006 仕事を決めました。
なんとか日曜日にアップです。
気が付いたらばお気に入り登録が80件を超えておりました。ありがとうございます。まだまだ始まったばかりの物語ですが、よろしくお付き合いくださいませ。
「3名の方は、先日『冒険者』になられました」
美人お兄さんルーカスさんは、例の無表情笑顔をうかべるでもなく、淡々とそうおっしゃいましたが。
いや~ここ笑っていいところですかね、ダメですよね。でも笑いてぇ~~~。
さっき銀髪の渋い執事さんが持ってきてくれた、甘い花の香りのする飲み物を飲む前で、本当によかった。
さすが異世界。「冒険者」なんてニートをただ言い方かえただけのような職業が、存在するんだ!
いや、1年半も世界中を放浪していたわたしが言うのもなんですが。でもほらわたしは、自分自身の目で見て、触れて、嗅いで味わってみたかっただけだから。
行く先々でちょこちょこ働いてたし。
あ~でもこの勢いだと、職業「勇者」もいたりするんだろうか。あれでもそしたらその人が魔獣駆除をするんじゃないの? あら? それはまずいかも。「勇者」が商売敵になっちゃうってことだよね?
パイがどれだけあるかまだわからないけれど、強力なライバルがいるならば、過当競争の消耗戦につながるんじゃ………。
笑いをこらえているうちに、いつの間にやら魔獣討伐市場における生き残りについて、考察しかけたわたしだったが、
「そう。実は、その『冒険者』というものについて、ユタカさんにもお聞きしたかったのですが」
すこし困ったような表情をうかべて聴いてきたルーカス氏に、現実にひきもどされた。
「聞きたいこと。なんでしょう?」
おお! 美人のレア表情2、「ちょっと困ったな」頂きました~~!
なんていうこころの呟きはもちろん漏らさず、真面目にききかえす。ついでにお茶を頂いておこう。
「その…勉強不足でお恥ずかしい限りですが、『冒険者』とは、具体的になにをする者でしょうか。
サカスタン皇国には、魔術士や魔導士、騎士に戦士に様々な商人や雑役夫などがおりますが、『冒険者』に該当する職業はないと思います。
皇国内の安全を担う魔導団の隊長という職責がありますので、同盟国といえど他国にあまり足を踏み入れたことはありませんが、『冒険者』なる職業があるとは聞いておりません。
それになると言ってやめて行った3人は、私が日本で最初に募集した方々で、かなりひきとめたのですが……『冒険王に、俺はなる!』とおっしゃり、他の御二人も『じゃあ俺は剣豪で』などと賛同されまして……」
うん、うん。
偉いよわたし。ルーカスさんの最初のせりふで、よく茶をふかなかったよ。
喉はつまりそうになったけどね!
ほんっとに先輩方。お幾つかは存じませんが、なにしてはるんですか「冒険王」て。まんまマンガのノリじゃあ~りませんか。
「人材募集をかける際に、日本の職種や、よく使われている職業名についてはあらかた調べたつもりでいたのですが……。御三方の確信に満ちた表情をみていると、『冒険者』について詳しくきくのも何故かはばかられまして。他の方にお聞きしても、あまりご存知ないようで、明確な答えを得られずじまいで。
履歴書を拝見すると、ユタカさんは、いままで契約した方々とは少々変わった経歴をお持ちですから、その『冒険者』についても、なにかご存じではないかと」
はい、それ、褒め言葉ではありませんよね。お前みたいな変わったやつなら、答えられるやろ。そうおっしゃりたいわけですね?
うん。ようやく気づきました。結構わたし鈍かったようです。
お父さんごめんなさい。貴方の娘はまだまだです。
いま現在も浮かべたままのルーカス氏の「美人困り顔」。これはどうやら、餌のようで。この御仁はご自分の容姿の使い方をよくご存じだ。
確かにね。こんな美人さんが「どうしましょう?」なんて顔で見つめてくれば、男でも女でも、どうにか助けようと、思うかもね。
まぁ知りたいのは本当なんだろうけどさ。
諸先輩方が答えをぼかしたのは、一口に「冒険者」と言っても、職業としては説明しずらかったのかはたまた「冒険者てwww」と思いつつも、パイオニアたちを慮ってのことか。
いまのわたしのごとく、単純に説明するのが面倒くさかったのか。
「え~~っと。ルーカスさん。ご質問に答える前に確認なんですが。辞められた7人のうち、2人は商人に、3人は冒険者になられたのですね。あとのお二人はどうされたのですか?」
いずこでも、先輩のしりぬぐいは下っ端の役目よと、多少やさぐれた気分になりながらも、さきに聞きたい事を聞いておくことにした。
「あ、はい。そのお二人も『冒険者』になられた3人と同じくらい長く勤めてくださっていたのですが……。故国に帰られました」
「故国…、あぁ。日本ですね。親御さんが危篤になったとかの緊急事態ですか?」
先輩方の給与と勤務形態が、わたしの募集条件と同じだったとしたら、かなり美味しい条件のはず。すくなくとも、いまだ「不況」と騒いでいるだけの経営者の多い日本でならば、なかなかないものだ。
たしかに火を噴くスズメやそれ以上の魔獣の討伐には危険をともなうが、魔力もそれなりにあり、「勉強熱心な」人々であったのなら、身を損なうほどではなかっただろう。
そんな状況を蹴ってまで帰ろうというのは、家族の重大事くらいしかわたしには思いつかなかった。
「いえ。彼ら……正確には男女のご友人だったのですが、なんでも『ここではもう設定をやりつくしたし、ちょっとさすがにマンネリって言うか。いまいち萌えがないのも不満だったのよね』とおっしゃられて。
なんのかはわかりませんが、『祭りが我らを待ってる!!』という言葉を残して、帰って行かれましたね」
…………。
うん、うん。もはやなにも言うまい。
不可解……それから、不愉快?
そんな表情をかいまみせるルーカス氏には、その先輩方のはなった言葉の意味は、半分もわからないだろう。
だって彼にとってここは、自分の国で、自分の世界だから。生まれて育って、いまは国家の一員として支える世界。
対して、その7人の先輩たちにとってここは、あくまでゲームの中、物語の中の世界なのだろう。
我らが日本では、古典だけでなく、翻訳ものやネット小説を含めれば何万とあるファンタジー物語。魔法があって、魔ものがでてきて退治して。レベルアップして、スキルアップして、ダンジョン制圧?
乙女ゲームでは必ずでてくるイケメン要員とやらは、ルーカス氏やハッスナー隊長などで十分まかなえるはずだけれど、日本に帰られた先輩の不満要素は「萌え」らしいから……。女とみまごう美青年と筋骨隆々とした騎士とのほにゃららが観たかったのかも、しれない。
いや、現実ではそうそうそんなシュチュエーションはないと思うのだけれど。この無表情美人ルーカス氏が、そんなサーヴィス、というより想像の余地を残すとも思えないし。
まぁともかく。
異世界を十分満喫されたようでなによりです。よく死ななかったものだ。
サバイバル能力は別として、特にゲームの知識があるわけでも、ファンタジーおたくでもないわたしが、ルーカス氏から聞いて想像しただけで、魔法を簡単に操れたのだ。きっとゲームをやりこんでおられたであろう先輩方ならば、縦横無尽に使いこなし、豊富な知識であらたな魔術を編み出しもしただろう。
でもわたし達ヒトは、本来脆弱なものだ。
どれだけ魔力で補正されようとも、硬い鱗も大空を舞う翼も、薄い大気のなかでも動ける呼吸システムも獲物の肉をひきさく爪も牙も持たない身。気を緩めればあっという間に食われる側にまわってしまう。
事実、あまり魔力はないといっていたスズメ(ハーピーでした?)に、屈強そうな男たちばかりの騎士、20名で苦戦していたのだから、あれがこちらでのヒトの現実なのだろう。
それに、どんなに強力な回復魔法でも、首をとばされれば復活はできまい。
だから。
きっとこの美人兄さんが、陰に日向に、うまく誘導してくれていたのでは、ないだろうか。
「異世界」で「ゲームを楽しんでいる」だけだと勘違いしている人たちが、覚悟もないのに力だけ手に入れたバカ者たちが、死なないように。
なにを思って、わざわざ別の世界で、しかも戦も死も、どこかおとぎ話のようにとらえる者の多い日本の若者たちを相手にリクルートしているのか、わからないけれど。
誘った側の責任として、最低限命だけは、守ろうとしている。まだ出会って数時間のつきあいしかないけれど、わたしにはそう思えた。
うん、だから。
条件によっては、この仕事をしばらくやるのも、いんじゃないかといま決めました。まる。
もともとアナログ人間なので、ツイッターやなろうさんでもでよく使われている「www」の意味がいまいちわかりません。
間違っていたらば、こっそり教えてくださいませんか?