 


「まるでゲームのアバターを選ぶように外見を変えるのはいいですよ。変身願望って誰でも持っているものだろうし、異世界(ここ)ではかなりの魔力と魔導適性を持つらしい日本人(わたしたち)なら、ほんとに一から、まったく別人に変える事も出来ますよね。それでハーレムを築くのも、まぁ男の夢なのかな?

ヒトのオスは子供を産ませることしかできないから、自分の遺伝子を残そうと思ったら、より多くの女にばらまく方が良いですよね。しかも相手が異性を引き付ける要素を持っていれば持っているほど自分の遺伝子に受け継がれ、さらに次の世代に残す確率が増える。うん一種のライフプラン。それも戦略の一つだし、好きにすればいいんじゃないですか?」



 地面にめり込ませていた田中センパイを文字通り浮かせて、その脳漿によぉ~く叩き込んでいただくため、目線を合わせて告げましょう。



「ですが。ハーレムを形成したくせに制御できず、周囲に迷惑をかけるハーレム野郎はどうかな~。そんなのに巻き込まれれば、迷惑極まりない。わたしなら、即離脱して、行きがけの駄賃に迷惑料を請求するくらいはする。それがいまの状態ですね。

 あなたが『この世界に飽きて』? 気晴らしに攻撃してきたのは、彼女達(ハーレムメンバー)の黄色い悲鳴を浴びたかったのか、同郷人相手にマウント取って優位性を見せつけたかったのか。……それとも、ルーカスさんと働いているわたしを叩くことで、彼になにがしかのアピールをしたかったのか」

「そんなわけっ」



 顔を固定して、もうすっかり素が出た瞳を覗き込むようにしてあげたにもかかわらず、必死で反らしていた瞳がそこでやっと合いました。

 が。



「あ、動機に興味はないので、答えなくていいです」

「は? ……じゃ、なんで」

「え? 貴方がいかに愚か者に見えるかを訊かれたから説明しているだけですが?」

「っ……」

異世界こちらには、魔力が少ないか、ない人だっているし、感知能力が低い人もいる。だからその人たちが分からないのは仕方がないと思いますが、貴方には十分な力があるはずでしょう? なんでしたっけ。『常時10キロ以上は自動で探れる』?それくらいの力があるんなら、相手の力量くらい攻撃する前に見極めないと」

「馬鹿にするなっ、サーチくらいいつでもしてるっ!でも、……お前の、は、見えなかったから……」



 最後はなんだか小さくて聞こえづらかったし、また目をそらしているしでため息をつきたくなりますが、ここはきっちり認識してもらいましょう。



「あ~……あのですね。測れないなら、自分よりはるかに力が強いかもしれないって、なんで考えないんですか。自分で言うのもなんですが、たぶん貴方とわたしの魔力の差、丘とエベレストくらいの違いがありますよ。魔導適性考えたら、もっとかな? 丘はエベレストの高さや大きさを測れないでしょ? だから貴方はわたしの力が測れなかったんですよ。

 何度も言いますけど、異世界このせかいには、わたし達の世界にない、あ、たぶんない、魔導なんてものが存在するんですよ? 物理法則を無視したようなそれがある以上、目の前の人型の女が見た目通りとは限らないでしょう。そんなモノに攻撃してどうするんですか」

「っわからなかったんだからっ、しょうがないだろうっっ! ちょっと出来心で」



 うん。そこで逆切れして叫ぶようじゃ、いままで話していた内容をちゃんと聞いていたのかと襟首つかみそうになるけれど、落ちつけわたし。Be Cool!



「……言ってませんでしたけど。攻撃してきた時点で、そんな言い訳吐く権利はなくなりましたから。

 あっれぇ~おかしいなぁ。()()()()だって、ルーカスさんのところで講習受けたはずですよね。『ここは貴方達の世界にほんではありません。そしてこれから駆除して頂く魔獣は、基本的に言葉は通じません。一度攻撃を仕掛けた以上、殺すまでそれこそ死に物狂いで反撃してきます』って。

 攻撃を仕掛けるということは、敵対すると言う事です。むけた力の多寡なんて関係ありませんし、殺気がこもっていようがなかろうが、そう『お遊び』だろうが、攻撃された側には関係ありません。攻撃されたらし返す。そして攻撃を受けたのが魔獣ならば、相手が完全に動きを止めるまで、まぁ大抵の場合死ぬまで反撃してくる。わたしもそれと同じです」

「は……?」

「いえねぇ。越谷家わがやの家訓の一つなんですよ。『攻撃するなら相手の息の根を止めるまで。その覚悟がないのなら、最初から手を出すな』。まぁ『文化的』ではないかもしれませんが、狩猟採集で生計を立てている方々とか、自然を相手にする方々にとっても当然の考え方ですよ?」



 なんだか旅にでてから、あぁ、サカスタンの皇宮でもか。じゃぁ、異世界来てからこの説明よくしているなぁと思いながら、できるだけかみ砕いてセンパイにも伝えたらば。



「そんなの知るわけ」

「うん。それを『知らずに』攻撃したのは貴方。だから貴方のミスですね。ご愁傷さま」



 予想通りの反応が返ってきたので、途中でぶった切って、おまけに鼻で笑ってあげました。



「とまぁ長々とお話しましたが、結局のところ貴方のその力に振り回されているところや、命を簡単にとらえ過ぎているところ、そのくせ自分がした事をやりかえされると、わ~わ~騒いで言い訳するところ。そして『失敗』を顧みるどころか理解しようともしないところ。そんなところ全てがわたしにとって、とても愚かに思えるのです」

「……」

「あ、もちろんこれはわたしがそう思うだけですから、お気に止めなくともまったく構いませんよ。その理解力がないかもしれませんし。ただ」



 そう。「話せばわかる」なんて言葉は、理想でしかない。訊こうとしない相手には、理解しようとしない相手には、言葉なんて通じない。

 そんな生き物にそれでも自分の意志や思いをある程度分からせるのに有効なのは、恐怖だ。その身体と魂に刻みつけるような。そのコトを思い出そうとするだけで、心が焼き切られそうな。



「わたしはまだしばらくこの世界にいるつもりですし、貴方もそうでしょう。だからまた変なちょっかいを出されないように、処置させてもらいますね」



 そして恐怖を相手に植え付ける為には、抵抗する気も起らないほどの力の差を見せつければいいわけで。わたしは存分に、遠慮なくセンパイに味わっていただく事にしたわけです。



「ほら大丈夫、大丈夫。ゲームと同じですよ。異世界ここでなら、三途の川を渡る前に、連れ戻せますから~ハイ次、行きますよ~」



 実際に何をやったか、それに田中誠センパイがどう反応して、最終的にどんな状態になったかは、記さないでおこう。

 ただ、自分では攻撃しない(わたしに止められたから)けれど、その様を彼が大切にしているハーレムメンバーに見せて心理的ダメージを与えようとしたセバスチャンには、「いや、人の恋愛には口出さない方がいいし、そこはやめといてあげよう?」と止めてあげた。


 あ、もちろん。優しさなんかじゃありません。

全国の田中誠さんごめんなさい。

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