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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
異世界で旅しよう・準備 編
52/95

040 あれ?メデューサにジョブチェンジですか?

ルーカスさん、壊れました。皆さまの、予想どおりでしょうか?



 ううぅ………。


 助けてセバスチャンと、いつも素敵さ惚れちゃうね☆の我が銀色の執事様に助けをもとめようにも、いま現在お使いに出てもらってるので、不在なのでした……。



 いやね? 別にそこまで急ぎの用事ってほどでもなかったんだけど。ほら、なんでだか知らないけど、ルーカスさんてセバスチャンを嫌いっていうか、苦手としてるって言うか。

 本日はクライアント様であるルーカスさんのご機嫌を見はからいつつ、さっくりお休みをもぎ取―――頂くという、大切なミッションがありますので。

「しかしゆたか様…」なんていう、鼓膜を震わせ腰を砕けさせるセバスチャンの美声を振り切って、ひとりで来たわけですよ。


 ま、迎えに来るから必ず終わったら連絡をするように、約束というか懇願されましたけれど。

 もう~うちの執事さんてば過保護さん!



 え? スマートフォンであるセバスチャンに、アヌリンもヤスミーナもいないのにどうやって連絡するのかですって?

 そりゃもちろん、愛の力……って言いたいことろですし、わたしとセバスチャンの間には主従愛というものが確実に存在しますが、そうではなくて。


 はい、ここでもでました魔導クン。というか、魔術なんですかね? その区分を覚えたところでいいことは特になさそうなので、便利に使わせてもらってはいますが、いまだによく分かりません。

 まぁ兎に角、「セバスチャ~ン、終わったよ~ん♡」なんて心だか頭の中で唱えれば、あぁら不思議。

「賜りました優様」という愛しの執事様の声が、耳元で囁かれているかのごとく、聴こえるわけです。毎回腰にきます。


 あぁちなみに。聴こえると言っても、他の人には聴こえていないみたいだし、う~ん……ファンタジーもので時折見かける、念話みたいなものでしょうか。

 こっちにも似たような魔導だか魔術だかはあると思うし、他の人にも同じように出来るのかなと興味はあるけれど……まぁそのうち、暇になったら調べよう。




 それにしても、なんでルーカスさんはセバスチャンが嫌いもしくは苦手なんですかね。打ち合わせでよく使う書斎ここでも、うちでも、あんまり話しかけないし、もっと言えば目も合わせない。


 一応どころか、サカスタン皇国でも筆頭とよばれるくらい高位で実力のあるお貴族さまのお坊ちゃんだし。

 もしかしたら使用人(主従愛といいつつわたしは家族だと思ってるけれど)は家具や空気みたいなもので、目を合わせる必要も声をかけるつもりもないってんですかね何様ですか貴族さまですかごらぁ? と、それに気づいた時は、売られてもいない喧嘩を勝手に、買いそうになったけれど。


 ご自分の執事グレアムさんとは、あの無表情笑顔でない微笑みを浮かべて和やかに話しているので、それはない、と。



 で。


 最近よくよく観察してみれば、その笑顔に魂抜かれるぜ! のセバスチャンも、ルーカスさんにはみょ~に慇懃無礼というか。こちらは笑顔鉄仮面とでも呼びたくなるような表情を、彼に会う時はその素敵いぶし銀顔に貼り付けている。気がする。

 あ、最近はそうでもないけど、阪本先輩に対しても当初そうしてたかも。


 あらやだセバスチャンたら、実は人見知りさん? 何ソレ萌える!





 まぁそんな風に。人形のようにぴくりとも動かず、真っ黒な穴のような瞳をしたルーカスさんに立ち向かうのが嫌で、少々あさっての方向を見ながら考え事をしておりましたらば。



「・・…んで」


 元々の白を通り越してもはや透明? と突っ込みたくなる顔の下部分、青白い唇が動きまして、なにか言葉をつむぎましたよ、と。


「は?」


 予想よりはやく再起動してくれたらしいルーカスさんに、反応がおくれました。


「…なん、で、」


 うむ、以前からその疑いはあったけれど、実はルーカスさんは人形だったのだろうか。あ、魔導で動く、自動人形オートマタとか?

 きょうび、人間に似すぎて逆に不気味な某つくばのロボットでも、もうちょっとすべらかに喋ってくれますよ~?


 わたしとルーカスさんはサカスタン皇国の公用語のひとつ、他国との共通語でなく国内で使われる現地語の方で話しているのだけれど、いまのルーカスさん、外国の方のような発音ですよ?

 日本語をカタカナもしくはローマ字で表記しているようなと言えば、わかりますかね?



「ナン、デ? あぁ。何で、ですね?」


 そのカタコト発音を復唱して、意味を確認してから。わたしは少々考え込んでしまいました。




 なんで。何で旅行にくのか? それとも何で半年間も行くのか? でしょうか。


 その突っ込みを予想はしていたものの、なんかもっとこう~フランクに軽く聞かれるものと思っていましたよ。


 ふむぅ……さすがは責任感の塊かつワーカホリックのルーカスさん。魔獣はこっちの都合に関係なく突然出てくれちゃったりするから、それに対処していくうちに、余暇を過ごすという人間にとってとても大切なことを、忘れてしまっているのかもしれない。



 いやあっぱれ、皇国魔導師の鏡! ルーカスさんがいる限り、サカスタン皇国は安泰ですな!!


 そう褒めたたえたいところではあるけれど、お休みを半年以上頂こうとしている身としては、少々、いや大分、困る。




 そうだよな~前にフリーズしちゃった時も、仕事相手であるわたしに一緒に住もうって提案したくらいだもの。

 あれもきっと、魔獣が発生する度に呼ぶ手間を省くためだったのだろうし。2、3日以上の休みって予想しただけでも人員を配備し直そうとするくらいだから、半年もの長期の―――長期……うん、長期って捉えられるんだろうなぁ。


 でも長い人生のたかだか半年じゃん? 6ヶ月じゃん? 182日くらいじゃん? 時間にしたら……面倒くさいから計算しないけど、それにしたってそんなに長くないじゃん?

 ポレポレ(あ、スワヒリ語であせらずゆっくりと言う意味だそうです)の精神でいこうぜ!


 だいたい、わたしはしがないフリーランスの掃除屋さんではないですか。阪本さんを筆頭に優秀な社員さんが5人もいるんだし、なんとかなるっしょ。

 いや人が足りなくなったから人員募集してわたしを雇ってもらったわけだし、これで仕事干されても困るんだけど、でもな~お休みは欲しいしな~。

 わたしがいなかった状態に戻るだけなんだから、なんとかなる……っていうかしてくれよ社長ルーカスさんよ。




 な~んて心の声をぶっちゃけるわけにもいかず、少し俯き加減でほとんど空になったティーカップを弄んでいたらば。



「……んで、なんで、どうしてなんでなんでだってなんで貴女までどうして」


 向かい側から呪文のようなものが聴こえてきましたよ?


「…はい?」


 おおさすがルーカスさん。理由を聞きながらも、スケジュールをやりくりしようとしてくれてるんですね、集中のあまり独り言がだだ漏れてるんですねわかります。と、勝手に称賛と期待をこめたまなざしを向けて。




 逃げ出したくなりました。





「なんでなんですか何で師匠だけじゃなく優さんまでいなくなるんですか私、私の前からなんで皆いなくなるんですかどうしてなんで置いて行くんですか私が何かしたんですかなんでどうやったら側にいてくれるんですかどうしたら、嫌いなんですか私のことがだからいなくなるんですかもう嫌だ置いてかれるのは一人は嫌だ嫌なんです」



 うぉぉ~いい、何だこりゃ~。ルーカスさんが人形から、メデューサに変形してるんですけどー!


 うえ怖え。

 なまじ傾城傾国の美女(男だけど)、もしくは神々の領域といおうかとにかく人外指定したくなるほど美しい顔だから、表情が抜け落ちているだけでも怖いのに。

 相変わらず真っ白な顔色のまま完璧な形の唇だけがかくかくと動いて、ぼほノンブレスでわけのわからないことを言っているってどんなホラー。

 瞳孔が開きっぱなしなのか黒くみえる蒼い瞳を、ぎらぎら光らせながらだから、効果も倍増ですね!


 しかもえ、なんすか。魔力が駄々漏れって言うんですか?


 お貴族様の執務室にふさわしい、繊細にして華麗な彫刻が要所要所に彫りこまれている壁の棚やら、そこに飾られている美々しい置物やら、これで殴ったら人死ぬかも? って言うくらい重そうな大版の本が、落ちそうなくらいガタガタ揺れてんですけど。

 それから、割れにくいように魔術を使って作っているから、中々にお高いらしい窓ガラスが、ビキビキ鳴り出したんですが。

 あの、窓の向こうの木々が根元からってくらいぐるんぐるん揺れて、ついでに空が嵐と言うより竜巻みたいに黒い渦を複数作り始めてるのは、気のせいじゃないですよね?


 これ全部あれですか、なんかシュウシュウ言いながらルーカスさんの背後から立ち上る、黒い霧みたいなもののせい……なんですかね~?




 なんじゃこりゃ~~!




 某有名俳優さんの、某ドラマの死に際の台詞を吐きそうになりながら、顔をひきつらせて椅子に座ったまま後ずさろうとしていたらば。


 ゴンゴンゴンゴン!!


 少々、いやかなり大きな音で書斎の入り口の扉がノックされた。



 誰だか知らないけど、天の助けっ。アレを止めてください、お願いしますっ!!

やれやれ、さっくり優を旅にだしたかったのに、案の定ルーカス君がたたり神に。長々と引っ張ってくれやがって。

さて、天の助けはどなたでしょう?できるだけ早く、お見せしたいと思います。

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