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007 世界の秘密を知ってしまいました。

あぁびっくり。気がつけば400件以上のお気に入り登録を頂いておりました。アクセスもいままでのものがたりと比較できないほどたくさん。


物書き冥利につきます。ありがとうございます。

「ではユタカさん。こちらが御所望の図書館です」



 またしても、どこでもドアのような魔法の紙でルーカス氏が一瞬で連れてきてくれた、図書館。

 あれが近所にあれば……と何度となく思った国会図書館よりもまだ大きそうな、一見要塞のようにも見える堅牢な建物。見上げる自分の目が、輝いているのがわかる。


 ふおおぉぉぉぉ……! ダメもとで聴いてみたのに、あったよあった。しかも、ものすごくご立派だよ。



「この図書館は地上4階、地下3階。五角形をしており、採光と建物間の移動の便を考慮してつくられた中庭を回廊がぐるりとめぐるという、少々変わったつくりをしております。

蔵書の購入費や館の運営費は国からでていますが、運営自体は第三機関がしており、皇帝といえども口をはさめません。そして規模と蔵書量に関しては、我が皇国だけではなく、近隣同盟国のなかでも一番を誇ります」

「素晴らしいですね!」 



 幅の広い入口の階段をのぼりながらルーカスさんのしてくれる説明に、目の輝きが強くなってしまう。


 いやいやいや……。ここはいまは亡き、アレキサンドリアの図書館か。知識の殿堂、本読みのパラダイス? これほど立派な図書館があるなら、ほかに何もいらんでしょ!

 

 わたしはともすれば駆けだしそうになる身体を無理に抑え、重厚な両開きの木の扉を開けたさきにある受付で、許可証のようなものを提示しているルーカス氏をおとなしく待った。

 気持ちの悪いだろう笑いを浮かべ、むずむずと動いてしまう口元は、抑えられていないけれど。



「……本、お好きなんですね」



 右を見ても、本。左を見ても、本。前も後も本、ホン、本。

 見渡す限りの壁面本棚と通路に柱のようにそびえる本棚をせわしなく見ていると、すぐ後ろから小さな笑い声とともに、ルーカス氏のつぶやきが聞こえた。


 大量の本に囲まれた至福に、脳内で興奮の雄たけびをあげていたわたしだが、なんとか聞き取った。



「大好きです。もうここで暮らしたいほど」

「それは…ご案内したかいがありました」



 目線は本棚から外せないので、定かではないが、ルーカス氏のその短い間に、(笑)が入っていたと思う。

 どうでもいいけど。



「ルーカスさん、この図書館は開架式のようですが、館外への貸し出しは可能ですか? それと、さっきルーカスさんが提示しておられた許可証は、どうやったらいただけるのでしょう。もし保証人や紹介者が必要な場合は、ルーカスさんがなってくれますか? それからこの国には日本のようなネット環境はないと思いますが、たとえば魔法だか魔導だかで離れた場所からでもここの蔵書を検索、予約、閲覧など可能でしょうか? そして」

「ユタカさん」



 やつぎばやに質問を浴びせかけようとしたら、すかさず止められてしまいました。


 は~いわかってます。興奮しすぎですね。小声でしたが、それでも本棚の脇に隠れるようにして置いてある机に向う読書中の皆さまを、邪魔してますね。うん、わかってます。



「……ひとつづつお答えしましょう」



 口は閉じたもののそれ以上にもの言う目でじっと答えをまっていると、ルーカス氏は苦笑を浮かべつつ、人のいない奥まった書庫のひとつへ連れて行ってくれた。



「まず、館外貸し出しについてですが、原則禁止です。貴女の世界と違い、こちらの本はとても高価なのです。

 私も貴女たちの世界に行った際には衝撃をうけましたが、そちらにあるような印刷技術も安価な印刷媒体――ようは紙ですね。それがこちらでは存在しないので、大量につくられないのが主な理由です」



 たしかに。他の方の邪魔にならないようにと連れてきてくれたこの書庫に収められている本も、わたしの世界のハードカバー本よりまだ重そうな、皮の装丁がほどこされている。

 そしてもしやこれらは写本、人が一文字一文字書いているものなのだろうか。



「そうですね。貴女の言われる写本もあります。それと、魔術で書き写したものもあります」



 はいでました魔術。本当にこちらの世界は魔術ありきなんですねぇ。よかったよわたし魔力があって。



「いずれにせよこの世界での本は、貴女の世界であるような娯楽のひとつとして使われるのではなく、あくまで資料ですね。

 古代から伝わる魔導書や魔術書、神話。学校や団であたらしく編み出された魔術について。我が国や他国の歴史、法律、動植物、民族、魔獣などについて。その他閲覧制限がありますが、皇国の各領地についての地図や毎年提出される報告書などですね」

「それだけでこの分量ですか……」



 わたしは思わずさして広くない書庫の壁一面の本棚をうめる革表紙を見まわした。

 いやいや恐れ入りました。


 

「ん? ということは、ですよ。サカスタン皇国ならびにその他の国では、娯楽小説……昔話や恋愛小説、サスペンス小説なんてものはないんでしょうか?」



 ファンタジーのジャンルがないのはわかりますよ。だってここの存在自体がファンタジーだもの。

 でも物語のない生活なんて、あり得るだろうか。互いに意思疎通のはかれる言語があり、イメージが鍵をにぎる魔術が発達しているこの世界なんだから……。



「いえ。そんなことはないですよ。貴女の国のように発達はしていませんが、多くの物語があります。ただそう言ったものは、高価な本に書き写すのではなく、口伝……正確に言えば、吟遊詩人など記憶や拡声の魔術を得意とする者が、詠いきかせます」

「吟遊詩人、ですか……」



 でたよでたよ。中世ヨーロッパだよ。

 さきほどまでいたルーカス氏の別邸の内装、それから騎士団の服装をみて、こちらの文明レベルを中世末期からいって近世のヨーロッパくらいと思っていたけど、吟遊詩人までいるとは思わなかったよ。

 

 なんですか、ハープとかリュートとかをつま弾きながら歌うんですか。ひとつ間違えれば間抜けにしか見えない、派手な衣装とか着てるんでしょうか。



「よくご存知ですね。私はあまりそう言った物語を聴きませんが、宮廷や貴族の館に出入りを許されている詩人の多くは見目麗しく、そして奇抜な格好をしています」

「あー……いずこも同じですねぇ」



 いまでも紙媒体の高いヨーロッパはもとより、日本でもこれだけ紙の本が安価に誰でも手に入るようになったのは、近代になってからだ。それまでは貸本、写本、それ以外なら落語や講談師の話を聴いてものがたりを楽しんでいたのだ。

 そして現在の落語家さんや講談師さんは、品の良い着物をお召しになる方が多いが。着物を日常としていた中世から近世の日本では、花魁のような豪奢な着物の方や、髑髏の縫いとりもどきつい方もおられたろう。


 ま、マンガや本からの知識なんで、ホントかどうか。その当時の「一般人」と比べるとどれほど浮いていたかは、分かりませんがね。

 うん。蛇足でした。



「しかしそうなると……ここに入るための許可証も、おいそれと発行はされなさそうですね」

「その通りです。この図書館には皇国すべての知識が集約されているといっても過言ではありませんから、他国の人間には原則、許可証を発行していません。わたしが保証人となって申請したとして、ユタカさん単独で発行されるかどうか……まぁ時間はかかりますね」

「ってことは、魔導とかで遠隔検索や閲覧なども……」

「許可されていません。さきほど申し上げたように閲覧制限をかけているものには、皇国領内の情報が網羅されているものもありますから。他国にもれないよう報告書そのもの、それからそれを納めている書庫、そしてこの建物全体に、強い結界を張り巡らしてあります」


「………あの。それだけ厳重に守られている情報を、わたしのような異世界人が聴いてよいのでしょうか」



 たぶん、この美しい顔やちょっと冷たい手よりは確実に白くない腹をお持ちのルーカス氏が、うっかりしたなんてことはないだろうけど。必要ないことは、あまり大っぴらに知りたくはないなぁ。

 いや自分でこっそり探るのはいんですよ?


 わたしの質問に、ルーカス氏はひょいっと形の良い眉をあげてから、それはそれは美しい笑顔を浮かべた。



「ご安心ください」


 

 ええその美しさたるや、わたしが思わず飛びずさって、この書庫から逃走したくなるほどでした。

 やらなかったけど。



「安心、ですか」

「人の記憶なんて、簡単にかえられますから」



 お父さんお母さん。あなた達の娘は今日、またひとつ賢くなりました。

 人間の外見の美しさと中身は、やっぱり反比例するんですねぇ………。

おもしろいサブタイトルは、なかなか思いつけませんね。プロットは固まっているのですが、情景描写が……。

毎日一話更新すべく、気合いを入れようと思います。

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