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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
異世界で旅しよう・準備 編
56/95

044 旅とは三度、味わうものです。

ちょっと更新に間が空きました。リハビリ兼ねて、旅の準備編です。

「え~…っと。地図よ~し。コンパスよ~し。ノートと筆記用具よ~し。寝袋よ~し……」


 ウォークインクローゼットに箪笥の扉をがぱっと開けたまま。

 ふんふん鼻歌交じりに携行品リストにチェックを入れながら、ベッドの上に旅のお供達を置いていると、おなじく開けっぱなしの部屋の扉をコンコンと叩いて、ヤスミーナが声をかけてきた。


ゆたか様。研ぎにだしておられましたハンティングナイフセット、仕上がっておりました。どちらに置いておきましょう?」

「お、早いね~。ヤスミーナありがとう。御苦労さま。とりあえずベッドの上に置いてくれる?」


 今朝、市場へ買い物に聞いていたので、馴染みの鍛冶屋さんにお使いを頼んでいたのだ。鍛冶屋の親方は職人気質のおやっさん。

 いつお邪魔しても炉を覗き込んでるか鞴を踏んでるかハンマーで何かを叩いている彼は、わたしのように「ま、こんなもんか」なんて妥協をするわけもなく。

 刃こぼれに歪み、重心の狂いにその他不具合が少しでもあれば、徹底的に直してくれる。

 清掃作業という名の狩りの時にはめったにナイフ類は使わないし(なにせ相手がでかいし接近戦には向かないし)、特急料金を払ってお願いしたものの、まだ出来てないと思っていたのだ。


 えぇわたくしこう見えて、待てる女です。マスターピースに時間はかかることくらい、理解しておりますよ!



「どれどれ……おぉぉさすがマエストロ。すんばらしい仕上がり」


 ヤスミーナがベッドの上にそっと置いてくれた、巻物状の革のナイフ入れをくるくるくるっと広げまして。取り出しましたるは刃渡り8センチ、刃先にするどい返しがついたすぐれもの。透かしみるわたしの顔が映るほど磨かれたそれは、異世界こちらで、というか親方の工房で買ったので、たぶん金属の材質に性質はわたしの世界のものとは違うのだろうけれど、使い勝手は変わりません。


 あ、刀身と木の上から皮を巻いたグリップに隠れた部分に彫りこんだ模様みたいなもののおかげで、魔導具としても使えるすぐれものです。



 あ、いやね? 愛用のナイフなら、前から持ってたんですよ? 親愛なる父さまから、15歳の誕生日にもらったものを。

 飛行機の旅以外ではいつも携帯しているそれは、刃渡り7センチ。いまに比べれば筋力も胆力もなかったわたしでも使えるようにと、二つ折のポケットサイズ。


 猟の時期には手伝いに行っていたものの、日常的に狩りをしていたわけではないから、道具はすべてマタギのおっさんに預けていたのです。


 いやほら、銃刀法違反とかいちゃもんつけられたら、嫌じゃないですか~。


 ホームセンターでも買える包丁やアウトドア用品店に置いてるサヴァイヴァルナイフにくらべれば、下草刈るにも、ちょっとした枝切るにも便利な鎌や、薪割りにぴったりの鉈はよほど平和的なものだと思うんだけどな~。ホラー映画の影響ですかね。


 セバスチャン検索によれば、サカスタン皇国には日本のような刃物所持に関する制限はない。魔術に魔導を使えないなら、魔獣に対するには槍だの剣だの鉈で武装するしかないのだから、当たり前っちゃ当たり前ですね。あとは強盗夜盗対策とか。


 なので異世界こちらに引っ越してきたとき、買っちゃいました☆セット一式。

 いや~はじめて工房にお邪魔した時はテンションあがっちゃって、ちょぉ~っと親方にご迷惑かけちゃったかも。


 でもね、仕方がないとおもうんですよ。窓からさしこむ(あ、ちなみに。ルーカスさんクラスのお貴族さまの邸宅以外では、窓にガラスははられていません。鎧戸がわりの木戸か、せいぜい布です)陽の光をうけて、にび色輝く業物たち。


 後からきけば、盗まれれたり持って暴れられたりしないよう魔術で保護してある、壁に掛けられた剣や槍、テーブルに広げられた片手や両手ナイフ。売り子の少年に許可をもらってそっと取りあげ、グリップを握れば、丁寧になめされた革がしっくりと手になじみ。「これ全部いただくわ」。セバスチャンに止められなければ、そんな事を口走っていたことでしょう。



 厳選に厳選をかさねて選んだナイフは大小あわせて3本。それに小さめの片手斧と、先端が千枚通しにもなるシャープナーと、のこぎり型のナイフをセットにして、赤く染めたファングの皮で作ってもらった巻物状の道具入れにおさめて、嬉しげに毎日お仕事に持ってってますよ!


 狩りの間に使うことはないけど、ほら、その場で肉の味見する時とかね? 果物は……セバスチャンが剥いてくれるけど、まぁ切るとかね? お気に入りの道具って持ってるだけで、ご機嫌になりますよね。ほらOLさんのお気に入りステーショナリー、ポストイットとかペンとかと一緒ですよ。ね?



「優様。お持ちになる食器一式とリネン類は、すべてセバスチャンさんにお渡ししておりますので。お召しものはこちらで宜しいでしょうか?」


 主であるわたしが、ナイフセットをためつ眇めつしてはニタニタ笑っている間に。働き者の素敵メイドヤスミーナがそう言いながら、ベッドの上に、下着の替えやら寝間着代わりのワンピースやら洋服やらを積み上げてくれていた。


「あ、うんありがと」

「御所望の『カーゴパンツ』も出来上がりましたので、一緒に置いておきますね」

「おお、もう出来たんだ~仕事が早いね」


 むこうでの旅では必ず2枚は持って行っていた両腿、腰、御尻の部分にポケットがあり、裾の長さを紐で調節できる、カーゴパンツ君。

 16ないし17世紀の西欧世界と似通ったサカスタン皇国ではないものだし、たぶん他の国でもなさそうだから、変に目立ったらいやだなと思い、持っていくか迷っていたのである。


 が。キュロットに近いものならあるじゃないか、と。それを少々改造したデザインで、こっちの布でつくりゃいいじゃあないか、と。

 素敵メイドさんたちにお願いしてみたらば、ささっと採寸してさくっと作ってくれました。素晴らしい。わたしは幸せ者です。


「優様……」


 おおう、ストレッチ素材じゃないのに生地がのび~る! 締め付けな~し、180度(嘘です、わたしの脚はせいぜい150度までしか開きません)開脚可能! と、うきうきしながら珈琲色と朽ち葉色のパンツ2枚を試着していたらば、ヤスミーナが遠慮がちに声をかけてきた。


「ん、なになに? ヤスミーナ。ちなみにこのパンツの着心地なら最高だよ!」

「それはようございました」


 サムズアップで満面の笑みを浮かべれば、嬉しそうに笑い返してくれる。美少女の笑み、頂きました~!


「ですが……本当に、お召し替えはこれだけで宜しいのでしょうか。ドレスとまでは申しませんが、先日お作りしたワンピースはやはりお持ちになったほうが……」

「ん~~~。いやあの2着はすごく気に入ってるんだよ。気に入ってるんだけどね? 結界ははるけど、旅先では何があるか分かんないから、万一盗まれたらやだし。それに庶民旅行で着るには、ちょぉ~っと豪華かな~と」

「左様でございますか……」


 あぅ。美少女の哀しみ笑顔、頂いてしまいました。





 皇都の最新スタイルです!


 ある日のこと。ふわっふわした栗色の髪を弾ませながら買い物から帰ってきたアヌリンが、そのふっくら艶々とした頬を染めてそう言いはなち、魔改造したキヤ○ンプリンタ(電気ではなく魔力で動きます。インクはヨ○バシで買ってます)に手を添えて、記憶してきた(脳内カメラで撮ってきた?)ドレス達をプリントアウトしてくれた。


 へぇ~可愛らしいなと、暢気に何枚もでてくるそれを眺めていたらば、お茶のお代わりを持ってきてくれたヤスミーナのスミレ色の瞳が、きらりと光り。


「さすがアヌーね。こちらなど優様にぴったりだわ」

「でしょう! いつもスポーティなお召しものばかりだから、たまにはこういうのも」


 フリルとレースは女の子の夢よね~!

 目をきらっきらさせながら、手をあわせて歌うようにいう二人。


 あ、2人が着るんじゃなくて、わたしですか。いやでももうすぐ大台にのるわたしは女の「子」ってわけには……。


 なんて呟きが届くはずもなく。「優様の目の色が引き立つのはこちらとこちらの色です」と、いつの間にか参戦していたセバスチャンに押し切られる形で、選びましたよ。

 2着で許してもらったけど。ずろずろと長すぎる裾をあげてワンピース風にして、形もできるだけシンプルにしてもらったけど。


 自分で作るから楽しいんですと二人が言うので、何度か使っている某猫型ロボットの着せ替○カメラではなく、これまた魔改造したミシンで作ってくれたワンピース2着。


 1着は、ノースリーブのシンプルな藍色の地に、一方は左肩から胸にむかって、もう一方は右裾から太腿あたりまでふんだんに花や蔓草の刺繍を銀糸でほどこしたもの。ぐっと切れ込んだ胸元のラインと、薔薇に似た刺繍の花がとても美しいですね!


 もう1着は、ちょっぴりゴスロリ? と言いたくなるようなデザインで、スタンドカラーや袖口にふんだんにレースを配したボレロがセットになったもの。

 ドレス部分にはもちろん、胸元やら裾やらにもレースにフリルにビーズが大量に、あしらわれております。これでも襞だの膨らみだのをかなり削ってもらったんです。


 ちなみに、異世界こちらではもちろん、レースだのフリルだののを別の名で呼んでいるようですが、わたしの頭から毎回抜け落ちるので、悪しからずご了承ください。



 デザインを選んだあと、ものすごく残念そうにアヌリンがしまいこんでた他の紙には、指輪を捨てに行く映画でエルフの方々が着ていたボルドー色のドレスやら、袖の先まで細かく刺繍された白銀のドレスとかあったから、ある日クローゼットを開けたら入ってるかもしれないな……。


 ノリノリで採寸し、二日で仮縫いまで済ませた二人に囲まれ、そんな事を思いながら遠い眼をしたわたしです。




「アヌリンとわたくしが腕によりをかけましたあの2着は、本当に惚れ惚れするほど優様にお似合いで、セバスチャンさんも良くやったと褒めてくださいまして……」

「あ、うんヤスミーナ。もしかしたら旅先で必要になるかもしれないし、4次元ポケットにしまえばかさばらないから、やっぱり持ってこうかな」


 ヘタレとののしるなら、好きなだけ罵ってください。美少女の哀しみ笑顔を2度も耐えられるほど、わたくし強くはありませんでした。


「本当でございますか!? ならば御履物はこちらとこちらを、あぁそれからそれぞれ揃いの帽子とチョーカーもお作りしましたので、それも一緒にお持ちくださいませ。あわせるアクセサリーは……」


 わたしの言葉に花が綻ぶような笑みをうかべ、いそいそとクローゼットからワンピースとともに装身具をとりだすヤスミーナ。


「あ、うん……ありがとう」

「セバスチャンさんもおっしゃっていたのですが、最初に訪問される同盟国である隣国は、皇国こちらよりも華美を好むと聞いておりますから、やはりドレスも1着…いえ、昼夜とお召し替えすることを考えますと、最低2着お持ちになった方が」

「あ~、そうかもね。4次元ポケットに入れるから、多少荷物が増えても大丈夫だよね……」

「ですわよね! お任せ下さい優様。このヤスミーナが責任を持って、優様の旅支度を整えさせて頂きますわ!!」


 旅は常に身軽に、鞄はひとつで。

 使う「かも」は使わないもの。最低限の着替えと常備薬以外は、旅先で買うか借りるかすればよし。


 そんなわたしの旅の心得が、「今回はデジカメも持ってかないし、かさばる物はポケットに入れるんだから、より身軽じゃ~ん」なんて喜んでいたわたしの思惑が、がらがらと音をたてて崩れて行く。


「え……と、ヤスミーナ。セバスチャンと下で打ち合わせしてくるから、ここお願いできるかな?」


 じりじりと戸口に向かって後退しながら、あくまで軽い調子で声をかける。


「はいっお任せ下さい!」


 良いお返事でお辞儀をすると、ベッドが埋まりそうな勢いでクローゼットの中身をだしているヤスミーナ。


「じゃ、じゃぁ。宜しく~」


 へらりと笑いを返して、走らないように気合いを入れて、わたしは部屋を後にした。



 これは退却ではなく、戦略的転回です!

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