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003 肉は冷めないうちに頂きましょう。

かいていると、お腹がすきます。お肉食べたい。

人物描写を少しだけ加筆しました(130816)

「ふおぉぉ……美味!」



 少々行儀が悪いかとは思いつつ。脂のはぜる音となによりもその香りに抗しきれず、味見と称してとりわけ用のナイフで、よく焼けた丸い腹の部分をちょいと切りとってかぶりついたわたしは、思わず歓声をあげてしまった。


 スズメ(確定)もいい具合焼けたので。せっかく美味しいものを食べるのだからと、大きな木のテーブルとベンチ型の椅子もだすことにして。

 いまはすっかり丸焼きになったスズメ(確定)を相手に奮戦していた騎士団の皆さんに座っていただく。



「さぁさぁ皆さん。猟の成果はみんなで分け合って、美味しく頂きましょう! あ、味が物足りなければ、テーブルの上に置いてあるハーブと塩とレモンをおかけください。お口に合うかどうかわかりませんが、我が日本の誇る醤油もなんならお出ししますよ」



 予想以上に美味なスズメ(確定)に気をよくしたわたしは、ルーカスさんに手伝ってもらいながら、大皿に肉を取り分けていく。


 先程の戦闘、わたしにすれば狩り、で疲れておられるのか、皆さんどこか呆然とした表情で、促されるままベンチに座り。目の前に置かれる肉と、ベンチの端に座った金の縁取りのマントを着た隊長さん? を交互にみている。


 はて。

 軍団でお勤めの方々がベジタリアンとも思えないし、調理方法がこちらと違うからとまどってるのかな?


 いつまでたっても手を出しそうにない彼らに内心首をかしげたが、食い意地には勝てません。わたしも自分の席につくことにした。

 ちなみにルーカスさんはどうするかと確認すれば、なぜか大きなため息をひとつつき、「頂きます」とのこと。


 いや、無理して食べる必要はありませんよ? ルーカスさんの分もわたしが美味しく頂きますから!

 ということで、まずは両手を合わせてごあいさつ。



「いただきます」



 なにせ、肉を焼いている間に、うずくまって悲しそうに鳴いているお馬さん達の治療もしたから、MAXハラペコーニャなのです。


 そう。最初は、消毒薬もきれいな水も添え木も当て布もないし、騎兵団さんのマントを布として借りようかなと思っていたけれど。

 ここは異世界(笑)。物理法則をまるっと無視した感じで袋やら瓶やらがでてきたんだから、イメージしただけで傷もなおるんじゃないの?

 そう思ってダメもとでおびえるお馬さんをなだめつつ、折れてるっぽい脚に手をかざしたらば。


 はい、治りました。


 ファンタジーの御約束(だと思う)、魔力切れとやらを起こしたらいやだし、騎士団の方にも治療師のような人がいたのでお馬さんの大きな傷だけにしたけれど。

 イメージするだけでみるみる傷がふさがっていく様は、映像の巻き戻しを見ているみたいで面白かった。


 というわけで、自分で言うのもなんですが、この糧をえるだけのいい仕事しました。

 よっしゃ喰うぞ!


 意気込みあらたに目の前の大皿から肉の塊をとってそのままかぶりつこうとしたわたしだが、正面から妙に強い視線を感じたので、顔をあげてみた。



「……? ほら、団長さん? 隊長さん? も食べましょうよ。肉が冷めますし、お腹すいてるでしょ?」



 そう言えば自己紹介してないやと思いつつ、正面にすわる、金縁マントの君に声をかけてみる。


 兜をとったその顔は意外に若く、30代半ばくらい?

 余分なものをそぎ落としたような鋭角のフェイスラインの肌は、陽に焼けたのか地なのか美しい褐色で。黒々とした太いまゆげに、影ができるほど彫り深いの奥の目は……こげ茶色かな?

 その眼がすこし困惑したような色を浮かべて、こちらにひたりとあてられている。



「……お気づかい感謝する。そして、我が隊を救ってくれ、かつ治療までほどこして頂き、感謝のしようもない」



 きっと真面目な性格なのだろう。それと律儀?


 鼓膜を心地よくふるわすバリトンボイスでそう言うと、隊長さん? は太い首にささえられた頭をすっと下げた。

 さらには彼に注目していたらしい他の騎馬隊の面々もそろって頭をさげたので、肉ばかり気にしている自分が、ほんのすこしだけ恥ずかしくなった。



「あ~いえ。お役に立ててなによりです」



 だから早く食べましょうね?

 適当に答えつつそう促せば、ようやく皆様箸、ではなくフォークとナイフをとってくれた。


 やはり調理方法がちがうのか、最初はおっかなびっくりほんの小さなかけらを口に入れていた騎馬隊の皆様。しかしすぐに、あちこちからうめきともとれるような声が聴こえ、後は先を争うようにしてがつがつ食べはじめた。


 うむ、そうだろう、そうだろう。我ながら会心の焼き加減だからね。


 ひとり悦にはいって、ついでに隣にすわるルーカス氏を伺えば、やはり驚いたような表情をうかべて自分の皿とすでに半分くらい解体されたスズメ(確定)の残骸を見比べたあと、優雅かつ高速で、ナイフとフォークを動かし始めた。


 勝った。


 なんとなく心中ガッツポーズをとりながら、わたしも自分の皿をきれいにしていく。

 ふ~む。次は醤油とレモンのコンボにしよっかな~。あ~そうだ、パン欲しいな。この肉汁をパンですくって食べたらさぞや……。


 そう思いついたわたしは、さっそくバゲットとフォカッチャを人数分、籠にもった状態でイメージしてだすと、テーブルに配置した。



「……ユタカさん。これは?」



 突然でてきたパンに手をのばし、ルーカス氏が興味深げに手触りを確かめている。



「バゲットとフォカッチャと呼ばれるパンです。こうやって好みの大きさに切って、お肉のソースをつけて……うまっ」



 ルーカス氏の質問にこたえつつも、ちゃんとイメージしていた通りの外はパリパリ、中はもっちりのバゲットに、声を抑えられなかった。


 さすがわたし。これはあれですね。Biggoのバゲットですね!


 でたらめなほど便利な魔法に、さらに感謝の念をささげてわたしが夢中で食べれば、騎馬隊の皆さまも、ルーカス氏も同じように食べ始めた。






 何度か追加の肉をとりわけて。


 わたしはもちろん、肉体労働職の騎馬隊の皆さまも十分満足されたご様子なので、残ったお肉は燻製にしてフリーズバッグに真空保存して、野っぱらに置き。皿やナイフなどの食器類は消し(う~んなんか、目の前から消えるようイメージしたら消えた)。


 現在は食後の珈琲を楽しんでおります。


 あ、騎馬隊の皆さんはそっちがいいと言ったので、レモンとミントを入れたお水を用意しております。ルーカスさんと隊長さん? だけは、わたしと同じく珈琲。ルーカスさんがこちらにはないと言っていたのに、隊長さん(もうこれでいいや)は、案外チャレンジャーだな。



「あなたは……魔導師か?」



 最初はやはり恐る恐る口をつけていたが、香りが気に入られたよう。砂糖(こちらでは高級品らしい)とミルク(牛ではないけれど、ヤクに似た動物から取れるものがあるらしい)もすすめたが、ブラックのまま味わっていた隊長さんが、おもむろにそう聴いてきた。



「自分は、皇国騎士団の第7中隊、隊長を務めているエラム・ハッスナーという。初めてお目にかかるが……グラヴェト隊長といっしょにおられるということは、皇国魔導団に所属しておられるのだろうか」



 思わずふれたくなるような、無骨で大きな手を器用にあやつり、わたし好みの(ま、自分でだしましたから)白いコーヒーカップをテーブルに置いて、隊長あらためハッスナー氏が真摯に名のり、質問する。しかも、「これほどの魔導をあやつる方を知らなくて申し訳ないが」という謝罪つき。


 うわ~あんさん、お人が良すぎとちゃいますか~~。


 こんな変な格好つなぎで突然出てきて、肉(魔獣)をがつがつ喰らう怪しい女に、丁寧に対応するハッスナー隊長に、わたしの脳内関西人が思わずつっこみをいれてしまった。

 こんなにまっ正直な人が隊長なんてして、大丈夫なんだろうか。騙されやすそう。


 お腹の中と外はつねに一緒にしておきたいわたしとしては、素直な質問には素直にお答えしたいところだが……。

 隣で、音もたてずに優雅に珈琲を飲んでいたルーカス氏をちらちと見やれば、



「エラム。彼女……ユタカさんは、異国から私が招いた魔導士です」



 やはり音をたてずにソーサーにカップをおいて、にっこりと笑ってお答えになりやがりました。


 うん。嘘は言ってないね。異国って言うか、世界も違うけど。

 ルーカス氏が募集したのに応じたのはわたしだし、清掃業だと思って派遣登録しようとしたけど、どうやらこちらでの職種は「魔導士」らしいし。



「異国……なるほど。ユタカ、殿とおよびしても良いのだろうか」

「あ、はい。優がわたしの個人名で、家名は越谷こしたにですが、おそらくこちらの方には発音が難しいとおもいますので」



 履歴書の名前確認の際、ルーカス氏も「し」が発音しずらい様だった。

 案の定、ハッスナー隊長も苦戦している。ノミで彫ったような頬と、線をひいたようにまっすぐな唇を歪ませて、なんとか発音しようとしている様を存分に愛でた後、名前を呼んでもらうことにした。


今回は改行や行間の調整に時間がかかりました。

次話は、明日のもう少し早い時間にUPします。

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