028 今日も美味しくいただきます。
おびえる男ども(ルーカス君や名もなき秘書官)にちょっと厭きまして。皇帝の謁見の前に、優の日常を少々。和めるかどうかは、分かりません。
「優様、行ってらっしゃいませ」
「お怪我などなさいませんように」
はいはい皆様おはようございます。今日も元気だ仕事がんばろうの、越谷優28歳でございます。
いや~たとえ異世界だろうと、早朝の空気と太陽の光というものは、心が洗われますよね!
ただ今の時刻は、居間にある日本製の柱時計で5時すぎ。日時計か水時計しかないサカスタン皇国で言えば、夜明けすぐ、でしょうか。
近くの公園で餌をもとめてとびかう鳥たちのさえずりが聴こえてくる時間ですね。
「見送りありがとうねアヌリン、ヤスミーナ。朝早いのに」
あくまで控えめに、でもよくよく見れば繊細な織りのレースで縁取られたホワイトブリムにエプロンドレス。ほっそりとした腕を柔らかく包む半袖パフスリーブの紺色ワンピースのスカート丈は、足首まである長めのもの。ええもちろん、すべてわたくしの趣味でございますの、フレンチではなく正統派ビクトリアンメイドの衣裳に身を包んだふたりは、わたしの労いににっこりまぶしい笑顔をかえしてくれる。
「優様がお気になさることではありませんわ。ねぇアヌリン?」
「ヤスミナーナの言う通りです。主を見送るのは当然ですから」
素晴らしいよふたりとも。きらきら光るその笑顔には盛夏の太陽も負けそうだよ。ついでにわたしの目も。
「さ、優様。今日のお昼はクラブハウスサンドイッチをおつくりしました。朝をあまり召し上がっておられませんでしたから、ポムフリット(ふらいどぽてと)も多めにお入れしております。紅茶と一緒にお召し上がりくださいね」
「デザートはオランジーナのソルベです。どれも保温の魔法をかけてありますから」
胸の内で「目が~目が~」なんて馬鹿なことを言っているわたしに、天使の笑顔を浮かべて籐で編んだランチバスケットの中身を教えてくれる。
ふおお。しっかり封をしてあるから匂いはもれてくるはずないのだけれど、聞いただけで涎がたれてきましたよ。
美味しいご飯が待っていれば、労働意欲はいや増すというものです。越谷優、俄然やる気になってきました。
「ありがとう。今日も美味しいもの獲ってくるからね!」
明日の美味しいご飯の為、鼻息もあらく二人にわたしがそう宣言すれば、
「ふたりとも、留守を頼みましたよ」
今朝も渋いぜかっこいいぜのセバスチャンが、ヤスミーナからバスケットを受け取り、小脇に抱えていた日傘をさしかけてくれる。
「では優様。参りましょう」
セバスチャンがそっとさしだす、手袋に包まれた美しい手に手を添えて。懐から取り出しましたるルーカスさん特製の転送陣札、別名ドコデモドアに手をかざして。陣発動! さぁ、お仕事です。
○●○○○○
「お~かかってるかかってる」
転送した先、最初にこの世界に来た時に見た、ファン○ルンの森を大きくしたようなうっそうとした森の入口。そこに先日しかけておいた罠を覗き込んで、わたくし歓声をあげております。
「優様。あまり身を乗りだされますと、危のうございますよ」
到着した途端にわたしに日傘をさしかけてくれたセバスチャンが、やんわりと窘めてくれたけれど、浮き立つ心と身体は止められません。
この地区担当の騎士団から、魔獣の目撃情報が多くなっているのを聞き、ルーカスさんから依頼され、こしらえましたるこの罠。罠と呼ぶにもおこがましい、ただの落とし穴です。
はい。まず大きな穴を掘りまして。万一魔獣以外が落ちても大丈夫のように、下にはクッションとなる枯れ草なんぞん敷きつめて。上を木の枝やら葉っぱやらでカモフラージュ。重い獲物が通れば落ちて、中々上がれないように底に行くにしたがって穴は広くしてあります。ついでに鮮度を保つため、落ちたら深~く眠る魔導をセットしてあります。どうこのシンプルさ。
わたしは気遣ってくれている彼の為に数歩さがり、ニヒョニヒョと気味が悪いだろうなと自分でも思う笑顔を浮かべたまま、首だけのばして、穴の底でいびきを立てて眠る、小さいものでも体長2メートル以上ありそうな、猪に似た魔獣の数をかぞえた。
「ひぃふぅみぃよ……おぉ~大漁大漁。こんな簡単な仕掛けなのにねぇ。やっぱりこっちの獣くんたちは、罠に慣れていないみたいだね、セバスチャン」
「他国や狩りを専門とする集団でいくつか考案されているようですが。私の検索によれば、サカスタン皇国では罠を使って魔獣を捕えるという発想がそもそもないようでございます」
日傘をさしかけたまま、恭しく答えてくれるセバスチャン。
わたしを日差しから守るように後ろに立ってくれているので、いつもより距離が近く、その美低音がときおり耳にかかって、気を抜くと腰が砕けそうになります。
ダレ得? もちろんわたし得です。ご馳走さまです。
「ふむふむ。こちらの人にとって魔獣は自然災害みたいなもんだもんね。出てきたら逃げるか、魔導団か騎士団に知らせるくらいの選択肢しかないのか」
わたしの世界のものに比べれば、確かにこちらの魔獣は大きいし、毒はともかく火を噴いたりするから、魔力が少なく高価な魔導具、ようは武器となるものを持たない一般の人々ならば、自分たちでは対処できない。
さらに、知らされるたびに出動するものの、国が雇える人数には限りがあるし、騎士団だけではハーピー君を倒すのにも1個小隊でも厳しくて、犠牲を最小限に抑えるためには魔導師の援護射撃がいる。そして、魔獣を倒せるほどの力のある魔導師は、数が少ない。おかげでわたしは食いっぱぐれない。ありがたいこってす。
テレビでもパソコンでもゲームをしたことがないので、あくまで聞いた話でしかないけれど。いわゆるRPGもののゲームでは、倒された魔獣は、ピロロロンなんてお間抜けな音ともに煙と消え、後にレアアイテムやら宝石やらを残すらしい。
そんなゲームの世界のように、こちらにはわたしの世界の物理法則を無視したような魔術や魔導があるし、イケメン騎士や美人魔導師もいるけれど。最初に出会った魔獣がスズメを大きくしただけの外見をもつハーピー君だったため、駆除してもそんなゲーム展開になるとは思えず。
案の定、わたしの世界と同じく真っ赤な血が流れ、一瞬でカタがついたからほとんどしなかったけれど、紛れもない屠られた生き物の匂いがした。そして、美味しく頂けた。
あぁ、血も爪も毛も売れば結構な値になったのが、お約束と言えばお約束? ありがたいですね!
ルーカスさんと交わした最初の契約書から、きっちり記載した条項。駆除で倒した魔獣の所有権は、わたしのもにあるので、魔導器具の材料、原料になるものは状態保存をかけて、契約している複数の工房に売ったり、オークションにだしたりしてます。
え? それまで保管はどうするのかって?
そりゃあなた。四次元ポケットに保管ですよ。といってもいつも持ち歩いている仕事鞄のものは一時保管で、お家の納戸の扉に用途別に何個かつなげてありますから、優秀なメイドさんふたりが管理してくれています。あぁ素晴らしきかな異世界。トンデモ便利ですね!
ハッスナー隊長やルーカスさんに確認すると、いままでの魔獣駆除では倒すのに夢中で、武器や魔導具の材料に使える部位を獲るのは二の次三の次になっていたらしい。
ゲームでなれている阪本先輩や冒険者(笑)になったらしい他の先輩方は、狩る時に爪や牙をできるだけ無傷で獲れるよう、工夫していたそうな。でも肉は他の魔獣を呼びよせないよう、燃やしてたんだって。
「食べたら美味しいのに、勿体ないよねぇ」
今日のお昼ご飯、魅惑のクラブハウスサンドイッチの具だって、先日獲ってきたハーピーの燻製です!
あれから試行錯誤をヤスミーナの指導のもとした結果、燻製が一番美味しいということになりまして。いやもちろんわたしの好みですがナニカ? 獲ってきてばらして、いくつかに分けて、半分くらいは燻製にしてます。トリハムもできます。ジャーキー風にもします。うまし。
いやいや本当に魔法って便利です。ハーピー君はなにしろ大きいからねぇ。ハムにするための干す場所やら、茹でるための鍋やら燻製小屋どうやって作ろうと思ってたけど、イメージだけでレッツクッキン! 小屋なしで、 風と炎を少々操って時短で出来ました。
何度でも言いましょう、感謝しましょう。素晴らしきかな魅惑の異世界ライフ!!
そんな風にお昼のサンドイッチに想いをはせ、タレそうになった涎をセバスチャンに気づかれないようそっと拭いていたらば。
「……そもそも貴女のように簡単に倒せないのですよ。本来、魔獣というものは」
目の前の木立の間がゆらりと揺らめき、何故か朝っぱらから眉間にしわをくっきり刻む、不機嫌顔でもとっても美人のお兄さんが現れた。
小話と言いつつまた長くなりましたので、一旦切ります。
続きは明日までに必ず。
名前の誤字訂正しました(140206)




