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005 美味しいものを食べるには?

午前中になんとか。なんて言いながら、うっかり夜です。

文字間、行間、一部表現を改正しました。内容は変わっていません(13.8.11)

ご指摘いただいた誤字を訂正しました(13.8.12)

 はい、皆様こんにちは。わたくし越谷優こしたにゆたか、28歳は、美人お兄さんルーカス・グラヴェト隊長に連れられ、サカスタン皇国の首都、アナウに来ております。


 いや~ヴィバ! 魔法。ここまであっという間でしたよ。


 どこでもドアかっと突っ込みたくなりましたが、あの後ルーカス氏が仕立てのよいスーツの胸ポケットから複雑な文様のかかれた羊皮紙のようなものをひっぱりだし、地面に放り投げまして。さらにわたしの手をとって、すっと羊皮紙のうえに手をかざしますと――――――


 書斎でした。それもやたら壁紙や家具が豪華な。


 あ、ちなみにルーカス氏の手は、予想どおりにちょっと骨細で冷たかったです。わたしの好みではないですが、手タレになれそうですね。


 さらについでに言うと、テーブルとベンチ椅子や珈琲カップにソーサーその他諸々必要ないものはちゃんと消して、真空保存したお肉と血の入った瓶と羽毛の袋は、亜空間(4次元ポケットと呼ぶことにしました)に、保管してあります。


 もともとこちらの生き物だし、掃除の過程で得たものだから、ルーカス氏に渡した方がよいかと確認すれば、



「貴女が狩ったのですから、お好きに。何故ご存知だったのかは分かりませんが、ハーピーの毛も血も嘴も爪も魔道具の材料として売れますよ。よろしければ販売の仲介をしましょう」



 またため息混じりの答えがかえってきた。


 ハーピーとはおそらくスズメ(確定)のことだとして。

 ルーカス氏よ。こちらではどうか知らないけれど、日本ではため息を吐くたび幸せが逃げるといいますよ? はいた分だけ吸いましょう。はい吸って~。


 なんてことは実際言わなかったけれど、きっと働きすぎなのだろうと勝手に納得することにして、勧められた椅子に腰かけた。


 うん。シェーンブルン宮殿や、ヴェルサイユ宮殿に、こんな感じの椅子展示してありましたね。いまルーカス氏が座っている椅子や、その前にある執務机も。手入れがとても大変そうです。




「さて……なにから話しましょうか」



 ルーカス氏は、わたしが先程感触をたしかめた、冷たくて細い手を顔の前で尖塔のようにして合わせ、口火をきった。



「まず私の正式な名前と職業からお話しましょうか。私の名は、ルーカス・ルリストン・グラヴェト。このサカスタン皇国魔導団の第二中隊隊長をしております」

「魔導団の中隊長さんですか……。ちなみに団の全体規模は何名で、部下は何名くらいの?」



 年齢をきくつもりも、聴く必要もないけど、たぶんルーカス氏は20代、いって後半だよね?

 それで中隊長ならば、やはりかなり優秀なのでは。



「私が率いている中隊は30名。中隊が3つ集まって大隊になり、さらに大隊が3つ集まって、団になります。貴女が助けたハッスナーの騎士団はまた構成がことなり人数も多いですが、簡単な魔術を使える人間は多くとも、実践レベルで使える魔導士は数が少ないですから」



 おお。さり気に核心にふれましたよ!


 魔導士は少ないとな。実践レベルというのがどのくらいのを指すのかはまだわからないとしても、ルーカス氏が募集していたのは清掃人で、体験でやったのは魔獣駆除なのだから、それをできるレベル、てことですかね。


 もしかしたら他国との戦争も含まれるのかも、だけど。



「実践、ですか」



 疑問を含ませてそう呟けば、ルーカス氏が指の尖塔をといて、苦笑してみせた。



「もし貴女が、実践を『戦』と解釈しておられるなら、ご安心ください。我が皇国はわたしが生まれてから、そしてその前も長らく他国と戦争はしておりません。

 まぁ国境付近の小競り合いや、山賊海賊夜盗のたぐいはいつの世にもおりますし、その討伐で動くことはありますが。小国をふくめた周辺各国とは相互不可侵の同盟を結んでおります」

「あぁ、それはいいですね。戦争は人的にも資源的にも大いなる無駄ですから、やらないに越したことはありません」



 仮想敵国にやられる前にやるとか。故国を守るために、であるとか。

 そんなものは、血を流さない戦争である、政治と外交のできない無能者の言い訳に過ぎない。

 そんなに戦争がしたいのなら、まずお前が「祖国のために」死ねばいい。


 おっと。 

 放浪最後の地、トルコはイスタンブールから日本に帰って来るときの便で読んだ記事。そこに載っていた間抜けな3世議員の談話を思い出して、ついつい黒い心があふれてしまいましたよ。


 ふふふふふ……。あの時は、そのままどこ行きでもいいから、一番早く出る便に飛び乗って、日本から脱出しようと半ば本気で考えたものです。



「あぁ、そうですね。貴女の国には戦争放棄をうたった法律がありました」



 わたしの表情からなにを読んだか知らないけれど、ルーカス氏が思い出したようにそう言った。



「よく、ご存知ですね」

「リサーチの一環です。貴女の故国日本は、その法律により得た長の平和のおかげなのでしょう、識字率就学率が高い。そして、魔力の多寡はありますが、器用なのでしょうか。それとも想像力が豊かなのでしょうか。

 コツさえつかめば驚くほどの短期間で魔術を習得されますから、私も驚いています。

 一部の者をのぞけば上位者からの命令に忠実ですし、仕事に対する責任感も強い。非常に優秀な民族だと思います」

「……過分な言葉、ありがとうございます」



 別にわたし個人をほめられているわけではないけれど、なにか照れますな。こうやって淡々と、しかも異世界の方にそう評価されると。



「あぁそうだ。そうやって謙遜するのも、国民性なのでしょうか。いままで10人以上と契約をむすびましたが、仕事熱心で勉強家の方ばかりで。こちらの魔導学校で10年以上かけて学ぶことを半年たらずで習得されるのに、さらに研究を重ねられる。しかも皆さんとても楽しそうだ」



 あ~~~~~。

 手放しに褒めてくださるルーカスさんには申し訳ないけれど、たぶん彼らは仕事のために頑張っているわけではなくて。


『異世界すげぇぇぇ――――――!!!』

『うなれ俺のこぶし、くらえ、ベ○ラマッ』

 なんて、あとで冷静に振り返れば自分をぶん殴りたくなるようなこっぱずかしいセリフを脳内で叫びながら、魔法を使っているに違いない。


 まぁ気持ちはわかるけどね。いままで画面の向こうにみていたものを、イメージするだけで、自分でだせるのだから。

 さらに我ら日本人には、世界に誇るアニメやゲーム文化がある。個々の想像力が豊かというよりも、幼少の頃よりインプットされた数々の映像が魔導に力をかしているのだろう。

 たぶん。


 かくいうわたしも、目が悪くなりそうとゲームはしてこなかったものの、漫画やテレビアニメは溺れるほどみてきた。箒にはまたがらなかったが、金色の雲で空を駆け回りたいとはずっと思っていた。

 そして未来の猫型ロボットは、あんな泣き虫のところではなく、わたしの元に来てくれないか、と。


 うん。先輩方のことを笑えませんね。



「え~…っと。10人以上契約されたということは、ルーカスさんの、あ、グラヴェト隊長とおよびした方がいいですね」



 話している途中に気づいて確認すると、無表情笑顔で「ルーカスと」、という非常に短い返事がかえってきた。

 うん。彼の地雷がよくわからない。とりあえず、ご自分の家名だか家門名で呼ばれるのは、いやらしい。たぶん役職も?



「では僭越ながら。ルーカスさんの清掃会社、でいんですかね。募集要項にはL.E.P.と書いてありましたが、そこには日本人の先輩方が10数名おられる、ということですか?」



 これまでの経験上、藪は不用意につつかないに限るので、ささっと話をすすめるべく、途中だった質問をしてみた。



「いえ。現在も継続して働いておられるのは、5名です」

「5名」

「はい」

「………それ以外の方は、いまはなにを?」


 

 さらりと流すつもりでしょうが、そこは突っ込ませていただきます。

 

 10名以上が契約、ようはこっちに来て「清掃」業をはじめて。魔力の多寡はあれど、ルーカス氏の口ぶりからすれば、使えない人間はいなかったはず。

 それが、どのくらいの期間かしらないけれど、残ったのは5名のみ。半分以下の残存率ということは、大けがか最悪死んで、戦線離脱したのでは? そうでなければ、ブラック企業はごめんとばかりに、遁走したのではなかろうか。


 て、ことは、ですよ。労働条件を包み隠さず話してもらい、折衝するなり、危険手当や補償をかなりの額提示してもらわないと、仕事を受ける気はありませんよ~~!


 自分の身は自分で守る。「だって教えてもらわなかったも~ん」が通じるのは、小学生までです。

 まぁ我が家では、小学生でも通用しなかったけどさ。



「…ユタカさん。間違いだったら申し訳ないのですが、5名以外の方は、亡くなったか大けがをしたと思っておられますか?」



 違うんですか? なんてことは、もちろん言いません。

 尋問の基本は、相手の底がつくまでしゃべらせることです。 

 はいともいいえとも答えず、「うんうん聴いてるよ。それから?」という笑顔で黙っていれば、相手はそのうち根をあげて、かってにゲロっ…っと失礼。お話してくれます。



「……誤解のないように、はっきり申しあげましょう。5名以外の方は、もちろんお元気です。そして、私の仕事を手伝っては頂いておりませんが、ほとんどの方はこちらの世界で暮らしておられます」

「こちら。サカスタン皇国に、ということですか?」

「あ、いえ。貴女の世界とは違う、こちらの世界に、ということです。私がいままで契約を結んだ日本の方は、全部で12名。そのうちの5名の方は、先ほど申し上げたとおり、現在もここサカスタン皇国で清掃―――おもに魔獣討伐ですね、をやっていただいております。

 後の7名のうち2名は商人になるなどして他国と皇国をいったりきたりしており、また3名は、先日『冒険者』に、なられました」



 ブッ


 至極真面目な表情でつげられたその言葉に、少々品の悪い音をたててふいたのは、しょうがないと思う。


次回投稿は日曜日までには。

御用とお急ぎがなければ、またお越しくださいませ。

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